第一皇女マリーゼ=ハインケル=ヴェルビルイス③
【追記】9/16 少し改稿しました。
評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「仮に私にその気があれば、貴女様の首は既に胴体から切り離されています」
ルータスはそう私に告げながら私の唇から指を離した。
同時に身体強化魔法で鋭利な刃物のように強化した右手を私に見せつけるがーー
私はまだ先程の現象が理解できずにいたため、満足に反応することができなかった。
「あっ……あぁっ……そんな……どうして……ッ!?」
いまだ驚きのあまりろくに言葉を発せなかったが、なんとか目の前のルータスへと独白するように問いかけることはできた。
そんな私の様子を見たルータスは右手の身体強化を解いて、ゆっくりと口を開いてゆくがーー
彼の言葉には耳を疑わざるを得なかった。
「私は結界魔法には少しばかり自信があるのです」
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なっ……!?
「な、何を馬鹿な……ッ!? 結界魔法のみで……、私のウンディーネを完全に消し飛ばしたとでもいうのですか……!? しかも貴方は……、詠唱すら施していなかったではないですか!!」
「えぇ、その通りです。全くその通りですよマリーゼ皇女殿下」
そんなことなどあってたまるか。
彼は私を馬鹿にしているのだ、何かトリックを使ったに違いない。
あれだけありったけの魔力を込めたウンディーネを、あろうことか無詠唱の結界魔法のみで、それも防ぐのみならず完全に消し飛ばすなど冗談にも程がある。
そんな風にこの時の私は思っていたし、当然彼の言うことなどまともに信じられなかった。
だがーー
まさに次の瞬間だった。
彼は得意げな笑顔を浮かべたと思いきや、信じられないことにーー
神獣クラスの精霊獣を、それも無詠唱で五体も同時に召喚してしまったのだ。
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幻の神獣ベヒーモス、雷神鳥サンダーバード、不死鳥フェニックス、風の大精霊シルフィード。
そして……、私が先程まで使役していた水の大精霊ウンディーネまでもが一斉に姿を現す。
だが、姿形は同じなれど身に纏う魔力量はあまりにも桁違いだった。
とてもではないがこれと私の召喚したウンディーネを同じ神獣クラスという括りにするなんて、少しでも魔法をかじった者なら到底できることではない。
それほどまでに……、それほどまでに彼の召喚した精霊獣達は圧倒的過ぎたのだ。
「う……ぁっ……!? そ、そん……な……!?!?」
し……、信じられない……、こんな……、こんなことが……!?
確かに……、これが本当に彼の実力だというのならば……
こんなことができるのであれば……
無詠唱の結界魔法如きでも私のウンディーネを消し飛ばす程度など造作もないわ……。
しかし彼はまだ12歳……、そうだ、しかもそもそも彼は剣術一辺倒のはずよ!?
なのに……
これのどこが多少の嗜みなのよ……!?!?
私は目の前のとんでもない脅威に泣きそうになるのをなんとか堪えつつ、頭の中は次々と浮かび上がる疑問でぐちゃぐちゃにしていた。
そんな私をよそにして目の前の彼はいまだ五体の精霊獣達を侍らせつつ、再度憎たらしい笑みを浮かべながら言ったのだ。
「驕り高ぶることなく今後も鍛錬を積んでください皇女殿下。それでは私はこの辺りで失礼します。皇帝陛下、先程の約束の件はくれぐれもお忘れくださらぬようお願いします」
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「ぁっ……ぐぅ……、うぇっ……!」
「いい加減泣き止まないか、マリーゼ」
私は彼が去った後もその場に立ち尽くした。
そして緊張の糸が切れた途端に顔中を涙と鼻水塗れにしてしまい、自他共に認める自慢の美少女面を台無しにしていた。
先程まで上品な笑顔を張り付けていた姿など見る影もなく、みっともなくただただひたすらにすすり泣き続けていたのだ。
そんな私はお父様とお母様に根気よく慰め続けられていた。
しかし……、ついに私は頭を撫でてくれているお父様を見上げて、恐る恐るゆっくりと口を開いてゆく。
「……おどうざまぁ……、げんめつ……なざりましたよねッ……? わたくし……あのようにぶざまに……ッ」
「……上には上がいたということだ。お前はとんでもない魔法の才能を持っているのは間違いない。ただ……、ルータスが更に途轍もなく桁違いだったというだけだ」
しかしお父様は私の心配など全く必要ないと言わんばかりに、どこまでも優しい笑顔を浮かべながらゆっくりと諭すように返答してくれた。
