第一皇女マリーゼ=ハインケル=ヴェルビルイス②
評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「そのようですね、お父様」
この国の皇帝であるお父様に目を向けられた私は、目一杯の笑顔でお父様にそう返事した。
そしてゆっくりと豪華な装飾が施された椅子から立ち上がり、一歩、二歩と階下の貴族へと歩み寄る。
お父様やお母様だけでなく、この場にいる誰もが不思議そうに私の行動を眺めていたがーー
やがて彼の目の前まで歩み寄った私はようやく足を止めて、笑顔を保ったまま語りかけてゆくーー
「このような謁見の場においても流れるように完璧な礼儀作法をこなし、剣の腕もこの国で最高峰のヴェルビルイス剣術学院に進学できる程なのですから優秀なのでしょう。ですがーー」
私は一旦言葉を区切り、真剣な表情で彼を見つめながら言葉を続けた。
「この私の伴侶候補となる御方ならば魔法の腕も達者でなくては困ります。私は齢9歳にして既にヴェルビルイス魔法学院に入学できると言われている程には魔法の腕に覚えがあります。当然ライゼルフォード公爵家嫡男でいらっしゃる貴方も嗜みはおありなのでしょう?」
そう私が煽る様に問いかけると、周囲の者達はざわめきだした。
しかしーー
「……まぁ多少ですが」
彼は私の言葉に少しも動じることなくーー
目を瞑り、静かに笑みを浮かべながら私にそう返答したのだ。
そしてそんな彼の返答を聴いた私は心の中で思った。
--よし、これで彼の化けの皮が剥がせる。
当時9歳だった私のことをたった今評するとすれば、あまりに生意気な存在だったと思う。
この時の私は周りから持て囃される自身の魔法の腕に驕り高ぶっていた。
目の前の一見優秀そうな貴族に私の魔法の腕を見せつけてあっと言わせてやろう。
そしてお父様、お母様に私の凄さを再認識して貰おう。
彼は先程の私の発言を幼子の戯言程度にしか捉えていないのだろう。
目にモノを見せてやろう。
そんなことばかり私は考えていた。
更に言えば、自らの伴侶は良家の子息しか有り得ないが、それでも私という高嶺の花を目指すために切磋琢磨して欲しいとも考えていた。
そうして戦闘能力も男としての器量も十分に身に着けて、初めて私を娶るに値する男になるのだと。
だからこそ比較的マシだった彼をここで打ちのめして、努力して貰わなければならないとすら考えていたのだ。
後にあのようなことになるとも知らずにーー
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「そうこなくては。ならばお父様、この御方と魔法で模擬戦をさせていただいてもよろしいですか?」
彼の返答を聴いた私は、先程のような上品な笑顔を顔に張り付けながらお父様へと提案するがーー
「馬鹿な。お前は親の私が言うのもなんだが魔法の腕前は熟練の冒険者にも決して劣らぬ。ヴェルビルイス剣術学院は幼い頃からひたすら剣術の鍛錬を積んで、ようやく一握りが入学できる程に名門なのだぞ? ゆえに剣術一辺倒である彼に魔法での模擬戦を、しかも才あるお前相手となど不憫でならん」
お父様にはそのように反対されてしまった。
しかし何もかも全て予定調和だと考えていた私は、再度ゆっくりと彼に向き直り言葉を続けた。
「……だそうですが。しかしまさか立派な公爵家嫡男である貴方が、年下の幼い娘相手に怖気づくはずはないでしょう?」
ーー今思えば恥ずかしすぎる安い挑発だったと思う。
彼ーー、いやルータスもここで引き下がってくれていればと、自分勝手に思ってしまう程だ。
「私は構いません皇帝陛下。ですがーー」
目の前の彼は何の躊躇もなく、そんな私の提案を承諾するとお父様に伝えた。
その顔には、まるで幼子の微笑ましい無理難題を解決してやろうと言わんばかりの笑みを浮かべながらーー
そして彼は言葉をつなげたのだ。
--試合後の心のケアは頼みますよ。
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ヴェルビルイス城内 闘技場
「……随分と余裕そうでいらっしゃるのね。それとももはや諦めて開き直っていらっしゃるのかしら?」
ルータスの言葉を聴いたお父様は渋々、闘技場で模擬戦を行うことを許可してくれた。
移動の最中にお父様から、彼は引くに引けなくなってしまっているのだ、彼は剣術一辺倒なのだぞと幾度もなく手加減するように勧められた。
