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英雄姉を好む  作者: 七歌
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四章『姉と、義兄弟。』 その2


 中心街に到着し、さらに移動すること十分ほど。


 閉鎖されている公園の近くで、冬夏と来夢は打ち合わせをしていた。



「兄貴はまだ動いてない。おれを待っているんだと思うけど」


「一人で大丈夫? 手助けとか……」


「いや、兄貴相手じゃ手助けで同士討ちになりかねないから、いいよ。

公園に入って三十分して出てこなかったら、すぐに帳に連絡をいれてくれ」


「了解。……気をつけてね。

いやしさんが助かっても、冬夏が居なくなっちゃったら意味ないんだから」



 心底心配してくれていることに感謝しながら、小さく頷く。

 懐から手袋を取り出すと、しっかり装着した。

 来夢が設計してくれたものだが、創り札で生み出されたものではなく、『帳』経由で特注してもらったものだ。定期的に来夢にお願いして作ってもらっている。


 創り札でも機能的には変わりないが、お守りとしていつも持ち歩いていて、ここぞという時にはこれを使っていた。


 今がまさに、その時だ。



「来夢が作ってくれた手袋もあるし、ガードは万全だ。しっかり戻ってくるから、安心してくれ」


「わかった。でもホント、気を付けてよね」



 心配そうな視線をうけながら、閉鎖された公園へと。

 入口は閉じられているので、周囲のフェンスをよじ登って中に入った。

 同時に、ずっと使っていた能力も切る。

 素早く左目に目薬を差して早く充血が引くようにしながら、慎重に春秋が隠れている場所へと歩みを進めて行った。



「兄貴! 出て来い! 待ってるんだろ!?」


「……あまり大きい声を出すなよ。いやしが起きるかもしれないだろ?」



 ある程度近づいてから声を張り上げると、資材の物陰から春秋がゆっくりと姿を現す。

 その表情はいつもと変わらず、なにを考えているかよくわからなかった。



「いやし姉ちゃんは?」


「居るよ、そこにな。必要なら確認したらどうだ?」



 物陰の方を指さしながら言われて、すぐに能力を発動し視点を飛ばし、物陰のいやしの姿を再度確認する。

 なにかされた様子はない。

 ついさっきまでずっと監視していたので、この短時間で何かできるわけもないと思うが。



「一応なにか身に着けているものこっちに寄越してくれよ。

自分の能力がしんじられないわけじゃないけどさ」


「相変わらず面倒な奴だな。……ほら」



 一度物陰に入ると、靴を脱がせて投げてくる。

 すぐさま鼻に近づけて、いやしの臭いがするかどうか確認する。



「……? 兄貴、姉ちゃんに薬かなんか打ったか?」


「ふん? よくわかったな。睡眠薬を打ってある」


「なるほど。道理でにおいが」



 ……この間足のにおい嗅いだときも、兄貴に薬打たれた後だったのか。


 先日いやしの足のにおいを嗅いだ時何故かにおった原因に思い至る。

 おそらく、春秋が薬を打った後だったのだろう。

 薬を打たれて無意識にストレスを感じることは稀にある。

 いやしは足裏の汗にストレスが出やすい体質なので、そのせいでにおったのだろう。



「いやし姉ちゃんのストレスになるようなことしやがって。ぶっ飛ばすぞクソ兄貴」


「どうせぶっ飛ばすつもりで来たくせになにを言ってるんだ」



 薄ら笑う春秋。

 その顔がまた妙にイラっとくる表情で、今すぐ戦闘開始したくなるのを冬夏はいやしの靴を握ってぐっとこらえた。

 一応まだ、聞きたいことがある。



「それで兄貴? なんでこんなことしたのか一応釈明しろよ。

兄貴のことぶっ潰したあと、後で報告書作らなきゃいけないからさ」


「釈明することはなにもない。いやしのことが好き、行動動機はそれだけだ。それ以外になんの説明がいる?」


「いや、流石にもっとなんかあるだろ。ていうか、連れ去ってどうするつもりだったんだよ。

なんかどっかの組織に保護してもらうつもりだったとかなんとか、バスの中で来夢から聞いたけどよ」



 いやしと春秋が両想いで、いますぐ駆け落ちでもしそうな雰囲気を常日頃からまき散らしていたというのなら、連れ去った後の生活はたいそう幸せだろう。


 もっとも、その場合そもそも連れ去る必要がないのだが。

 どちらかといえば冬夏を追い出す方に動いた方が効率的だ。


 しかし実際には春秋はいやしに好かれているとは言い難い――と、冬夏は考えている。

 少なくとも、春秋よりだったら冬夏の方がいやしに好かれている自信はあった。


 そんな冬夏の疑念を春秋は察したのだろう。

 一つ頷くと、神妙な表情で語り始めた。



「そうだな……とりあえず、手始めにいやしには俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでもらうように教え込むつもりだよ。薬でもなんでも使ってな」


