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英雄姉を好む  作者: 七歌
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四章『姉と、義兄弟。』 その6


「やぁ不詳の息子。手を焼かせてくれて母親冥利に尽きるが、流石にやり過ぎたな」


「うううう……っ!」



 冬夏から数メートル離れたところで、両腕両足を重厚な金属の枷で戒められた春秋を見下ろし、義母である乱は呆れたように息を吐く。

 乱の隣には、乱に連絡をつけた来夢も立っていた。


 春秋は、恨めしそうに、来夢を睨みつける。



「どうしてだ……来夢ちゃん。俺の計画に乗れば、あの馬鹿と一緒になれたっていうのに……!」


「……確かに、そうかもしれない。あたしだって迷った……けど。

けど、そんなことしたら……あたしは、冬夏とは一緒にいられない。そんなの、あたしが許せない」


「好きじゃ、ないのか、冬夏のことがっ」


「好きに決まってる! でも、好きだから、冬夏に、冬夏が好きな人を、遠ざけるなんてことはしたくない!」


「……理解、できない。なぜだ……俺の何が……間違ってるとでも……」



 春秋は、心底来夢の気持ちを、言葉を理解できない様子だった。

 そんな春秋の感性を一刀両断するように、乱が言い放つ。



「間違ってるさ」


「な……に……?」


「人を好きになるのも勝手だし、手に入れるために手段を尽くすのも勝手さ。

野生じゃよくあることだよ、自分が繁殖したい相手と戦って、屈服させる。

そういうことはよくある話――けど」



 乱は冷ややかに、春秋を見下ろす。



「それは、『人間』がしちゃいけない。

……春秋。お前の能力は野生に近づけば近づくほど、理性を捨てれば捨てるほど、人間以上の力をだせるが……しかし、人間として捨ててはいけないというものはあるんだよ」


「……なら、いらない」



 ぽつりと。


 春秋は肩を落とし、俯いて、ぽつりとこぼす。


 そして再び顔をあげた時、そこには無表情があった。

 何もかも拒絶するような、無の表情が。



「捨ててやる。俺の進む道の邪魔になるものなんて」



 春秋の体から、青いオーラがあふれ出す。

 それはすぐに狼の形をとって、春秋の体に絡み付いた。

 乱は脅えたように一歩下がった乱を庇いながら、息子に声をかける。



「人でなくなるつもりか、息子よ」


「人間のルールが俺を縛るなら、それを捨ててやる。俺は俺のルールで生きる。

――義母さんが教えてくれたんだろう、俺は、自分のやり方を貫いた方が――強い」



 頑丈な手足の枷を、春秋はめきめきと音を立てて破壊し、外した。



「……嘘……ボルトで締めてたのに、外した……!?」


「……離れなさい、来夢ちゃん。少々危険だ」



 驚きを露わにする来夢と、来夢を後ろに庇いながら距離を取る乱。

 そんな二人を無視して、春秋は狼どころか熊のように膨れ上がった毛皮を被ったまま、じろりと視線をいやしが運び込まれたボックスカーの方へと向けた。



「いやし……いやしは……いやしは俺の……!」


「っ……待て、春秋!」



 乱が止めようとする。だが、それよりも早く、春秋は地面を蹴って走ろうとして――



「――待てよ、クソ兄貴」



 春秋が地面を蹴ろうとした瞬間。

 その足元で、銃弾が跳ねた。


 撃ったのは、少し離れた場所で体を起こした冬夏だった。


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