明かされる真実
評価を……評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
ヴェルビルイス城周辺地
ーー何故知っているのか不思議で仕方ないだろう?
黒衣の仮面の男は未だ私の仕込み刀を指で制しながら、顔を近づけたまま言葉を続ける。
力を入れ続けて振り解こうとしてはいるものの、先程からびくともしない。
なんて馬鹿力だと心の中で悪態をつきながら、悔しさで奥歯をギリギリと噛み締める。
それに……
この忌まわしき紋章は私の両親と主君であるセレナお嬢様しか知らないはずなのに……
どうしてこの男がそのことを知っている……?
そう思考を巡らせる私にーー
男が囁くように、ゆっくりと残酷な言葉を口にする。
ーー何故なら君の隷属印を施したのは他でもない、この俺だからだ。
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「!? ぐッ…………、う……ぁ……ッ!?」
黒衣の仮面の男がそう私に告げると、突如月明かりによって照らされていた辺りが暗闇に包まれた。
そして私の胸に紫色の光を帯びた隷属印が浮かび上がった。
胸に焼けるような痛みが走って、身体の自由が極端に利かなくなった。
さらには徐々に身体から力も抜け落ちて、言葉を発することすらままならなくなってしまう。
そんな私の様子を確認してから、黒衣の仮面の男はゆっくりと私の仕込み刀を手放した。
「……もうとっくに理解しているだろうからもはや言う必要もないとは思うが……、そいつは禁忌の術式の一つ、隷属魔法による刻印だ。俺が丁度千年前に、君の御先祖様である天啓の勇者ローゼルに施したものだ」
千年……前だと……?
隷属印を行使できるこいつはやはり魔族で……ッ
私達天啓の勇者一族の永遠の宿敵だというのか……!
「隷属印によって魔力が封じ込まれて、更に主人である俺が魔力を込めると"その"状態になり、最後には完全に服従する。君の御先祖様のローゼルも千年前、そうして俺の前に跪いた。諦めろフラン=ローゼル=レヒベルク、そいつを破ることはできない」
男がそう言い切った瞬間、更に隷属印の効力が強くなったのを感じた。
もはや指一本として制御することができなくなり、仕込み刀をカラカラと地面へと落としてしまう。
そして同時に、身体の自由を奪われながらも、私の中に激しい憎悪と怒りが芽生えて理解してゆくーー
ふざけるな……ッ!
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッッ!!!
それならば……
こいつさえ……
諸悪の根源である目の前のこいつさえいなければ……ッ!!
私も……、セレナお嬢様も……
幸せに生きられたということじゃないか……ッ!!!
「俺はこれから君の主君であるセレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルに会ってやるべきことがあるんでな。君には事が済むまでそこで大人しくしててもらおう」
そう男が言い終わると自身の仕込み刀を回収して、いまだ身体の自由の利かない私を嘲笑うかのように背を向けた後、先程の様に黒い霧へと姿を変貌させてゆくーー
一方で私の胸に浮かび上がる隷属印は更に強い光を発してーー
次第に私の意識が朦朧となってゆくのを感じた。
私が私でなくなってゆく感覚ーー
私自身が、フラン=ローゼル=レヒベルクが消えゆく感覚ーー
私は自分の無力さに対する怒りと悔しさと無念の気持ちでいっぱいで……
それなのに私に出来た唯一の行動はーー
大粒の涙を目一杯に浮かべて、その場にただただ立ち尽くすのみだった。
そして自分に絶望し、失望し、己が未来を諦めつつあったーー
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駄目だ……
目の前の男を行かせてはいけないというのに……
私の身体はちっともいうことをきいてはくれない……
私は……、私はもう駄目なのか…………?
このまま……、目の前の消えゆく魔族に身体を支配されたまま……
私自身も……、セレナお嬢様も……
当然セレナお嬢様との誓いも……
なにもかもが終わりを告げるまで……
ただただ佇んでいることしかできないのか……?
