一ミリも空気の読めない鈍感男、知らずに修羅場を迎えてしまう②
【追記】最後の部分、さっぱりしすぎていたので描写を追記しました!
評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「どういう……ことですか…………?」
背後の扉からの突然の声かけに、セレナ、フランが一同に振り向く。
声の主は二人揃って美しい銀髪の内の一人、シンシア=サラ=エーデルノヴァだった。
もう一人の美しい銀髪の美少女であるマリーゼ=ハインケル=ヴェルビルイスは赤面してかたまってしまっている。
かくして金髪と銀髪が二人ずつ揃い、銀髪チームはこの現状に関する詰問、対する金髪チームはこの現状に関する弁明が始まろうとしていたーー
--ように見えたが。
「「そんなことよりも! 娘からの愛情表現くらいとは何だ(私からのお説教が先ですわ)!」」
二人が現れたことなど些事だ、弁明など知ったことかと言わんばかりに金髪二人は黒衣の仮面の男へとすぐさま向き直り、同時に抗議の声をあげた。そうしてこの国の皇女殿下と、その護衛騎士団長様は両者揃って無視されてしまった。
しかし我先にと、文句の一つや二つといわずいっぱい言ってやろうと思っていた二人はむっとして、主人と執事という立場を忘れてお互いに睨みあってしまう。
そしてセレナから、ゆっくりと冷たい声で口を開きだす。
「……フラン、今は主人である私がそこの男と話しているんですのよ。私の執事なら執事らしく控えていなさい」
そう言ってしたたかに、自身の主人としての立場を利用し尽くすセレナ。
「……セレナお嬢様、私とて乙女です。先程のこの御方の物言い、聴き捨てならないのは当然です」
対して自身の執事としての立場よりも、乙女としてのプライドを優先するフラン。
だが二人のプライドをかけた睨みあいはそう長く続かなかった。
なぜなら黒衣の仮面の男が心底不思議そうに二人を見て、口を開きだしたからだ。
「……君達、何が不満だというんだ? ……もしかして俺が嘘をついているとでも思っているということか? 悪いがそんなことは断じてないから安心してくれとしか言えん、本当に俺は何一つ下心も邪な気持ちもな……ッ!?」
黒衣の仮面の男はそう口にしだしたはいいものの、ぎらりと途轍もなく鋭い目線を二人に向けられて、流石の彼も押し黙ってしまった。
一方で彼女達は男を睨み付けるとともに大声で男を叱りつけてゆくーー
「「だ・か・らッ! それが問題なんだ(ですの)!!!」」
「いいか仮面男よ! 貴方の前世が齢35歳のおっさん魔族だったとしてもそれは今の私にまったく関係ないことだし知ったことではない! 確かに私は貴方に今出来る精一杯の御礼だといって貴方に口付けした! だがそれだけじゃないことくらい流石にわかるだろう!? 私だって齢15歳の立派な乙女、色恋沙汰の一つも知らぬ幼女ではない! そんな私が、立派な乙女である私が勇気を出して貴方に接吻したというのに、何一つそういう気持ちにならなかったとはどういうことなんだ!!!」
「貴方ね! 全ヴェルビルイス帝国民の憧れの的、高嶺の花、見目麗しく貞淑で可憐なこのセレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルの唇を人命救助のためとはいえ奪えたんですのよ!? それも二回も、二回もですわ! 自分がどれだけの果報者であるかくらい、分からないはずはありませんわよね!? 泣いて喜ぶ程度では到底足りず、胸のドキドキで心臓発作に陥って死に果てるくらいの反応を見せるのが礼儀ですわ!! それをよくもそのような平然たる態度で、その上何も思っていないから安心しろ、娘を助けるための人工呼吸程度にしか思ってなかった? 馬鹿にするのも大概にすべきですわ!!!」
そうして見目麗しい美少女である二人が二人とも、思いの丈をぶちまけてゆくがーー
黒衣の仮面の男はそんな二人を微笑ましく思い、口角を僅かに上げながら口を開く。
「……成程な。つまりは君達二人とも、俺に子ども扱いされたことが悔しいということか? そこまで言うのならば、少々行き過ぎた情操教育かもしれないが仕方ないな。確かに今の俺は成年にすら達していない……、今からすることはギリギリ合法ということで頼む」
そうして何かを決心したかのように、仮面の下に真剣な表情を見せる黒衣の仮面の男。
違う、そうだけどそうじゃない。まだ分からないのかと心の中で怒り、表情にも出してしまうフランとセレナ。
当然二人はすぐに声を上げて抗議してやろうと思い口を開くがーー
まさにその瞬間だった。
突如いまだ黒衣の仮面の男に抱きしめられていたフランは、黒衣の仮面の男にぐいと頭を引き寄せられた。
そしてーー、彼に接吻を施されてしまった。
それもいわゆるーー
大人の接吻をだ。
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「……ッ!?!?!?!?」
フランは声にならない声を上げながら目を白黒させてしまう。