「……はい?」



 神妙な表情とは裏腹に、耳を疑うような内容が春秋の口から発せられ、冬夏は真顔になって聞き返す。

 すると、春秋は呆れたような表情でもう一度言う。



「聞こえなかったか? いやしに『お兄ちゃん』と呼んでもらって、しつけて、身も心も俺の理想の妹兼恋人にしようって話をしたんだが」


「聞こえたけど聞きたくなくて脳が拒否したんだよこのクソ兄貴!?

おま、お前、好きだからさらうんじゃなかったのか!? 滅茶苦茶だろ!」



 薬でもなんでも使って、ということは人格破壊して自分の思い通りになる人形みたいにするというのと同義だろう。

 そんな行為が『好き』という感情からくるものであるわけがないと思って冬夏は言ったつもりだったのだが、春秋は不思議そうに首をかしげた。



「なに言ってる? 好きだから、俺は好きでいる努力をするんだ」



 心底意味が分からないと、春秋は淡々と語る。

 意思を感じさせない表情で、その心理を語る。



「俺はいやしが好きだよ。同学年とはいえ一応年下、ああ、言ってなかったが俺は昔から可愛い妹ってやつに憧れててな。だからいやしには俺のことをちゃんと兄扱いしてほしかったが、冬夏っていう本当に年下の義弟ができたせいか、いやしは年上としての責任感とかばっかり伸びて、妹のようにはならなかった。いや、確かに俺の怠慢もあるが。とはいえもちろんそれだけじゃない、一目ぼれだよ。俺は会った時からいやしの時が好きになった。好きだった。けど、いやしは全く俺の方に意識を向けてくれることも、妹のように一度でも振る舞うこともなかった。だから嫌いになりそうにもなったが、俺は好きでいる努力をした。そのために計画をたてた、そのために――」



「……ああ、うん、わかった。もう話すなよ兄貴。アンタの脳みそ大分腐ってんのはわかったからさ」



 聞きかねて、というか途中から話半分でほとんど頭には残ってなかったが、それでも聞いているのが嫌になるような内容だったため、冬夏は無理やり話をぶった切る。


 すると、明確に嫌悪をあらわにして春秋が睨みつけてきた。



「冬夏、お前だっていやしのことが好きだろ? 俺よりは気を向けてもらってるかもしれないが、それでもどうなるかわからない。もしも好きでいられないと思ったら、俺と同じようなことをするんじゃないか?」


「するわけないだろ、そんなバカげたこと」



 呆れた声音で、すぐさま冬夏は否定する。



「おれが好きなのは、いやし姉ちゃんだ。兄貴のやろうとしてることは、いやし姉ちゃんを違う人間にするようなことだろ? こじらせすぎのアンタと一緒にするなよ、クソ兄貴が」


「……っは。お前は相変わらず言いたいことを言いたいように言うな」



 一瞬、春秋の口元が笑みに歪んだ。

 しかし本当に一瞬で、その目はすぐに、見下すように冬夏を睨みつける。



「俺はお前のそういう所が大嫌いだったよ、冬夏。――ウルフウェア!」



 春秋の能力が発動し、狼の毛皮が顕現する。

 それに対して冬夏はずっと握っていたいやしの靴をズボンのベルトにはさむと、手袋をした拳をゆっくりと握りしめて構えた。



「おれも兄貴の、なんでもかんでもため込んで、何も言わないで、心の中で腐らせるようなトコ――殺したいほど大嫌いだよ! このクソ兄貴がぁっ!」


「冬夏ァア――ッ!」


 春秋の叫びと共に、戦いの火ぶたが切られる。

 春秋の姿勢が低くなったかと思うと、一瞬で最高速度まで加速し、冬夏に向けて突っ込んできた。


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