申し訳ありませんセレナお嬢様……
私の力が及ばないばかりに……最期まで……お護り……で………きず……
そうして私の頭の中で走馬灯の様に
過去のセレナお嬢様との思い出が流れてゆくーー
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『貴女がフラン=ローゼル=レヒベルクですわね、初めましてですわ』
『そうだけど……、君は……?』
『なっ……、貴女! ステラヴィゼル家嫡女であるこの私、セレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルをご存じないとでもいうんですの!?』
『ごめん、私は今まで剣の修練ばかり積んできたから社交界の類に顔を出すことはなくてさ……』
『ふん、まぁいいですわ。最初に宣言しておきましょう。私、セレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルは必ず、天啓の勇者様の末裔である貴女を越える存在になってみせますわ。入学試験の実技結果では私が僅かに後れを取りましたけれども、これから精々楽しみにしておくんですわね!』
『ふふっ、あははははっ! セレナ、君ってば面白い人なんだね! 天啓の勇者様の末裔である私にそんな宣言をする人なんて初めて出会ったよ!』
『ふふっ、笑っていられるのも今のうちですわよ? 私は貴女を超えて、そしていつか魔物を使役して人々を苦しめるハーヴェンブルクの魔王を打ち倒して、ヴェルビルイスに平和を取り戻すのが夢ですの! 私は必ずステラヴィゼル家の名に恥じないような、未来永劫語り継がれる程の功績を残しますわ!』
『それは今から楽しみで仕方ないよセレナ! じゃあその時は私も魔王討伐隊長セレナ殿の仲間に加えてもらいたいから……、今のうちに握手でもして仲を深めておかなくちゃね! はい、手を貸して!』
『…………なんだか調子が狂いますわね……』
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最初はそんな風に出会って、それから苦楽を共にして笑いが絶えない日々が続いたんだっけ。
剣術の修練ばかりで周辺の子供達と遊ぶこともなかった私は、やっと同い年の友達が出来たと心の底から喜んだのをいまだに覚えている。
だけど模擬戦でセレナに勝つたびに私達の溝は深まって、いつしか二人は他人行儀になってしまった。
私に負ける度、家庭内であんな酷い目にあわされていたのだから当然か。
あんな目に……、あんな酷い目に……
『ーーこれが貴女に勝てなかった私に対する奴らの仕打ちですわ』
私は消えゆく意識の中でーー
何もかも諦めかけた私は、あの凄惨な光景をーー
普段は勝ち気な彼女の張り裂けそうな表情を最後に思い出した。
ーーまさにその瞬間だった。
急速に私の意識が取り戻されてゆくのを感じたのは。
そして朦朧とした意識から解放された私は、私達の未来をこんな男に奪われてたまるものかと憤慨してゆく。
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何を諦めかけているんだ私はッ!!
動け! 動け動け動け動けッ、私の身体ッッ!!!
私の誓いはこんなものに縛られる程度だったのか!
それでは一体何のために……、何のためにお前はセレナお嬢様の執事となったのだ、フラン=ローゼル=レヒベルク……ッ!
私はあの日強く誓ったじゃないかッ!
セレナお嬢様の凄惨な姿をその眼で見て、セレナお嬢様の剣となり盾となるとッ!!
セレナお嬢様を……二度と誰にも傷つけさせたりはしないとッ!!!
セレナお嬢様のーー、本当の意味での笑顔をいつか取り戻すと!!!
なのに……、だというのに……
なんという情けないザマなんだお前は……ッ!
隷属印がなんだ、魔力が封じられているからなんだ!!
伝説である天啓の勇者ローゼル様ですら、こいつに敵わなかったからなんだというんだッッ!!
そんなものを免罪符にしてこのまましおれていくことなんて、たとえ神が許したとしてもこの私が絶対に、未来永劫許したりなどしない!!!
さぁ立ち上がれ、お前は神より天啓を受けた人類最後の希望!
天啓の勇者が末裔、フラン=ローゼル=レヒベルクなんだぞ……ッッッ!!!
