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暴氷のリーフィス、おっさんにホレ直す

--さようなら、ルータス様……。









 ……。





 …………。







 ……………………。









 …………………………………………。













 ……………………………………あ、あれ?

 

 リーフィスは確かに覚悟を決めた。

 なのに……、いまだ不死鳥から喰らい尽くされることもない。

 

 一体……、どういうことなの……?

 

 あの精霊魔法師の放った不死鳥で……

 とっくに喰われていてもおかしくないのに……?

 なのに……、それなのに……、一向にその気配がない……?


「……………………?」


 私は恐る恐るゆっくり目を開けるとーー

 

 そこには何もない……、何もないはずなのに……。

 その場でもがき苦しむ不死鳥が目に映った。


 !? --ギ、ギャオオオオオオオオ!!!?

 

 当の不死鳥自体も何が起こっているか理解できていないようだった。

 私にも不死鳥が訳もなく苦しみ暴れだしているようにしか見えなかった。


 どれだけ翼を大きくはためかせても。

 どれだけ首を前のめりに激しく動かしても。

 どれだけ猛り狂う雄たけびをあげても。

 

 本当の……、本当の少しも……、不死鳥はその場から微動だに進めやしないのだ。


「ど……、どう……なって……いる……!?」 

 

 勇者ローゼルが驚愕と怪奇に満ちた表情で、紡ぎだすように言葉を発する。

 ローゼルだけではない。勇者軍の誰しもがこの事態に理解が追い付かず動揺の色が隠せていないようだ。


「なっ……、なっ……!? い……、いったい何をしているの不死鳥! 早く……、早くその女を喰らい尽くしなさい!!」


 私に恥をかかせないで!!!--とラディアナが大声でヒステリックに叫びたてる。

 

 彼女は右手に込める力を強くするーー何も起こらない。

 彼女は更に左手を添えて力をだすーー何も起こらない。

 

「なっ……、なんなのよ一体……!?!?」


 ……やがて何もかもが無意味だと悟ると、気の抜けた顔で呆然と立ち尽くすラディアナ。

 彼女の必死の努力も空しく、ただただ不死鳥が苦しみ続けるのみだったからだ。


 ーーが。



 その時だった。



 瘴気のような黒い霧が、わあっと不死鳥の前に現れ始めた。

 それは徐々に形取り……、やがて人型となり……、遂にはーー

 

 右手を掲げて黒衣の衣装を身に纏う中年の男へと変貌した。

  

 そして男はにやりと笑みを浮かべ、開いた右手を握り込む様に突き出すとーー

 不死鳥があっけなくはじけ飛ぶように消え去ってしまった。


 男は悠然と振り返り、言葉を発する。


「これまた……、随分と派手にやられているな、リーフィス」



xxx



「ル……、ルータス様!? う……、嘘……ッ!?」


 恋焦がれる彼の姿を確認した途端……

 私は体中が弛緩して、気づけば涙が堰を切ったかのようにぼろぼろと零れだしているのを感じた。

 そんな私の顔を見て、ルータス様は私の頭をゆっくりと包み込むように抱きしめて撫でてくれた。


 ……はっ!?

 

 いやいやいや! 駄目よ……、私!!

 ルータス様に……、こんなっ……、こんな格好悪い姿を見せるなんて……

 なっ……、なにか……、なにか言わないと……ッ!

 

「かっ……、加勢など全くもって不要だったわ、有難迷惑も甚だしい!」


 ……はぁっ!? 


 なっ……、なにをいっているの私……!?

 せっかく助けに来てもらえたのに……、口をついて出た言葉がそれ!?

 私って馬鹿なの!? 学習しなさいよ……、本当に……ッ!

 ルータス様に素直になっておけばよかったなって……、さっき後悔したばっかりじゃない……!!


