第一皇女マリーゼ=ハインケル=ヴェルビルイス⑤
評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「いつもの様にお一人で領内の魔物討伐に出かけられたのですが予定の時刻を過ぎても一向に戻られず……、心配になり伝えられていた行先へ使いを送ってみましたがいまだ見つかる様子がありません……ッ! 旦那様も知ってのとおり、ルータス様が約束の時間を違えたことなどございません。それに魔力感知に長けたものを送っているにも関わらず、いまだ何の手掛かりも……」
ライゼルフォード家の老執事であり、ルータスの世話係であるクラウスは涙ながらに報告した。
普段から凛とした佇まいである彼を少しでも知っている人物からすれば、想像も出来ないほどに取り乱した彼を見ればことがどれほど重大かは容易に想像ができるはずだ。
なのにーー、それなのに彼の主人であり、ライゼルフォード家の当主であるエヴァンは涙ながらに取り乱すクラウスを見ても顔色を全く変えずにゆっくりと口を開いてゆく。
「あいつのことだ、きっと無事だろう。心配することではないが、念のため私も捜索にあたろう。私兵と馬の準備を。皇女殿下はここでお待ちください、すぐに戻りますゆえ」
悠然とした態度で私に微笑みかけながらエヴァンは貴賓室を後にした。
きっとそれは目の前の私に対するエヴァンなりの配慮だったのだろう。
当主である自分までもが取り乱しては、息子を想ってくれている彼女を不安にさせてしまうだろうと。
息子の優しさは父親譲りだと私は再確認して思わず笑みが零れた。
同時にあたたかい気持ちに包まれるのを感じることができたがーー
一方でルータスを心配する気持ちがふつふつと沸き上がってくるのも感じてしまっていた。
ルータスはあんな振舞いをしているが律儀者であり、特に魔物討伐においては尚更だった。
私はこの国の皇女殿下という立場上、安全上の理由で彼の魔物討伐に同行することはなかった。
しかしライゼルフォード家を訪ねてルータスが魔物討伐で不在だった際はいつでも、必ず予定時刻になれば屋敷に戻ってきてくれたのだ。
そんな彼を私も、エヴァンも、そして当然クラウスも知っているからこそ異常事態だと考えているのだ。
それに彼ほどの膨大な魔力の持ち主を魔力感知できないなどありえないことだ。
万が一、万が一ルータスの身に何かあったのならばーー
そこまで考えた後、私は頭を左右に振って思考を停止させた。
そんなはずはない、そんなはずがないのだ。
あの全自動無自覚女誑しキザ男が、出鱈目で馬鹿馬鹿しい程に強いあの男が、魔物討伐程度で何かあるはずはない。
全ては完全に、完璧に、どうしようもない私の杞憂に終わるのだ。
何一つとして心配することなどありはしない。
だからこそ、だからこそだ。
帰ってきたら僅かにでも私を心配させた責任をとらせてやらねば気が済まないのも全くもって正しい道理だ。
私の頭を優しく撫でさせて、それからひしと抱きしめさせて、十分に温もりを感じさせなければならない。
それからそれからーー、あとはーー
そんな風にこの時の私は、一抹の不安を振り切るようにして己の願望を並び立て続けた。
ーー過酷な現実が待っていることなど知らずに。
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あれから私は夜が更けるまで待った、待ち続けた。
勿論、途中に何度か屋敷の者に進捗状況を確認した。
しかしついに私の期待する返事をしてくれた者は誰もいなかった。
それほどまでに捜索は困難を極めているのかと理解した時、どうしようもない不安が私を襲った。
もはや完全に私の意識は彼の安否に割かれ、この頃には神への祈りまで捧げてすらいたのだ。
そうしてようやくーー、待ち望んでいた貴賓室の重い扉が開かれた。
やっとか、今までどこをほつき歩いていたのか。
どれだけ私を心配させたかわかっているのかと、すぐにでも叱りつけてやらねばと私は怒りの感情でいっぱいだった。
同時に、早くその姿を私に見せてくれ、早く私を安堵させてくれ、一秒でも早くこの苦しみから解放させてくれと願ってもいたのだ。なのにーー
現れたのは、どこまでも重苦しい顔をしたエヴァンただ一人だった。
