三章『姉と、デート。』その11
「よいしょ、っと」
テーブルの上に夕飯の材料が入ったビニール袋を置いて、冬夏は一度伸びをした。
買い物を終えて帰ってきたのはいいものの、家には誰も居ない。
夕飯の買い物の前に一度荷物を置きに来た時にも春秋は居なかったから、三十分かそこらで帰ってくるわけはないだろうと思ってはいたが、やはり帰ってきていなかった。
人が居ないと、家の中は随分と静かだ。
人が居るだけで、空間が随分にぎやかになるのだと改めて理解して、一抹の寂しさを感じる。
早くいやしたちが帰ってこないかな、などと思いながらも、夕飯の準備をしようとビニール袋から買い物したものを取り出そうとして。
ピンポーン、と玄関の方から呼び鈴の音が鳴った。
誰だろう、と冬夏はインターホンをつないで来客の顔を確認しようとしたのだが。
――ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!
「うるさっ!? 誰だよまったく……!」
連打された呼び鈴の音に痛む耳を塞ぎながら、早足に玄関に向かう。
どうせ今はいやしは居ないのだから、多少警戒を緩めてインターホンを確認する必要はないだろう。
文句の一つでもいってやろうと思いながら、玄関を勢いよく冬夏は開け。
「誰だこらぁ! ……って、来夢?」
そこで、無心に何度も呼び鈴のボタンを押していた来夢を見つけた。
冬夏の声に反応した来夢は、ボタンから指を話、だらんと腕を重力に引かれて落とすと、ほとんど無表情のように見えた顔を――ゆがめた。
「とう……か……ごめん……ごめんね、あたし……あたし……っ」
来夢の中で、一気に感情が爆発したのを冬夏は感じた。
涙し、悲しんでいるように見えるものの、入り混じる感情を表現しきれていない顔の筋肉は、痙攣したようにひくついて、どちらかといえば無表情に近く見える。
その表情に戸惑いを隠しきれないでいると、来夢は涙をこぼしながら、頭を下げた。
「ごめん……っ! あたし、迷って……っ!
だって、ほしいもの、手に入るって、うれしくて、喜んじゃって、でも、でも……っ!」
何を言っているのか、上手く飲み込めなかった。
それでも。
「あたしは、アンタにとって、嫌な奴になりたくない……! それだけはイヤ!
だから、迷ったけど、ダメなこと、しちゃったけど――お願い!」
必死な言葉は伝わってくる。
だから、冬夏は、真剣にその叫びを聞いて。
「お願い、冬夏……っ! いやしさんを助けて!」
「――任せとけ」
力強く、すぐさま頷き返したのだった。
三章終わりです。




