追憶の彼方
評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
ライゼルフォード家 貴賓室
「見つからなかった……ですって?」
翌日の夜ーー
お父様に要請した捜索部隊の長であるスヴェンから結果を聴いた私は放心状態だった。
彼が率いる第七宮廷魔法師部隊は諜報専門の部隊であり、普段は周辺国の諜報活動に勤しんでいる。
構成員は探知系の魔法に優れた者で構成され、取り分け魔力感知については敵の戦力を知るために必須だったため、よく訓練されていたのだ。
その魔力感知のエキスパート集団が、あれほど膨大な魔力を有しているルータスを半日かけてもみつけられなかったというのだから私が絶望するのも無理はなかった。
「申し訳ございません、マリーゼ皇女殿下。魔力感知に長けた腕利きの宮廷魔法師達を集めて大規模に捜索いたしましたが……、ルータス=エヴァン=ライゼルフォードの魔力は感知できませんでした」
それでも……、そんな絶望的状況でも私は簡単には認められなかった。
もし簡単に認めてしまったならば、3年もの間彼と過ごしてきたーー、他でもない私自身を否定してしまうような気がしたから。
「そんなはずはない……ッ! ルータスの魔力総量は人知を超えていると言っても過言ではないのは貴方も知っているはずでしょう!? とてもではありませんが見過ごしなどあり得ないはずです!」
しかし彼の口から出た言葉は私にとって、どこまでも残酷な推断だった。
「えぇ、ですから……」
「残念ながら、彼はもう死んでしまっているのではないでしょうか」
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「スヴェン、何ということを……ッ!? 父親であるエヴァンもいるのですよ!」
私は隣で一緒に報告を聴いていたエヴァンを慌てて見たが、ひとまず彼が取り乱す様子はなかったため安堵した。
しかしそんな私達に気を遣いつつも、報告は自らの責務であると言わんばかりにスヴェンは言葉を続けてゆく。
「……ライゼルフォード領だけではなく隣接した貴族領までくまなく調べさせました。念のためそのまた隣接した貴族領、更に隣接した貴族領までです。ですがこれ程の大規模な捜索を行っても、感知できるのは魔物の魔力ばかり。最近は比較的安全な地域にも強力な魔物が出没していますので……、おそらく彼は……」
そこまで言いかけたスヴェンを私は遮って言い放った。
「馬鹿な、それこそありえない! ルータスは神話級の魔物ですら軽くあしらえる程強いのですよ!?」
「それは重々承知しています。もはや魔物では彼を倒すことなど不可能です」
「そうでしょう!? ならば「しかし」ッ……!?」
今度はスヴェンが私を遮って、真剣な表情で口を開いてゆく。
「しかし……、魔物を使役するハーヴェンブルクの魔族となれば話は別です」
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「ハーヴェンブルクの……魔族……?」
「最近の異常な魔物の出没はやはり奴らによるものでしょう。しかも神話級の魔物までも使役したと見られる事例もつい最近起こりました。そんなことができる魔族……、たとえばですが千年前に伝説となっている魔王軍四天王……、奴ら程の力を有した魔族と対峙してしまったとすれば……?」
「そ……そんな……」
私はなんとか気を落ち着かせながら彼の報告を反芻した。
確かに……
確かにそれならば、いまだ誰一人ルータスの魔力を感知できていないのも説明がついてしまう。
だけど……、だけれども……
それを認めてしまったら私は……
青くなって押し黙る私を見て、スヴェンは更に気を遣いながら言葉を続けた。
「とはいえ私自身もいまだ信じられずにいます。あの反則級の強さを有した彼が簡単にやられるとは到底思えません。皇帝陛下に要請して更に他の宮廷魔法師部隊も動員していただき、捜索範囲を広げましょう。我ら程に魔力感知に長けているわけではないですが、彼ほどの膨大な魔力の感知であればそこまで苦労はしないはずです」
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それからスヴェンの進言通り、お父様に捜索部隊を増やしていただいた。
そしてヴェルビルイス帝国全土に渡る大規模な捜索を行ったのだ。
それもーー、一ヶ月という長期間に渡ってだ。
なのに、ただの一つとしてルータスの手掛かりは掴めなかった。
彼の身に何かあったのは間違いない、早く彼を見つけ出さなければならないのにーー
私もエヴァンも日がたつにつれて焦りが大きくなるのと同時に、彼に対する希望を持つことができなくなっていた。
それもそのはずだ。
これだけ大規模に捜索しているのに、何一つ手掛かりがないのだ。
そしてスヴェンが言うように、もしも魔物を使役するハーヴェンブルクの魔族と対峙したのであれば、それも伝説の魔王軍四天王クラスの魔族であれば……、いくらあのルータスとはいえ絶命してしまった可能性は私も否定できなかった。
そして一ヶ月後ーー、ついにはヴェルビルイス帝国全土に渡って張り巡らされていた捜索網は徐々に縮小されていったのだ。
いつまでも国の大切な宮廷魔法師部隊を捜索だけに従事させることはできなかったからだ。
彼らには彼らだけにできる、国のための重要な任務が山ほどあった。
それを私も理解していたからこそ、無理に捜索を続けるようにとは言えなかった。
それでも最低限の捜索部隊は残してもらうようにお父様にお願いした。
そして彼をまだ想っていた私は、沸いて出るような婚姻の申し込みも断り続けた。
さらに私のありとあらゆる行動で、私には彼が必要だと周りに意思表示し続けた。
しかしーー
もうこの頃には、ほとんど彼を諦めてしまっていたのだと思う。
表面上は諦めが悪く見えただろうし、私自身もそう思うことは度々あった。
私が3年間にわたり想い続けた恋を簡単に諦めてなるものかと躍起になっていた自覚も当然にあった。
その後一ヶ月、半年、一年ーー、そして今に至るまで探し続けたのだから当たり前だ。
だけど時が経つにつれて、彼のことを忘れている回数が増えてしまった。
捜索部隊が動く日になると、そういえばと思い起こして代わり映えしない報告を定期的に淡々と聴かされるのだ。
自分を擁護するわけではないが、これで彼に対する希望を持ち続けろと言われても無理な話だった。
そしてこの頃には、ライゼルフォード領へ足を運ぶこともなくなっていた。
今から思えば、そんな私がどの面を下げてエヴァンに会いに行けるのかと心の中で負い目を感じていたからなのだと思う。
そう、あれ程熱心に想い続けた、いや想い続けていると思い込んでいた私の気持ちは所詮こんなもので、私という人間は結局のところ、どうしようもなく薄情者だったのだ。
だからこそーー、だからこそだ。
例え彼が現れたとしても、もはや感涙に至ることなど到底あり得なかったはずだ。
なのに目の前の仮面男ーー、いや、彼はそんな私をまたしても変えてしまったのだ。
「敬語は引き続きやめておくぞ。立派に成長した貴女を、あしらっているなどと勘違いされては困るからな」
回想終了!
【再追記】
10/4 0:30までにはアップします、30分延長ごめんなさい!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
作者の励み・モチベーションアップになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマ・評価【特に評価は是非!】の程よろしくお願いいたします!




