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第一皇女マリーゼ=ハインケル=ヴェルビルイス④

評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)

「簡単なことです、お義父様。私、ご子息に(指で)唇を奪われてしまいまして……、その上酷く(プライド的な意味で)キズモノにもされてしまいました。よって男らしく責任を取ってもらわねばなりませんので、今後定期的に通い妻をさせていただきます。勿論この間のように、恥ずかしいですが彼に悪戯されても甘んじて受け入れますわ」



 さぁ、そのすました顔を歪めて慌てふためきなさい。

 どのように貴方のお父様に言い訳するか見物ですねルータス。

 決して嘘を並べたわけではありません。

 多少脚色した物言いになってはいますがね。

 だからこそ……、だからこそ私に罪悪感などこれっぽっちもありませんよルータス?


 そんな風に自分に言い訳しつつも、悪戯心満載で私は今後の展開を愉しんでいた。

 あの余裕ぶった表情を少しでも変えてやらねば私の気が済まないと、当時9歳の生意気な私は私怨に塗れた考えで、ルータスが言い訳する姿をいまかいまかと待ち望んでいたのだ。



 しかしーー、私の予想は大きく裏切られてしまった。



 彼はあの憎たらしい程にすました顔を少しも歪めることもなく、ふっと笑ったと思いきや私に歩み寄ってきたのだ。

 一歩、二歩、三歩と彼が私に歩み寄る姿を、エヴァンは不思議そうに見つめるのみだった。

 そして私も彼の行動が不可解で仕方なく、エヴァンと同じようにただただ見つめることしかできなかった。

 やがて椅子にかける私の傍らまで歩み寄ったルータスは開き直った様子で軽く笑みを浮かべながらこう言ったのだ。


「マリーゼ皇女殿下、酷いではないですか」




「そんな風に、本当のことをおっしゃってしまうとはね」




xxx



「なっ……、馬、馬鹿……ッ、何を言って……ッ!?」


 その様子を見た私は羞恥が邪魔して彼の意図がすぐには掴めなかった。

 そして私が彼に期待したような慌てふためく反応を、他でもない私自身が見せてしまった。

 早く訂正しろ、本当にエヴァンに誤解されてしまうではないかと私はすぐにでも言いたかった。

 しかしなまじ先程のような事実を脚色した発言をしてしまっているばかりに、ついに言葉にすることはできなかった。


 そんな私達を見て何かに気付いた様子のエヴァンは、芝居がかった口調で信じられない言葉を投げかけるのだ。



「……成程成程、であればあとは若い二人だけにしておくのが当主たる私の務めですな」



 --はぁ!?


「ッ!? ちょ……ッ!? エヴァン貴方……!?」


 全くの誤解だ、私達はそんな如何わしい関係ではないとすぐにでも伝えたかった。

 しかし……、しかしそれでは最初から私が嘘をついていたことになってしまう。

 そのことを理解していた私は抗議の目線を向けることしか出来なかった。


 そして……、そんな狼狽えている私とは正反対に、エヴァンはふくんだ笑みを浮かべながら残酷な言葉を続けたのだ。



「寂しいですな、先程の様に是非父とお呼びください。それではごゆっくりなさいませ、マリーゼ皇女殿下。ちなみにこの貴賓室は完全防音ですから、何があっても外には聴こえませんので存分に愚息とお楽しみください」



xxx



「さて、それでは父上からも許可の出たことですし、将来の妻と愉しませていただきましょうか」


 エヴァンが去り、重厚な扉が完全に閉ざされた途端にーー

 目の前のルータスは私の前にしゃがみこみ、笑みを浮かべながら私の双肩に両手をのせた。

 

 広い貴賓室には私と目の前のルータスのみ。

 よって誰に頼るわけでもなく自分自身で解決しなければならないと悟った私は、胸の高鳴りを抑えながらも目の前の彼へと心の内を明かしてゆく。


「ルータス、違う、違うのッ! 先程は貴方をちょっと揶揄おうと……ッ!?」


 がーー


「流石はマリーゼ皇女殿下。流石は私の将来の妻。そのように私のためとはいえ嗜虐心をそそるように演技までしてくださるとは。ここまでしていただいては、おっしゃるように男らしく責任を取らねばなりませんね」


 対するルータスがその整った顔を私に思いきり近づけてそんな風に言ったせいで、私は言葉に詰まってしまった。

 私は彼を制止しなければ大変なことになると考えて、すぐに口を開こうとするがーー、それは不可能だった。

 

 何故なら彼が更に私へと顔を近づけつつもーー、ゆっくりと目を瞑り顔を傾け始めたからだ。

 

 --ッ!?


 この後ーー

 彼にされるであろうことを想像してしまった私は抗議の言葉を発するわけでもなく、あろうことか赤面しながら目を瞑ってしまったのだった。


 しかし正直な話……、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

 こんな形で初めてというのも、目の前の男となら案外悪くないものだとすらこの時の私は考えてしまっていたのだ。

 そうして小動物の様に少し怯えながらも、迫り来る未知の体験に期待しているとーー


「では遠慮なく、余すことなくいただきますよマリーゼ」


 そんな彼の一言が私の耳に入った。

 名前まで呼び捨てにして……、私はいよいよいただかれてしまうのかと。

 恐怖と高揚感が混ざった感情で私はただただ彼を待っていた。

 

 そしてーー、ついに彼の吐息が私にかかるのを感じた。

 同時に、その瞬間を待つ私の胸の鼓動はこれ以上ない程に高まり続けた。



xxx



 しかしーー

 彼の右手が私の左肩から離れたのを感じた瞬間ーー



 バチンッ!