今こそが、その名に相応しいところを見せる瞬間だろうがぁッッッ!!!!!
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「こ……の……わた……しを……ッ!」
朦朧とする意識から解放されてそう呟いた私を、黒衣の仮面の男はばっと振り返って確認した。
その仮面の下には信じられないーー、そんなことがありえるはずがないとーー
そう言わんばかりの驚愕の表情を浮かべながらーー
「この私……ッ、を……ッ、舐めるなあああああああああああああああああああッッッ!!!」
そうして私が大地に響き渡る程の咆哮をすると、私の胸に浮かび上がっていた隷属印は男の創りだした闇とともに弾けて跡形もなく消え去ってしまった。
同時に身体中から湧き出る途轍もない力を感じた。
隷属魔法を破った私はすぐさま地に落ちた仕込み刀を拾い上げて、男へと斬りかかりながら言葉を放つ。
男はすぐさま臨戦態勢を取り、両手の仕込み刀で受けてゆく。
「私の主はこの世にただ一人! セレナお嬢様ただ一人だ!! お前などに……、お前程度に……ッ! 薄汚い貴様ら魔族如きに……ッ!! この私が屈したりなどしてやるものかッッッ!!」
私は無数に斬撃を繰り出しながら言葉を続けた。
「さぁ戦いを再開しよう、黒衣の仮面の男よ! まだまだ勝負はこれからだ!! 私はここにいる、ここで貴様と確かに対峙しているぞ!! 一切微塵の容赦すらなく、ステラヴィゼル家執事、天啓の勇者が末裔フラン=ローゼル=レヒベルクは……、お前の目論見を完膚無きにまで打ち滅ぼすッッッ!!!」
そこまで言い切る間、私の剣筋は今まで見たこともないような冴えを見せ続けた。
最早誰一人として私に敵う者などいない、そう自分で言い切れるくらいだったのにーー
それなのに……
男は私の剣戟を受けきるのもやっとの状態なのに……
嬉しくて堪らないといった余裕の表情で、仮面の下に笑みを浮かべながら言い放った。
「なんという精神力なのだ……、そして……、なんという強靭な意思を持った人間なのだ君は……! これには驚いた! 本当に、本当に驚いたぞ、天啓の勇者が末裔フラン=ローゼル=レヒベルク!! 千年という長い長い年月の間……、誰一人として君の先祖が破ることの出来なかった隷属印を……、君はあろうことかただの気力だけで解呪してしまうとは……!」
更に男は言葉を続けた。
「嬉しい……、嬉しくて堪らない……! 主君に対する思いだけで隷属印を解呪してしまうなど、なんという人間なのだ君は! やはりそうなのだ、いつ如何なる時も決して変わることはない。種族間の違いはあれど、誰かを護ろうとする力は何物にも勝る! 君はそれを……、千年の間破られることのなかった強力な隷属印を、よりによってこの俺の目の前で証明してしまった! そんな君には是非見届けて欲しくなった。君の主人セレナ=ルイーズ=ステラヴィゼルの……、彼女が自ら創り出した醜悪な鬼から解放される瞬間を!」
そう男が言い切ると、仕込み刀を打ち合わせる私達の周囲を再度暗闇が包み込む。
そして私は身体が浮き上がるような感覚に見舞われてしまう。
さらに男は、信じられないような発言を口にする。
「さぁ時間がない、転移魔法を使うぞ。彼女が皇女殿下に断罪される前に城に着かねばならない。確かに直接彼女の両親に手をかけたのは君達だがーー」
--そもそもこの件には裏で糸を引いている輩がいる。
黒衣の仮面の男がそこまで言い終えるとーー
ついには目の前まで暗闇に包まれて、私の身体がこの場から消えゆくのを感じた。
そしてこの後ーー
セレナお嬢様のあのような姿を見ることになるとは、この時の私は思いもしなかったーー
二人を幸せにしてやってくれ……(親並感)
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