黒衣の仮面の男、ついに正体を現すが更なる修羅場に巻き込まれてしまう①
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「敬語は引き続きやめておくぞ。立派に成長した貴女を、あしらっているなどと勘違いされては困るからな」
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「嘘…………」
「ル、ルータス……様……?」
仮面を完全に外した男の顔を確認するとーー
マリーゼとシンシアは独白するように言葉を発してしまった。
そして同時に、その整った美しい顔に驚愕の表情を浮かべて感涙に至る程、彼女達は心を動かされていた。
二人の人生を変えた張本人であり、かつ長年想い続けた人物がやっとのことで目の前に現れてくれたのだ。
彼女達がそうなるのも自明の理だったのだろう。
そして己の登場に涙してくれている彼女達を見た男は、優しい笑みを浮かべながら温かい眼差しを彼女達に送り続けた。
それから男がひとしきり彼女達の様子を確認し終わると、今度は残りの二人に視線を変えて口を開いてゆく。
「そちらの二人には初の顔合わせとなるわけだな。あらためて自己紹介しよう。俺はルータス=エヴァン=ライゼルフォード。今世はヴェルビルイス帝国ライゼルフォード公爵家嫡男にして、エヴァン=エルグリム=ライゼルフォードの一人息子だ。前世は先程述べた通り、ハーヴェンブルクの魔族だった。そして魔王レヴィアの腹心であり、魔王軍四天王を配下に置いていたおっさん魔元帥でもあった」
伝説と謳われている魔王軍四天王を従えていたと、あまりの重大発言をさらりと口にするルータス。
しかし、そんなルータスの発言にも冷静にセレナが返答する。
「……御高名はかねがね伺っておりましてよ。ライゼルフォード家といえば、魔物討伐の華々しい功績を上げ続けながらもハーヴェンブルクに対しては穏便派を貫き通している変わり者の公爵家。特にその子息は格別で、ヴェルビルイス剣術学院に入学しながら魔法の腕前も超一流だと風の噂で耳にしたことがありますわ。……しかしその一方で、ヴェルビルイス剣術学院のレヴェルについてこられず逃げ去った出来損ないだとも聴いておりますわね」
「セレナお嬢様、私もその噂は耳にしたことがあります。しかし後者は恐らく妬みの類かと思われます。先程森にて彼と対峙しましたが、魔力にて身体強化を施した私の太刀筋すら全て見切っておりました。ヴェルビルイス剣術学院でもセレナお嬢様程の実力者でない限りは到底無理な芸当です。大方彼が在学中に行方不明となったのをいいことに、あることないこと言いふらした輩がいたのでしょう」
幾つもの修羅場を潜り抜けてきた二人は、ほとんど動揺している素振りを見せずにそう言い切った。
そんな彼女達の毅然とした態度に感心しながら、ルータスは悠然と口を開いてゆく。
「随分と評価が高いな。自力で俺の隷属印を破った天啓の勇者が末裔、フラン=ローゼル=レヒベルクにそうまで褒められては俺の剣術も捨てたものではないな」
「なっ……、貴方がフランに……ッ!? それも隷属印を自力で破った……ッ!?」
自らの執事に隷属印を施したのは、命の恩人である目の前の男だったーー
その驚愕の事実には流石のセレナも目を見開いてしまい、男の発言が本当に正しいのか確かめるために、すぐさまフランへと顔を向けた。
視線を向けられたフランは何も口にすることなく、ただゆっくりと首を縦に振り、肯定の意を示した。
そしてさらにルータスは言葉を続けてゆく。
「あぁそうだ。だがそちらの執事サマに直接施したわけではない。今より千年前、天啓の勇者ローゼルがハーヴェンブルクに攻め込んできた際に俺が施した隷属印、それが子孫代々受け継がれたのだ。勿論彼だけではない。天啓の勇者一行の戦士レオル、精霊魔法師ラディアナ、大司教ロザリアにも同時に隷属魔法を施した。彼らの子孫がこの時代にも生きているのならば、同じように隷属印が施されたままだろう。つまり俺は君達ヴェルビルイス帝国の忌むべき宿敵というわけだ。……さぁどうする?」
そうしてセレナ達を試すような、見定めるような視線を向けながらルータスは返答を待っていたがーー
「ルータス」
口を開いたのは、しばらく傍観していたマリーゼだった。
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そして重苦しくも真剣な表情でルータスを見つめながら、マリーゼはゆっくりと言葉を続けてゆく。
「今まで何処に行っていたのか、前世が魔族だったとはどういうことかなど、聴きたいことは山ほどあります。しかし私にはそれを聴く権利がない。何故なら私は……、貴方を捜し出すことをほとんど諦めてしまっていたのですから」
そこまでマリーゼは言い切った後、話す途中で俯き加減になっていた顔を急に上げてルータスを見つめ直した。
