三章『姉と、デート。』その2
冬夏といやしが家を離れて行こうとしている頃。
隣家の屋根の上で、二人の人間がうつぶせになってその様子を観察していた。
言わずもがな、前日にストーキングしようと決意していた来夢と――そして、春秋である。
「よし、行ったな。もう少し離れたら、俺たちも移動を開始しよう」
「……あのー、春秋さん? 自然な感じであたしの隣にやってきたので今までツッコミを入れるに入れられなかったんですけど、なんでストーキングしてるんですか?」
半眼を向ける来夢に対して、特に変化ない表情を春秋は向けてくる。
その表情は『言うまでもないだろ』と言わんばかりだった。
「言うまでもないだろ」
「口でも言ったし……」
「? なんの話だ」
「いえ、こっちの話です。それで、理由は?」
「来夢ちゃんと同じってことだ。
いやしと冬夏がデートするっていうなら、何が起こるか見届けたい。それだけだよ。
ついでに手伝ってあげようってわけだ」
「はぁ……まぁ、あたしより春秋さんの方が尾行上手ですから、手伝ってくれる分には助かりますけど」
春秋と来夢だと、受けている訓練が根本的に違う。
来夢が知識方面の訓練を大目に受けているのに対して、春秋や冬夏の受けた訓練はより実践向きであるものが多い。
よって、身体的な技術面では春秋の方が来夢より数段上なのだ。加えて――
「ふむ……そろそろ追いかけていいかな。――『ウルフウェア』」
春秋がつぶやくと同時、エネルギーで出来た狼の毛皮(頭部のみ)が春秋の頭を覆う。
春秋の能力は感覚が鋭敏になるため、追跡などにはもってこいなのだ。
「春秋さんの能力、頭だけとか出来たんですね」
「昔は出来なかったが、訓練しているうちにいつの間にか。
出来る様になったのは、訓練を少しきつくした高校に入ってからだが」
「へぇ……冬夏と同じかぁ……」
冬夏も高校に入ってから『いやし姉ちゃんを守る!』と意気込んで鍛えなおしていたのを思い出し、仲が悪いのに変なところで似ている義兄弟だと呆れまじりに感心してしまう。
同族嫌悪というやつなのかもしれない。それこそ、言ったら否定されそうだが。
「馬鹿のことなんてどうでもいい。行くぞ、来夢ちゃん」
「あ、ちょっと待ってください。その前にやっとかないといけないことが」
「どうかしたか?」
「いや、冬夏のやつ浮かれすぎてカギかけないで出てったんです」
半笑いでドアの方を指さすと、春秋は深いため息を吐いた。
「義理とはいえ、愚弟で悪いな、来夢ちゃん」
「もう慣れてるからいいです。
ホンットもう、いやしさんのこととなると周りの注意がおろそかになるんだから……」
……けど、そんな風に夢中になれるところも、好きなんだよねぇ……。
来夢は幼馴染への曲がらぬ想いを自覚して、今度は別の意味で苦笑してしまう。
そして普段から預かっている鍵でドアを閉めると、今度こそ来夢は春秋と共にストーキングを開始した。