しかし私は彼の言葉に怒っていたため、お父様の言葉など耳に入ってこなかったのだ。
--試合後の心のケアは頼みますよ。
謁見の場における彼のこの一言がずっと私を苛立たせていた。
なんと身の程知らずにも、最初から私に勝つつもりでいるのだ。
到底許せるわけがない。
だからこそ私は、少々喧嘩腰に彼へと言葉を投げかけたのだ。
だがーー
「……恐れながら前者です」
私の問いかけに対して、彼は憎たらしい程のすまし顔でそう返答した。
「……身を引かなかったことを後悔させてあげましょう」
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そうして怒りが頂点に達した私は、自慢の召喚魔法を唱えてゆくーー
「水明に宿りし無魂の大精霊よ! 我が前に顕現し、我が敵を打ち滅ぼせ!」
私が差し向けた右手から水が造り出され、長い髪の女性の姿へと変貌してゆく。
そして宮廷魔法師も顔負けの膨大な魔力を纏いながら、目の前の彼へと臨戦態勢をとる。
これで少しは彼も驚くだろう、そう考えていた私は得意げな顔をしていたはずだ。
なのにーー
「……水の大精霊ウンディーネですか。流石皇女殿下、素晴らしい召喚魔法の使い手でいらっしゃる」
水の最高位の大精霊ウンディーネを召喚したというのにーー
彼は少しも顔色を変えることなく、更に言えば何も構えることなくウンディーネへと対峙するのみだった。
だまされるな、はったりだ。もう彼は後には引けず強がっているだけだ。
そう思った私は一旦冷静になり言葉を続けてゆくーー
「……ご名答。水の最高位精霊も私にかかればこの通りです。泣いて謝るのならば今のうちですよ、ルータス=エヴァン=ライゼルフォード」
そして彼を睨みつけながら、半分脅しにかかったのだ。
なのにーー、それなのにーー
「しかし流石に無詠唱とはいかないようですね。それに見たところ防護結界も展開している様子はない。前衛職がいなければ危険極まりない無防備な状態です。詠唱前に即座に距離を詰められればどうしようもない。恐れながら……、後衛職であろうがある程度の自衛はできないと実践投入は厳しいかと」
彼はそのようにどこまでも上から目線で返答するのみだった。
そしていまだ何か魔法を詠唱する様子もなく、それどころか構える素振りすらない。
これには一旦冷静になった私も流石に我慢の限界を迎え、ウンディーネに更にありったけの魔力を込める。
「……その上から目線の物言い、気に障りましたよルータスッ!!!」
私はそう言い切ると共に、ウンディーネへ彼を攻撃するように命じた。
殺さない程度に彼へと襲い掛からせ、力の差をわからせてやろうと。
必ず彼を驚愕の表情へと変えてやろうとーー
そして目にも留まらぬ速さで駆け抜けて、ルータスへと襲いかかるウンディーネ。
対していまだにルータスは先程のまま少しも構えることもなく、もはや絶体絶命といっても過言ではない程の状況だった。
ーーなのに。
彼の目の前で今まさにウンディーネが攻撃するという瞬間、信じられないことにーー
突然何の前触れもなく、私のウンディーネははじけ飛んでしまったのだ。
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「……ッ!?!?!?!?!?!?」
何故!? 何が起こった!?!?
ありえない、ありえないありえないありえないッ!?!?
あれだけの膨大な魔力を込めたウンディーネがいとも容易く消し飛んだ!?!?!?
しかも何をされたかすらわからないなんて……
そんなはずはない、そんなはずはないのに……
しかし……、仮に本当に目の前の彼がやってのけたのだとしたら……
いったい私は何を見せられているというの……!?!?!?
そう目を見開いて狼狽えている私を見てーー
彼はふっと笑ったと思いきや、突如物凄い速度で距離を詰め始める。
慌てて私は詠唱し始めるが、とてもではないが彼のスピードの前には間に合わずーー
ついに目の前まで辿り着いた彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべて、私の唇にそっと人差し指をのせながらこう言ったのだ。
ーーほら、こんな風に貴女様は絶命してしまいました。
次回は9/16 16時に投稿します。
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