「ーーどの口が言っているんだか。そこで少し休んでいなさい」

  

 なかば呆れかえったようにルータス様が声を漏らす。

 そして今度は私に右手をかざして結界魔法を唱えた。


「なぁっ!? ちょ……ちょっと貴方!!」


 見る見るうちにまばゆい光を発する結界が私を覆い尽くした。

 

「これほど強力な結界魔法を行使しながら……、この桁違いな魔力……だと……? 奴が魔王で間違い無いようだな……」


 ローゼルが苦々しく言い捨てた。


「転移魔法も莫大な魔力を消費するわ……、それなのに……、あまつさえ防護結界の展開だけで私の不死鳥を握りつぶすですって……? こんな化け物に……、本気で対峙するっていうの……?」


 ラディアナは途方もなく呆然としながら発言する。

 

 天才精霊魔法師である彼女には、先ほどの不死鳥がどのように消え去ったかが理解できたようだ。

 だが……、だからこそ……、なまじ理由を理解してしまっているがために……

 その規格外な現象に他の誰よりも恐怖を払拭できずにいるようだった。


「嬢ちゃん、怯えるんじゃねぇ! 俺たちの双肩には人類の未来がかかっているんだぜ!!」


 レオルは自らを奮い立たせるように、使命感に燃えるように力強く言い放つ。


「そ……、そうです! 我らには神の御加護があります!! 邪悪な魔王になど決して屈したりはしません!!!」


 そう言い放つロザリアも、先程の余裕の笑みとは打って変わっている。 

 たらたらと額に汗を浮かべながら焦りと恐怖を抑え込むように……

 そして振り払うように言葉をつなげたに過ぎなかった。


「邪悪……か」


 ルータスはしみじみと魔王と勘違いされたことを訂正もせずに、吐き捨てられた言葉を呟きながら反芻する。


「我らに侵略の意思はないとお前たちの皇帝には伝えている」


 ルータスはキッと睨みつけながら勇者たちに言い放つ。


 そもそもこの戦いは奴らの侵略戦争でしかない、我々にとって完全に無意味で無価値な殺し合いだ。

 奴らは知性を持たない魔物と我ら魔族を混同し、あまつさえ魔族が魔物を従え仕向けているとの名目でハーヴェンブルクに攻め入っているのだ。

 何度説明しても魔族と魔物の関係性について人類側の理解は得られていない。


「それなのに……、何度もこの魔界を侵略し、その度に魔族をむやみに虐殺しているお前たちにこそ相応しい言葉じゃないのか」


 ルータスは今回の侵略戦争に苛立ちを覚えながら、対峙する勇者一向に言い捨てたがーー


「黙れ! 貴様ら魔族の言葉など信用なるものか!!」


 聖剣バルムンクを中段に構えながらローゼルが言い返した。

 同時に、レオル、ラディアナ、ロザリアの三名も戦闘態勢に移行する。


「……やれやれ、聴く耳持たずってわけか」


 --話し合いではやはり無理か。

 かといって、リーフィスを護りながらこの四人を退けるのは至難の業だ。


 そう考えたルータスは目を閉じ深く息を吸い込む。

 ふーっと深く、長く息を吐きだし、そしてついに覚悟を決めた。

 

 そしてゆっくりと、唱えるだけで災厄に見舞われるとされる禁忌の術式を解放する。

 

 ルータスが詠唱を始めると辺りが闇に包まれてゆく。

 勇者軍の兵士たちはパニック状態で狼狽える。

 だが流石か、勇者パーティーの四人のみは即座に動き出す。


 勇者ローゼルはタンッと地を蹴り、ルータスに直進する。

 戦士レオルは神盾アイグィスを展開し、パーティーを護るべく猛進する。

 精霊魔法師ラディアナは光の大精霊を召喚するために詠唱を始める。

 大司祭ロザリアは禁忌の術式解呪の神聖魔法を唱え始める。

 