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それが何を意味するのか、わからないほど私は愚かではなかった。
私は最悪の事態を理解しながらも震える声を絞り出すようにして、どうにかようやくのことで目の前の彼へと問いかけてゆく。
「……ルータスは見つかりましたか?」
「いいえ……、念のため周辺地域もくまなく捜索したのですが……」
予想通りの最悪な返答だった。
それでも私は何とか気丈に振舞おうとした。
取り乱してはならないと頭の中では理解していたからだ。
しかしーー、エヴァンの返答を聴いた瞬間に予想が確信へと変わった私は、沸き上がる負の感情を理性で抑えることなどもはや不可能だった。
「……ッ! 私も捜索に参加します! ルータス程の膨大な魔力の持ち主がここまで感知されないなど、絶対に、絶対に何かあったのです!」
私はなりふり構わずエヴァンにくってかかるがーー
「それはそうですがもう夜も更けました。近頃は安全な地域にも魔物が出没しますゆえ、夜間の捜索活動は危険です。皇女殿下も本日は拙宅に泊まられて、明日私と一緒に捜索を再開しましょう」
彼は平然とそのように私に提案するのみだった。
何を馬鹿な、貴方は大事な息子が心配ではないのかとすぐにでも文句を言ってやろうと私は口を開きかけたーー
--が。
しかしーー、それはついにできなかった。
何故なら、すまし顔で一礼しながら捜索結果を報告する彼の右手はーー
これ以上ない程精一杯に、血が滲み出る程に力強く握りしめられていたのを私は確認してしまったからだ。
いつも温厚で礼儀正しい彼の、静かでありながら途轍もない程の怒りを私は感じ取ることができた。
しかもそれはおそらく、ルータスを捜し出すことができなかった自分自身にーー
私ははっと理解して、口を開くのをやめて長めに息をついてゆく。
彼を叱責しても仕方がない、彼も大切な息子が見つからずもはや限界寸前まで来ているのだろう。
それなのにーー、それなのにこの国の第一皇女である私の目の前では模範的に振舞ってくれているのだ。
どうしてそんな彼を私が責め立てることなどできるのだ。
私はそんな風に考えを巡らせた後、できるだけ穏やかに聴こえるように意識して口を開きだす。
「……夜が明けたらお父様に宮廷魔法師部隊の出動を要請します。魔力感知に特に優れた者を集めてもらうようにも伝えておきます。ですからエヴァン、貴方もどうか気を静めてください。大丈夫、あの馬鹿馬鹿しい程に強い御子息なのですよ。たとえ魔物の群れのど真ん中で無防備に眠っていたとしても、彼の姿を確認しただけで神話級の魔物ですら裸足で逃げ去りますよ。あぁ、靴を履いている魔物などいませんでしたね」
冗談もまじえながら、できるだけ彼の負担にならないように十分気を付けながら、私は笑顔を作って彼を励ましたのだ。
するとーー
「……愚息のためにご面倒をおかけします」
父と娘程に年の離れた私に気を遣われたことを感じ取ったのか、涙を堪える様に、絞り出すようになんとかしてエヴァンは言葉を発した。
そんな彼に対して、私はとびきりの笑顔を浮かべて言葉を続けるのだ。
私と貴方の間に遠慮など全く不要、そんなよそよそしい関係であってはならないのだから。
何故ならーー
「とんでもない、これからも是非面倒事を任せてください」
「……何故ですか?」
そう質問する彼に私は歩み寄り、いまだ強く握り締められた彼の右手を優しく両手で包んだ。そして目を見開いて驚く彼に微笑みかけながら言ったのだ。
「ここまで大切に想われている息子さんを私はいただこうとしているのですから、当然ですよお義父様」
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よし、将来のもう一人の父に対してもそつがなく彼が欲しいと伝えることができた。
あとは彼にもまっすぐに打ち明けて、絶対に赤面させてやるんだ。
たぶん、本当に、本当に悔しいけどーー、私の方が真っ赤になりそうだけどーー
そんな風に思いながら、彼を見つける決意を固くした私だったのにーー
次回で回想が終わり!
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