「いッ……!? な……ぁッ……!?」


 突如私の額に鋭い痛みが走り、思わず私は目を開けてしまった。

 そこには……、悪戯がこれ以上ない程にうまくいった子供のような表情を浮かべたルータスが私を見つめていた。

 しかもその右手で、私の額を優しくさすりながらだ。

 そして何が何だかわからずに混乱している私に対して、彼は子供に言い聞かせるように口を開いてゆく。



「悪ふざけが過ぎますよ、マリーゼ皇女殿下。恐れながら、今の中指の一撃は皇帝陛下に代わってのおしおきです。私も父上も、悪乗りをしてしまいましたがね」



xxx



 ーー全ては謀られていたのだ、この憎たらしい親子に。



 勿論最初はエヴァンも一大事だと勘違いして息子を睨み付けたのだろうがーー

 ルータスの私への対応を見て、私の、そしてルータスの思惑までも理解してしまったのだろう。

 だからこそあのように芝居がかった口調だったのだ。


 悔しい、悔しい悔しい悔しい……ッ!

 そして、なんて恥ずかしい……ッ!!


 何から何まで理解しきった私は、己の行いが彼らに筒抜けだったことに赤面してしまっていた。

 そして、悔しさを抑えきれなかった私はルータスを睨み付けて言ったのだ。


「敬語はやめなさいッ! 貴方に……、いつまでもあしらわれている感じがするからッ!!」


「そうかい? ではそうするとしよう。俺もこっちの方が性に合っている」


 しかしーー

 あのどこまでも憎たらしい程のすまし顔までは、ついにやめさせることができなかった。



xxx



 ーー12歳になった。


 あれから私はあの時の宣言通り、公務の合間を縫ってライゼルフォード家へと度々足を運んできた。

 最初はだいぶお父様とお母様に揶揄われたのを今でも覚えている。

 あらあら、とてもお熱ねマリーゼだのあれだけ熱心だった魔法の修練よりも随分とご執心のようですな皇女殿下だの散々な言われようだったのだ。

 その度に私は赤面しつつもこの国のためだ、ライゼルフォード家に取り入ってハーヴェンブルク征服派にするためだと言い張ったが、ついにいままでお父様とお母様は一度たりともまともにとりあってくれなかった。

 それどころか毎回微笑ましいものを見るような視線を向けて、応援しているとだけ言われ続けたのだ。

 周囲からも、一途な通い妻がまた足をお運びになると陰で揶揄われていたのも把握していた。


 しかしーー、私は足を運ぶのをやめなかった、いややめられなかった。


 ライゼルフォード家へ足を運び、ルータスと何でもない日常を過ごすにつれてーー

 恥ずかしいことに私は彼に骨抜きにされてしまっていたからだ。

 彼に会うたびにーー、彼の優しさ、逞しさ、そして年齢に不相応な包容力にやられてしまっていたのだ。

 

 しかもーー、しかもだ。


 彼はまったくの無自覚でそれをやっているのだから余計にたちが悪かった。

 私は彼と過ごしてどぎまぎしっぱなしだったのに、対する彼は平然と、さらりと当たり前のことのように私に優しさを施すのだ。

 勿論なんとか意識させてやろうと思い、多少の色仕掛けを行ったこともあった。

 それほどまでに私は自分に自信があったからだ。


 しかしそのすべてに彼は全く動じることもなく、あろうことか私を子ども扱いしたのだ。

 

 私はそのたびに赤面しながら怒っていたが、彼にあやされるように頭を撫でられるたび、まぁいいかと借りてきた猫のように大人しくなってしまっていたのも記憶している。

 つまりはーー、私は彼に対して何の成果もなかったのだ。


 だが、それも今日までだ。


 私は今日で12歳になった。

 自分で言うのもなんだが、あの頃よりずっと私は美しくなったと思う。

 これまで何度、貴族からの求婚を受けたかわからない。

 お断りした貴族の子息の中には、私を力づくでどうにかしようと襲い掛かってきた者もいたほどだ。

 だが私はこの日を待ち望んでいたからこそ、身の危険に晒されながらもライゼルフォード家に足繫く通ったのだ。

 そして、いつもの様に貴賓室に通された私は真剣な表情で彼の父であるエヴァンに対峙するのだ。

 


 --彼に求婚するために。



xxx



「エヴァン、大事な話があります」


「……どうなさいました?」


 そんな私の、いつもと違う様子を感じ取ったエヴァンは短く私に問いを発するがーー




「旦那様、大変でございます!」




 私がいざ話を切り出そうとしたまさにその瞬間だった。

 突然貴賓室の扉が勢いよく開かれ、ルータスの世話係が血相を変えながら大声をあげて入室した。


「どうした、皇女殿下がいらっしゃるのに騒々しいではないか」


 そんな世話係の様子に動じることなく、エヴァンは言葉を発するがーー

 耳に入った言葉は、到底信じられるものではなかった。




「ルータス様の……、ルータス様の行方が不明なのです!」

【追記】

筆が乗りストーリーを作り込み過ぎてしまいました……、良いと思うものを投稿したいので明日16時に延期します、ごめんなさい。

次々回で回想が終わります、長かった、、

無自覚女誑し野郎の修羅場が始まる、、


ここまでお読みいただきありがとうございます!

作者の励み・モチベーションアップになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマ・評価【特に評価は是非!】の程よろしくお願いいたします!

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