 --が。


 「「「「……ッッッ!?」」」」


 しかし途上で、彼らは自らの身体に異変が起きていることに気付いた。

 まず身体の自由が極端に利かなくなり……

 やがて意思とは無関係に身体から力が抜け落ちてゆくのを感じた。


 そして、胸のあたりに焼けるような痛みが走るのを感じて目をやると……


「……なっ!? 馬鹿な!!? これは……ッ、隷属印ではないかッッ!?」


 ローゼルは狼狽えながら自身の胸部を凝視する。

 ローゼルだけではなく他のパーティーメンバーにも隷属印が浮かび上がっている。


「嘘だろ……ッ!?」


 レオルも同様に驚愕する。


「隷属魔法!? 隷属魔法はあまりにも実力差がないとまともに行使できないどころか、失敗すれば災いは術者に降りかかり魔力の逆流で死に至らしめる欠陥魔法のはずよ!?」


「流石天才精霊魔法師サマ。しっかり理解しているじゃないか」


 隷属魔法は自身の魔力を相手の体内に送り込むことにより、圧倒的魔力量で相手を内部から操ることを可能とする禁忌の術式と呼ばれる魔法のひとつだ。

 だが彼女の言うように大きな欠点がある。それは送り込んだ魔力を跳ね除ける力が相手にある場合、敵意を持った魔力は術者に逆流して死に至らしめてしまうということだ。

 ゆえに魔族の間でも、取るに足らない矮小な生物を使い魔とする際に用いるくらいの魔法なのだ。

 それをまともに魔力を有している相手に……、あまつさえ勇者一行になど決して普通は使える代物ではなく自殺行為に等しい。


 それなのになぜ俺が隷属魔法を選択したのか。

 答えはひとつ。相手が神より天啓を受けし勇者一行だからだ。


 天啓を受けた勇者一行を仮に殺めたとしても、別の血筋から次なる天啓を受けた勇者が現れるようになる。

 だが神よりの天啓は同時に二人の者には与えられないようになっており、しかも世襲制である。 

 つまり……、隷属魔法で勇者一行を無力化することに成功できれば真の勇者は二度と現れなくということだ。

 隷属魔法は一度かかれば、仮に術者が死んだとしても隷属印がある限り魔力は封じ込まれ、その戦闘力はただの人間並みに落ち込む。

 解呪には神聖魔法の使い手が別途必要だが、使い手は大司祭ロザリアただ一人。


 ゆえに俺はこの侵略戦争が始まったとき、隷属魔法を使用することをずっと念頭に置いていた。

 もっとも、決心したのは実際に攻め入られて、奴らの力を目の当たりにしてからだが。

 自身の魔力総量から考えるに、危険はともなうが決して不可能ではないと踏んでいた。

 それに……、この無意味な戦争を真の意味で終わらせるためには……、大切な者たちを護るためにはこれしかないのだ。

 天啓の勇者なくしてハーヴェンブルク攻略など、流石に愚かな人類といえども考えられないだろうからな。


「こっ……、こんなことが……!?!?!? あ……あぁ……!! 刻印がもうここまで……!? 反魔法も間に合…………わ……な……」


 どうやらもう隷属魔法の発動を止める術はないようだ。

 神聖魔法の使い手である彼女だけが気がかりだった。

 もう少し彼女が気付くのが早ければ……、俺はただただ無念に倒れていたかもしれない。


「そ……、そんなっ……!? 魔………………、魔王がこれほどと…………は……、あ……ア……アア……」



xxx



「「「「………………………………」」」」


 やがて静かに武装を解除し、虚ろな瞳で四人は俺の前まで歩き出す。

 勇者軍の兵士からはどよめきの声があがるが、彼らは気にとめるようすがない。


「「「「……偉大なるルータス様の仰せのままに」」」」


 そして四人が一様に跪いて頭を垂れた。

 その様子を見て安堵した俺は、リーフィスに施した結界魔法をようやく解いた。


「あ……あぁ……、もうおしまいだ! 勇者殿たちは魔王に洗脳されてしまった!!!」


「そんな!?!? 俺たちが千や二千、束になっても勇者殿たちには敵わないのに……、こんな奴ら相手していられるか!!!」


 光景を見た勇者軍の兵士たちは我先にと城から逃げ出そうとする。

 結界を解かれたばかりのリーフィスがすかさず追撃しようとするがーー


「やめておけ、我らは戦いを望んでいない」


 俺は右手を差し出してリーフィスを制止した。

 そう、望んでいない。こんな戦争……、俺たちは望んでいないのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

数日以内に次回の投稿をいたします。

作者の励みになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマの程よろしくお願いいたします!!

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