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フランの確固たる決意

 最初は当然にセレナの命令を拒絶した。

 セレナの御両親を手にかけるなどーー、そんなことは出来ないと。


 それからセレナの言葉を失う程のあまりに凄惨な身体を見せつけられてーー

 私に沸き上がった感情は憎悪だった。

 


 だけどその対象はセレナの両親ではなくーー、他でもない私自身にだった。



 私のせいでセレナはあまりに惨い仕打ちを受け続けてきた。

 私のせいでセレナはここまで思いつめてしまった。

 セレナをここまで変わり果てさせてしまったのはーー

 他でもない私だと理解してしまった。


 勿論、ステラヴィゼル家の、セレナの御両親であるお二人が直接手を下したのは間違いない。

 だけどその根底にあるのはーー

 天啓の勇者末裔であるフラン=ローゼル=レヒベルクが原因であることもまた間違いではなかった。


 この私、フラン=ローゼル=レヒベルクがもっと強大でーー

 目指すのも馬鹿馬鹿しい程の、途方もない程の強大な存在であったならばーー

 セレナの御両親がセレナに対して期待を寄せることもなかったはずなのだ。

 

 私が強ければーー、もっともっと強ければーー

 セレナがこのようにどうしようもなく歪むこともなかった。

 このような悲しい結末に至ることもなかったのだ。


 こんな風に私が考えるのは、私が両親から隷属印について聴いてしまっていたことに起因する。

 

 隷属印を施された者は一人の例外もなく魔力を封じ込まれて力を失い、その戦闘力はただの人間並みに落ち込むものだとーー

 ご先祖様の誰もがこの運命に抗えなかったのだとーー

 それでも持前の剣技だけでなんとかやってきたのだとーー

 

 そうして私も例に漏れなかった。

 そしてそれが克服出来なかったために、セレナがここまで苦しめられるに至ったのだ。

 生まれながらに持ったものであるからどうしようもなかったと言われればそうであるが、それでも私は自分を許すことが出来なかった。


 更に言えば、私は他にも自分を許せないことがあった。

 学友であるセレナがこのような状態にまで陥っているのに、全く気付いてあげることが出来なかったことだ。


 そんな私が……、今更セレナの凄惨な身体を抱き止めて涙を流す資格なんてあるはずがない。

 そうして私はただただ自分自身の無力を呪い、憎悪の念を向けることしか出来なかった。

 

 自責の念で胸が張り裂けそうになりながらも、下唇を目一杯噛み締めながらも、一生をかけてセレナに対して贖罪しなければならないと強く誓ったのを今でも覚えている。


 ごめんね、セレナ、本当にごめんなさい。

 私がーー、私が弱いからーー

 私が強大でなかったから貴女はこんな目にあっていたんだよね。

 ごめんねセレナ、気づいてもあげられなくて。

 本当にーー、本当にごめんなさい。


 そのように私は考えていたが、セレナの前で涙は決して見せてはならないとなんとか耐え切った。

 何故なら罪深い私には、到底そんな資格などないからだ。

 

 私はセレナに贖罪しなければならない。 

 ならば私の出来ることはーー、セレナの剣となり盾となることだ。

 今度は絶対にセレナを傷つけたりさせない。

 誰にも、誰にも絶対ーー

 私の大切なセレナを悲しませる奴は、私が一切の、微塵の容赦すらなく虫ケラのように悉く踏み潰してやる。

 だから……、だからね? もう……大丈夫だから……


 そんなに悲しい顔をしないで、セレナーー

 貴女の執事、フラン=ローゼル=レヒベルクは……

 これから心身共に貴女に捧げることを誓うからーー


 だからね? セレナーー

 いつか、貴女が本当の意味で……

 笑顔を取り戻すその時まで……


 私が命を懸けて、たとえ血肉の一片に成り果てたとしてもーー

 最後まで私が貴女を護ってあげる。

 


xxx



 そう決意してから、私は一切の躊躇なく"ゴミ共"の始末に加担した。

 決意するまでは若干の躊躇いはあったものの、ステラヴィゼル家に乗り込んでからは何の迷いもなく、胸がすくような思いで奴らを斬り伏せることが出来た。

 

 ただしとどめは刺さず、最後の一突きはセレナに譲った。

 セレナは私一人では両親に勝てないと言っていたので気を引き締めていたが、いざ対峙してみるとあまりの弱さに拍子抜けする程のとんだ雑魚だった。

 セレナの剣筋の方が、その何百倍も、何千倍もーー、いや何兆倍も強く、美しく、隙が無かった。

 よくその実力でセレナを虐げられたものだと憐れみすら感じられた。

 

 瀕死で地べたに這いつくばって、泣き喚きながら"ゴミ共"がなにか命乞いしていたのは覚えているがーー

 あまりに耳障りで五月蠅かったので頭を踏みつけて黙らせてやった。

 そしてセレナの一突きでーー、奴らは完全に絶命した。


 ひょっとするとーー

 塵程の可能性でセレナは悲しんでいないだろうかと思い

 ちらりと視線を送ったがーー

 その顔には気持ち良いくらいスカっとした笑みが浮かんでいるのみだった。

 

 それを見た私はやんわりとした笑みを浮かべてセレナを見つめた。

 セレナも私に視線を合わせて、本来の彼女らしい花開くような笑みを浮かべてくれた。

 美しく素敵な貴女を虐める奴はもう誰もーー、誰一人としていないのだ。



xxx



 それからはセレナ"お嬢様"の執事をやりつつも冒険者登録を行い、日々修練に明け暮れた。

 冒険者登録を行った理由は、そうしないと帝都が指定する危険区域に入ることが出来なかったからだ。

 

 私にはセレナお嬢様を護る絶対無比な力が必要だった。

 その為には神話級の魔物であろうとなんであろうとセレナお嬢様に危害を加える者は一切の例外なく斬り伏せねばならない。

 そう考えた私は仕込み刀を腰に携え、迷いなく単身で危険区域へと侵入した。

 SSSランクにカテゴライズされる神話級の魔物に最初の頃は多少苦戦していた記憶があるが、それもすぐに克服出来た。

 

 それもそのはずだ。

 魔力を封じ込まれているとはいえ私は天啓の勇者ローゼル様の末裔。

 更に言えばセレナお嬢様の剣であり盾であり、生涯を賭けて護り抜くと誓った身。

 大切なセレナお嬢様を二度と誰にも傷つけさせたりはしないーー

 その誓いだけでも私は今よりも遥かに、何倍も、何十倍も、何百倍も強くなれる。


 

 たとえ正体不明で強大な実力を持つ目の前の男でもーー

 私を止めることなど出来はしないのだ。

いよいよ次回、因縁の対決が始まる……


ここまでお読みいただきありがとうございます!

数日以内に次回の投稿をいたします。

作者の励み・モチベーションアップになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマ・評価【特に評価は是非!】の程よろしくお願いいたします!!

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