新時代の幕開け
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「ど・う・い・う・こ・と・で・す・のッ!?」
「ん?」
激動の一夜が明けた翌朝。
セレナは目を瞑りながら眉間に皺を寄せて、客室のベッドからすまし顔で身支度を整えるルータスへと力強く詰問する。
対するルータスはセレナの様子を訝しみながらも視線を向けることなく、はてと短く返事するのみ。
「どういうことかとッ! 聴いているんですわッ!!」
そんなルータスの態度に対して、痺れを切らして抗議の視線を向けながら強い口調で問い直すセレナ。
しかしルータスにはそのように謂われる覚えはなかったため、再度頭に疑問符を浮かべながら短く聴き返す。
「何がだ?」
「昨日皇帝陛下の命によりッ! 私は奴隷身分となりッ! 晴れてライゼルフォード家の使用人となりましたわよねッ!?」
「あぁ、思いの他陛下もすんなりと受け入れてくださった。俺の転生前の出自すら知られたにも関わらずな。ブリード様とカルラ様の口添えが存外に大きかったのだろう」
目を瞑り軽く笑みを浮かべながら、昨日の成果に満足している様子のルータス。
しかしその的外れな態度が、セレナに奥歯をぎりりと噛み締めさせることになり、更に強く詰問させることになる。
「そうではなくッ! 約束してくださいましたわよね!? ライゼルフォード家の使用人となった後は毎日同衾することになると! だからこそ……、だからこそ初夜である昨晩は、特別可愛らしいモノを身に着けておりましたのに……ッ!」
セレナは羞恥に耐えながらもそう言い切ると、キッと鋭い視線をルータスへと向け直すがーー
「その通りだな。おかげで昨晩は久々によく眠れた。感謝するぞセレナ」
「まさか本当に同衾するだけだと誰が思うんですのッ!?」
「……そうかい?」
ルータスは少しも表情を変えることなく、相変わらず目を瞑りながら薄く笑みを浮かべており、淡々と身支度を整えてゆくのみだった。
ルータスの変わらぬ平然とした態度に、赤面しながらもセレナは声を上げるがーー
「当たり前ですわッ! おまけにベッドに入るや否やすぐに眠ってしまわれる始末で……ッ、これでは期待して念入りに準備していた私がまるで馬鹿みたいではないですのッ!!」
「ならば一緒に眠るのはやめるか?」
「なッ……!? それは……ッ!」
ルータスの思わぬ言葉にセレナはうぐと戸惑い、上手く言葉が出せなくなってしまう。
セレナは昨晩まで、自身がこれだと決めた男性に身を捧げることができる悦び、初めての不安と期待が入り混じった複雑な感情、そしてなにより将来の展望が開けたという安堵に脳内を支配されていた。
皇帝陛下に事の全てを明かし、自身の処遇もすんなりと決まり、何もかもが上手くいくはずだった。
そして主人であるルータスと同室でいられるように皇帝陛下へと頼みこみ、希望通りに事を進めることにも成功したはずだ。
事前に浴場へと足を運び、頭のてっぺんから足の爪先まで、悉く念入りに、滑らかで張りのある肌を何度も何度も素手でボディソープを練り込んだ後、丁寧に洗い流した。
普段は纏めあげている長い金髪も、両の手のひらで優しく愛おしむようにやんわりと挟みながら、毛先に至るまで手入れ済みだ。
あとは野となれ山となれだ。
旦那様に優しく手ほどきをして貰い、魅惑の一時を共にしようと、セレナは柄にもなく期待に胸を膨らせていた。
だからこそ、期待を裏切った責任をとれと詰め寄ったのに、今後は一緒に寝ることすらやめるかと提案されては、セレナが言葉を失うのも無理はなかった。
そんなセレナの内情など知る由もなく、ルータスは更に言葉を続ける。
「俺は前世で未婚だったが……、実の娘同然に可愛がっていたのが魔王軍四天王の彼女達でな。彼女ら四人を小さな頃から同じ布団で寝かしつける習慣があったからこそ、昨晩は懐かしい気持ちに包まれた。まぁ、疲れがたまっていたからなのか俺の方がすぐに眠ってしまったがな」
「……つまり私を娘扱いしていると? そのために毎日同衾することになると……?」
セレナはルータスの言葉に全てを悟り、わなわなと打ち震えながら、ぐしゃりと両手で握り込むようにシーツを掴んだ。