しかしそんなフランの状況などお構いなしに、黒衣の仮面の男は確かめるように自身のそれをフランの口内にほんの僅かだけ侵入させて絡めた後、ゆっくりと口を離した。
それは彼なりの、立派な乙女だと言い張る彼女に対する精一杯の配慮だったのだろうがーー
先程までお子様扱いするな、女として見てくれと喚いていた彼女の姿はもはや見る影もなく、彼女が出来た行動は、ただただ顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くすのみだった。
そうして男はフランを解放した後、同じような反応で立ち尽くす二人を見遣り、ゆっくりと口を開いた。
「これくらいの接吻でなくては大人は満足しないぞ、おませ諸君」
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「さて、今度は全ヴェルビルイス帝国民の憧れの的、高嶺の花、見目麗しく貞淑で可憐でいらっしゃるセレナお嬢様の番だな」
一歩、二歩と黒衣の仮面の男が揶揄いながらセレナへと歩み寄る。
男が歩み寄るのを確認して我に返ったセレナは男の歩みに合わせて一歩、二歩と退いてゆくがーー、ついには壁際へと追いやられてしまった。
「まっ……、待ちなさい貴方……、私はそんな……、そんなことをしろとは……」
そうして壁に追いやられた、獰猛な肉食獣に追い詰められた可哀想な小動物のような反応を見せるセレナは、普段の口調をなんとか保ちながら懇願するように男を見上げる。
--が。
「何故だ? 人工呼吸程度に思って欲しくないのだろう? 子ども扱いをされたくないのだろう? ならば大人の接吻を、下心も邪な気持ちも十二分にある、情欲に塗れた口付けを俺が施してもなんら問題はないはずだ。それとも君はやはり子供で、そのような接吻を受けられる年齢ではなかった、それでいいかいセレナ=ルイーズ=ステラヴィゼル?」
男は仮面の下に笑みを浮かべながら、少々強引な理論でセレナを追い詰めつつ、先程の彼女の発言を取り上げて煽ってゆく。
「そっ……、それは……その……ッ!」
口ごもりつつもセレナがなんとか拒絶しようとするが……
「……では失敬して」
男は壁際のセレナにゆっくりと右手を近づけてゆく。
待って、私はあのようなこと、それに心の準備がーー、とセレナは思いながら目を閉じてしまうがーー
男の行動は悪戯っ子のような笑顔を仮面の下に浮かべながら、ただただセレナの頭を撫でるのみだった。
「なっ……!?」
驚いて目を見開くセレナ。いまだ憎たらしい笑みを浮かべ続ける黒衣の仮面の男。
そうしてゆっくりと、諭すように男が口を開いてゆく。
「まだまだ君達は若い、そんなことばかり考えていると将来ろくな大人にならないぞ。安心しろ、君への人工呼吸も、君の執事様からの御礼も、先程の接吻もノーカウント扱いだ。将来大人になって本当に好きだと思う人が出来たら、存分にしたりされたりすればいいさ」
先程の笑みとは一転して、優しく娘を諭すような笑みを浮かべる黒衣の仮面の男。
これで年相応の色恋事情を彼女は経験してゆくだろうーー、そう男は思い安心しきっていた。
だがーー。
彼はプライドの高いセレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルを甘く見過ぎてしまっていた。
このように自身を揶揄い、挙句の果てには上から目線の諭すような物言い、彼女が何もせずこのまま引き下がるわけもなかった。男の態度に腹を立てた彼女はキッと男を睨みつけ、そうして男の一瞬の隙をつきーー
先程男がフランにしたような接吻を施してしまった。
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驚く黒衣の仮面の男。半分やけになって赤面しながら濃厚に接吻してゆくセレナ。
彼女は何度も何度も角度を変えながら男の唇を貪り、男の口内を自身の可愛らしい舌で余すことなくゆっくりと味わい尽くすように隅々まで蠢かしてゆく。
ひとときたりとも彼から離れたくはないと言わんばかりに荒々しく鼻で呼吸しながら、自身の舌を濃厚に男のそれへと絡め続ける。
とてもではないが齢15歳の彼女には似つかわしくない、離れ離れになって長い間会うことのできなかった恋人に行うかのような接吻を、これ以上ない程に愉しみ尽くすように施してゆくセレナ。
そしてゆっくりと長い時間をかけてひとしきり行為を終えたセレナは、熱い吐息を漏らしながらようやく唇を離して、恥ずかしそうに男を見上げながら呟いた。
「……子供扱いするな、バカ……。それと遅くなったけど……、私を助けてくれてありがとう」
ーーだが。
彼女たちが何かを忘れているということは言うまでもなかったーー
貞淑ってなんなんだろうね……(遠い眼)
次回投稿は9/6、17時25分頃になります【急遽車の修理にいかなければならなくなり、、申し訳ない】
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