表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/47

暴氷のリーフィス、最期を覚悟する

リーフィス城 城内



「我が暴氷よーー集い形取り忠実な僕となりて敵を穿て! ーー絶対なる(アブソリュート)暴氷神獣(ブリザードベヒーモス)!!」


 リーフィスが詠唱を終えると無数の氷塊が連なり、伝説の神獣ベヒーモスが姿をあらわす。そこらの宮廷魔法師など裸足で逃げだすような膨大な魔力を纏いながらラディアナへと一直線に襲いかかる。


「悪を裁きし聖なる不死鳥よーー煉獄の炎にて我が敵を焼失させよ! --神聖勇敢なる(セイクリッドブレイブ)不死鳥(フェニックス)!!」


 ラディアナが詠唱を終えるとベヒーモスに引けを取らないほど大きな不死鳥となり、響き渡るほどの咆哮とともにベヒーモスへと対峙する。リーフィスは不死鳥を喰らわんとベヒーモスを差し向けるが……


 ーーオォ……オオオオオオオオオオオオオオ!!!


 ベヒーモスは苦しみ叫びながらもやっとのことで相打ちに留める程度に終わってしまった。

 精一杯闘ったのに力及ばずですまないと主人に無念を告げるような断末魔を上げながら。


「くっ……、私の神獣が相打ちになるなんて……!」


 ーーまずいわね。

 魔力の総量では私があの魔法女を凌ぐけれど、圧倒的不利な属性魔法に加え奴には神聖魔法師がいる。

 それに今の一撃で魔力をほとんど消耗してしまった。


「まったく……、属性的には圧倒的有利なはずよ……、なのに……この氷女とんでもないわよ……」


 ーー化け物め、とでもいいたそうに悔しがりながら、ラディアナは息を上げながらも睨みつける。

 自他ともに認める天才精霊魔法師である彼女にとっては、圧倒的有利な状況・属性の魔法でも相打ちにしかできなかったことは屈辱の極みだった。


 そして疲れ果てているラディアナに向け、大きな十字架がトレードマークである大司祭の帽子を被った女司祭が右手から光を放った。

 おそらく……、体力や魔力だけでなく魔力強化付与の効果もある神聖魔法だろうとリーフィスは推測する。

 そうして見る見るうちにラディアナの体内に莫大な魔力が取り戻されつつあるのをリーフィスは理解してゆく。


「しかも私が神聖魔法で反魔法をかけ続けてこれですからね……、1対1では確実にやられていたでしょう。でも……、どうやらこれで打ち止めのようですね」


 なるほど道理で……

 ベヒーモスの動きが普段より鈍かったのは反魔法の影響だったのね……、それなのによく頑張ってくれたわ私の神獣(ベヒーモス)。もっとも……、神獣クラスの魔法に影響を及ぼす反魔法なんて聴いたこともないけれど。


「えぇ……、ロザリアがいてくれなかったらどうなっていたことかしらね」


 完全回復してにやりと笑みを見せるラディアナ。

 魔王軍一兵卒でもわかるこの危機的状況に私は奥歯をぎりりと噛み締めた。


「魔法防御に関しちゃ俺とローゼルでは分が悪いからな、温存させてくれてありがとよ」


「あぁ、物理特化の近接職相手は俺たちに任せてくれ」


 そう話す勇者ローゼルと戦士レオルには圧倒的安心感さえ感じられた。


「それにしても神聖魔法の回復効果って反則級じゃない? ここまで強力な魔力強化付与までできるなんて……、私の白魔法なんて足元にも及ばないわよこれ」


 なかば呆れる様にラディアナが言い放つ。

 やはり……、魔力強化付与の効果もあったのね。


「一応神聖魔法の使い手はこの世に私一人ですからね……、でもどの属性魔法も完璧に使いこなすラディアナさんの能力もえげつないですよ。不得手な属性による威力減衰なしの弱点属性でずっと攻撃されちゃたまりませんって」


 神聖魔法であれだけの回復・強化付与を行ったにもかかわらず、余裕の笑みでロザリアが言い返す。


 確かに彼女の言うとおり、そもそも複数種の魔法を使いこなすだけでも困難であり、たとえ使えたとしても不得手な属性の魔法は威力が大幅に減衰する。それを全属性威力減衰なしで使えるというのだからラディアナもとんでもない実力者ということだ。


「神聖魔法に弱点属性なんてないけどねー」


 嫉妬と羨望の眼差しを向けながら彼女は言い捨てた。


「……さて、魔力の補給も完全に終わったことだし。終わりよ、暴氷のリーフィス! --神聖勇敢なる(セイクリッドブレイブ)不死鳥(フェニックス)!!」


 先程放たれた神聖勇敢なる(セイクリッドブレイブ)不死鳥(フェニックス)より更に強力な魔力を有した一撃が私を襲う。

 一方で……、私にはもうベヒーモスを作り出して防ぐほどの魔力は到底残されていない……。


 ーー終わりね……。


 走馬灯のように今までの出来事が頭の中に流れる。

 ーーあぁ、こんなことになるなら意地を張らずに他の四天王も一緒に来てもらえばよかったかしら。

 なにかと私と張り合おうとする憤雷のミンスリーナ。

 お姉さん面して常に私を揶揄ってくる極焔のラフィーネ。

 気弱で泣き虫だけどいざというときは頼りになる業風のスカーレット。


 ーーそして、いつもあたたかく私を護ってくれた魔元帥ルータス様。


 いつも羞恥のあまり不愛想な態度しかとれなかったけど……、私は貴方様が誰よりも大好きでした。

 優しい笑顔、包み込むような圧倒的包容力。

 あぁ……、軍の運用でレヴィア様に叱られたときも必死にフォローしてもらえたのはすごく嬉しかった。

 でもそのときも……、余計なお世話とか言っちゃって差し出された手を跳ね除けたのよね、何様なのよって本当……。


 本当……、最期の……、本当に最期の最期まで……

 しかも心の中でしか感謝の気持ちが言えないだなんて。

 私ってどんだけなのよ、本当にね。


 精霊魔法師ラディアナの不死鳥(フェニックス)があと数メートルのところまで迫った。

 私は無駄な抵抗はせず、満身創痍の身体からゆっくりと力を抜いた。

 うっすらと涙を浮かべ、目を瞑り最期を覚悟した。


 ーーあぁ、最後に一目でいい……





 ルータス様にーー会いたかったなぁ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

数日以内に次回の投稿をいたします。

作者の励みになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマの程よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