「……? それ以外ないだろう? なんだと思っていた?」
対するルータスは、この時初めて視線をセレナへと向ける。
「……ッ! 知りませんわよッ! 旦那様はそうやって、一生鈍感の限りを尽くしていればいいんですわ! 今日は朝食後、フラン達と皇帝陛下へ再度謁見するのでしょう!?」
ルータスと目が合ったセレナは赤面して、半分自棄になりながらも話を逸らしたがーー
「なんだ、腹が減っていたのか。それならそうと早く……、いや、そういうことは年頃の女の子に言ってはならないんだったな。ならば着替えを済ませてから皆と朝食の場で合流しよう。俺は先に行っているぞ」
あまりに見当違いなルータスの発言に深く嘆息しながらも、しゅるりと静かな衣擦れ音をたてながら、渋々と、それでいて上品にベッドから抜け出る。
この調子では先は長そうだと、長い道のりだと、がくと落胆しながら、セレナは寝間着に手をかけて身支度を始めるのだった。
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「ルータス様、おはようございます。またその仮面を付けられているのですね」
「あぁ。おはよう、シンシア。君一人か?」
朝食の場までの豪華な装飾が施された長い廊下のT字路で、ルータスは騎士装束のシンシアにばたりと出くわす。
シンシアは挨拶を済ませ、ルータスの特徴的な仮面にじとりと視線を向けた後、きまりが悪そうにしながらゆっくりと言葉を続ける。
「……はい。皇女殿下とフラン様はもう少し準備に時間がかかるそうで。……それはそうとルータス様、昨日はやはりセレナお嬢様と……?」
「? あぁ、おかげ様で久々によく眠れたな。セレナには感謝している」
「よく眠れた……? 寝られなかった、いや寝かせなかったのでは……?」
「それなんだがな。ベッドに入るや否や、俺は眠ってしまったようだ。前世でもセレナの年齢程の娘達を寝かしつける習慣があったから、懐かしい気持ちには包まれたが、どうやら疲労には勝てなかったらしい」
「それでは……、セレナお嬢様と毎日同衾するとおっしゃったのは、前世を懐かしむためだったと……?」
「そうだが?」
ルータスの首肯を確認すると、纏め上げた美しい銀髪をふぁさと靡かせながら、ぱぁっと花開くような笑顔を見せてシンシアは言葉を続ける。
「そ、そうですか! そうですよね、うん……、うん……! 良かったぁ……!」
「……? まぁ良かったのならそれでいいな。さて、朝食を済ませよう。後から聴かされたと思うが、今日は皇帝陛下に大事な提案をするつもりだ。本当は昨日君達と済ませたかったが、何故か石像の如く君達は固まってしまっていたからな」
ルータスの指摘に対して、シンシアは何も言い返せなかった。
唯一彼女が出来たのは、かぁと顔を赤らめて俯き、押し黙ってしまうことのみ。
シンシアからしてみれば、昨晩のルータスの言葉が衝撃的で、ルータスとセレナを主題とした如何わしい妄想に支配されて、完全に固まってしまったなどと誰に言えようか。
仮にも私は誇り高きヴェルビルイス帝国マリーゼ皇女殿下お付きの護衛騎士団長であるし、ましてやその対象であるルータス様になど口が裂けても言えるはずがない。
シンシアはそのように思考を巡らせ、心中で強烈にルータスへと抗議しつつも、彼の発言で気になった点を明らかにしようとする。
「……それなのですが、内容を聴かせていただいてもよろしいですか?」
しかしーー
その内容こそが彼女達を取り巻く環境を大きく変えてしまい、そしてヴェルビルイス帝国中のまだ見ぬ強者を集結させることになり、ひいては新たな時代の幕開けとなるなど、この時のシンシアには予想も出来なかった。
ーー奴らに対する備えとして、特務執行機関の造設を要請する。それもハーヴェンブルク不滅の魔王、レヴィア=フランツィスカ=シュレースヴィッヒとも交渉して、両国の合同機関とするつもりだ。
また正体を隠す気でいるのかこの男は……
【追記】
12/1 16時ごろに次回投稿します!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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