「そうですよマリーゼ、それにいつまでも泣いてばかりいては貴女らしくありません」
私達の様子を見守っていたお母様も、慈愛に満ちた眼差しを向けながら優しく励ましてくれた。
「でもっ……でも悔しいですお父様、お母様……、悔しくて仕方がありません……っ!」
しかし自身の魔法の腕に誇りを持っていた9歳の私は、頭では理解していても悔しさで涙が止まらなかった。
それもそのはずだ。周囲から持て囃されて鼻高々だった小娘のプライドが、完膚無きまでにズタズタにされたのだから。
そうして私の涙は留まるところを知らず、ただただひたすらに頬をつたい続けた。
しかしーー
この後のお父様とお母様の会話を聴いて、どこまでも生意気な承認欲求に飢えていた私は水を得た魚の如く復活してしまうのだ。
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「まったく、こうなることがわかっていたからルータスは念を押したのか。しかし……、あの年で専門的な教育機関に身を預けることもなく、それも剣術一辺倒のはずなのにどうやってあそこまでの力を身に着けたのかはわからんままだな。エヴァンも並大抵の使い手では決してないがあそこまでは……」
「えぇ、それに随分と大人びた子でしたね。彼らがハーヴェンブルク征服派であればどれ程良かったことか」
「うむ。実に惜しいが……、確かに彼らライゼルフォード家が主張するように魔族が魔物を使役しているという確固たる証拠はないからな。しかも彼らは魔物討伐には積極的で戦果も他とは段違い。間違いなく国の為になっているから宮仕えを強いることも、強く言うこともできんし……」
きっかけはお父様のこの言葉だった。
悔しいが私は彼を超えることはおそらくできないだろう。
それほどまでにルータスは圧倒的だった。
プライドの塊といっても過言ではない生意気な私に、彼は容易く白旗を上げさせたのだから。
それに悔しいが、私は彼のことが気になってしまっていたのも確かだった。
ならばお父様のため、この国のためーー
そして何より私自身のためにやるべきことはひとつしかない。
「……お父様、私決めました」
「ん? 何をだマリーゼ」
「私……」
力で敵わないなら……、私の美貌で彼を篭絡すればいいのだ。
「ライゼルフォード家に嫁ぐことにします」
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ライゼルフォード公爵家 貴賓室
「遠路はるばるお越しいただき恐悦至極にございます、マリーゼ皇女殿下。してどのようなご用件でいらしたのでしょう……? もしや息子のルータスが謁見の場で何かご無礼を……?」
公爵家に相応しい豪華な装飾が施された貴賓室。
そこで私は当主であるエヴァン=エルグリム=ライゼルフォードと対峙した。
彼の傍らには先日私を泣かせ続けた憎き不逞の輩が立っていた。
それもその憎たらしい程に整った顔には、相も変わらずすました表情を浮かべながらだ。
ですがーー、いつまでその顔がもつのでしょうね?
「そのような畏まった挨拶は不要です、お義父様」
私は用意された椅子にかけながらそう言い切ると、軽く笑みを浮かべて上品に礼をした。
それを見たエヴァンはにこやかな笑みから一転した。血相を変えて息子に視線を向けながら慌てて問いただす。
「ルータス、これは一体どういうことだ……ッ!?」
「いえ父上、私にも……」
流石の彼も事態がのみこめず、焦りながら返答しているようだった。
ざまぁみろ、いい気味だ。
乙女の涙の重みを思い知ったか、このキザ男め。
可憐な乙女である私にほんの少しも、慰める素振りすらしなかった罰だ。
私は心の中でそんな風に悪態をついた。
そして気をよくした私は少し困ったようでいてかつ恥ずかし気に、更に言葉を続けてやったのだ。
「簡単なことです、お義父様。私、ご子息に(指で)唇を奪われてしまいまして……、その上酷く(プライド的な意味で)キズモノにもされてしまいました。よって男らしく責任を取ってもらわねばなりませんので、今後定期的に通い妻をさせていただきます。勿論この間のように、恥ずかしいですが彼に悪戯されても甘んじて受け入れますわ」
だがーー
この後またしても彼にしてやられることなど、この時の私は想像もしていなかった。
マセておるな、、、
この後はマリーゼの性格の良さが描かれる予定です(真顔)
【追記】18日16時頃に次回はあげます。
友人と食事に行くことになり投稿が遅れます、、楽しみにしていただいている方には申し訳ない、、
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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