「しかし貴方に感謝の言葉は伝えたい! 私を……、いいえ、私達を救ってくれてありがとうと! この感謝の気持ちは、セレナ、フランの二人もきっと同じのはずです!!」
そして意を決したマリーゼは、引き続き真剣な表情でルータスへと訴えかけた。
貴方は感謝されるべき存在だと、そして感謝しているのは私だけではないはずだとーー
ルータスは反応を確認するために、セレナとフランに視線を向ける。
すると彼女達は一瞬互いに目を合わせた後、軽く笑みを浮かべながら短く頷くことで返答した。
そんな彼女達に対して、ルータスはゆっくりと問いかけてゆく。
「……いいのか? 特にセレナ、君はずっと心に誓っていたんだろう? ハーヴェンブルクを征服せねばならないと。それがヴェルビルイスの民を守るために必要不可欠であると。それなのにハーヴェンブルク穏便派であり、かつ君達の宿敵の魔族だった俺を簡単に受け入れられるのか?」
「えぇ、確かに私は強烈なハーヴェンブルク征服派ですわね。……ですがそれは、人々を苦しめる魔物はハーヴェンブルクの魔族が使役していると考えていたからこそですわ。貴方が施した隷属印も、自国を守るために施したのですから仕方ありませんわ。それに私、なによりもーー」
セレナはそこで一旦言葉を区切り、花開くような笑みを浮かべて言葉を続けた。
受け入れられないような相手に接吻など、とてもではないですができませんから。
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「さて」
しばらくの間ルータスに笑顔を見せ続けていたセレナは、場を仕切り直すように口を開いた。
「そろそろ私はこの場を去りますわ。真の敵を見定められず、何も知らないお父様とお母様を手にかけてしまった大罪人と成り果てたこの私が、これ以上救国の英雄と皇女殿下のつもる話を邪魔することなどあってはなりませんわ。……それにこれ以上貴方の顔を見ていると、死の覚悟が揺らいでしまいそうですから」
一転して重苦しい雰囲気がその場に立ち込めた。
まだそんなことを言っているのかと、考えを改めてもらわねばならないと、フランが主人を諫めるために口を開こうとするがーー
ルータスはそんな彼女を手で制しながらセレナへと口を開く。
「……君のお父様とお母様は「慰めの類は一切不要ですわ」……」
しかし、途中でセレナはルータスの言葉を遮ってしまった。
そしてセレナはフランの方へと顔を向けて優しく諭すように言葉を続ける。
「フラン、先程私が言ったように貴方の罪などこれっぽっちもないんですのよ。仮にあったとしても、十分に償える範囲ですわ。しかし私はそうではない。数えきれないほどの過ちを犯し続けて今もなお生き恥を晒している。だからせめて、ステラヴィゼル家の誇りにかけて最期くらいは綺麗に散ろうと思いますの。それと貴女に後追いまでさせたとあっては、天国にいるお父様とお母様に更に顔向けできないではありませんの。主人である私をこれ以上困らせないで欲しいですわね」
さらにセレナは再度ルータスへと向き直り、優しい笑みを浮かべながら語りかける。
「ルータス=エヴァン=ライゼルフォード。貴方はあろうことか、こんな最低な私の減刑まで皇女殿下に進言してくださって、いくら感謝してもし足りないですわ。……ですが、それは私にとって完全に有難迷惑。どんな状況だったにせよ、このセレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルが尊属殺に至ったという事実は決して変わりませんもの。誇り高きステラヴィゼル家の名をこれ以上貶めたくはない。そのために大人しく相応の刑罰を受けること、それが私にできる唯一の、死んでいったお父様とお母様に対する手向けでもあると思っておりますのよ。だからどうか、私のことを少しでも慮っていただけるのならば、大人しく幕を下ろさせて欲しいですわ」
セレナの殊勝な心がけを聴いたルータスは、しみじみと彼女の言葉に感動しながらゆっくりと口を開く。
「……やはり君はどこまでも高潔で美しいんだな」
そんな心の底からでたのであろうルータスの言葉を聴いてーー
セレナは目を瞑りながらふっと笑った後、満足げに言葉を続けてゆく。
「あえて否定はしませんわよ? 貴方のその優しさ、胸に秘めたまま生涯を終えたいと思ってしまいましたもの」
ーーが。
「……そうかい? だがーー」
何もかもの覚悟を決めたセレナだったのにーーこの後とんでもないルータスの言葉を耳にして、号泣してしまうのだ。
「そんな君をあちらの扉にいるご両親は、これからも見守っていたいようだがな」
【再追記】
10/19の0:30までに次回投稿します、30分延長させてくださいすいません!
次回でルータスの失踪からセレナの両親が生きている理由まで明らかになります!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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