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英雄姉を好む  作者: 七歌
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二章『姉と、不審な来夢。』その4

 神社に到着した冬夏と来夢は、歩速を緩めて、ゆっくりと境内を進んでいく。


 鳥居がいくつか並び、奥にはあまり大きくない社がある。

 敷地は三方が一列の木で囲まれ、さらにその外にはフェンス。

 適当なところで足を止めて荷物を地べたに置き、『視点』で敷地内と外を適当に見回すが、それらしい人影はまだなかった。



「相手は? 来てる?」


「来てないな……この間のヤツみたいに、隠れてる可能性もあるけど」


「遠距離から攻撃してきてたし、開けた場所には出てこないかもしれないわよね」


「そうなんだよなぁ。そうなると完全に無駄足だ」



 後頭部をかきながら、しかし警戒は緩めない。

 視点を使って周囲を観察し続けるが、変化はない。


 これは本当に来ないかも、とほんの少しだけ気を緩め、ずっと閉じていた左目を開く。

 ずっと目を閉じていると、それはそれで疲れる。

 能力を使っているため映る視点は固定されているが、眼球を動かして多少筋肉の疲れをとった。

 眼球を動かしても映る映像が変わらないのは、慣れたものだがおかしな気分だ。



「そういえば、来夢はなんでおれたちが襲われたと思う?」


「え? さ、さぁ……なんでだろ。いやしさんを狙う前に周りの人間から排除しよう、とか?」


「でも、おれたちを狙って、もし殺せたところで『帳』による警護が厚くなるだけだ。

いやし姉ちゃんの体質がわかってるなら、帳の……とまではいかなくても、なにか大きな組織が守ってる、くらいはわかってるはずだろうし」



 冬夏の言葉に、来夢は黙る。

 しかしその表情は何かを隠している様子ではなく、本当に、なぜ自分たちが狙われているのかわかっていない様子だった。



「そうよね……なんであたしたちの方を……? 狙いがわからなすぎる……」


「来夢、お前なんか他人から恨みとか買ってない?」


「しっ、してないわよ? 恨まれるようなことなんて! 冬夏こそ、いやしさんのことで見境ない行動して、命狙われるような迷惑誰かにかけたんじゃないのっ?」


「あー、うん、……否定できないのが痛いよなー、それ」


「あるの!?」



 曖昧に笑うと、来夢が驚きの表情で詰め寄ってきた。



「あんたねぇ……っ! もしそれが原因で今の状況があるんだったら恨むわよ……!」


「さ、流石に命狙われるようなことはしてないって……多分。

……二次被害とか三次被害とかは知らないから、そこで恨み買ってたらホントどうしようもないんだけど」


「ホントになにしたの……?」



 驚き怒りを通り越してあきれ顔をされる。



「中一とか中二の頃の話だって。姉ちゃん守るためにすごい張り切ってたの。

周りに迷惑かかるくらい。リアル中二病ってことで許してくれよ」


「それが今の今まで引きずってるんだとしたら病気っていうか感染病じゃないのよ……っはぁー……あたしの今の頑張りって一体……」



 重苦しく何度かため息を吐く。

 どうやら、現在来夢が巻き込まれているトラブルに今の襲撃は関係あるようだ。

 これで原因が本当に冬夏の過去の行動だとしたら、土下座+αは免れないだろう。



「とりあえず今度もっかいおごりね。今日は襲われたからノーカン」


「ちょっと待って。

おれが悪いことしたってまだ決まってないよね? 事実関係が明らかになってからでもよくないそれ?」


「別にいいでしょ。たまには幼馴染のこと労ってよ。苦労かけてる自覚あるならだけど」



 やや頬を赤くして、拗ねたように言う。

 そんな言われ方をされては、冬夏としては断れない。


 冬夏も、そこそこ迷惑をかけてきた自覚と自信はあるのだった。



「わかったよ……じゃ、また今度な」


「……えへへ。楽しみにしてるから」



 にんまりと、本当に嬉しそうに笑みを浮かべる来夢。

 期待されてもたいして楽しくできる自信は無いんだけどなぁ、とやや渋い顔をしつつ、冬夏は左目を擦りながら能力を解除した。



「あれ? もう大丈夫そう?」


「全然動きないし、正直ずっと使ってると目の奥痛くなってくるし。

まぁ、念のため周辺だけ帳の人に調べてもらって――」



 不意に、首筋のあたりにちりっとした違和感を感じた。

 違和感というか――視線。

 普段自分が扱っているものだからこそ敏感に、冬夏は殺気の籠った強い視線に振り返り。



「……っと!」


「冬夏?」


「どうやら、こっちが警戒とくの待ってたみたいだ」



 やや呆けた様子の来夢に、掴み取った飛来物を見せる。

 冬夏の手の中にあるのは、ぬめった液体がついた針。

 硬質プラスチックで出来たコーンがついているのを見ると、吹き矢用の針らしい。


 飛んできた方向あるのは木だけだが、その影に男が一人隠れていた。

 冬夏より年上に見えるから、大学生くらいだろうか。

 気づかなかったのは、男の近くに落ちているカモフラージュ用の布のせいか。

 塗りを見る限り手作りのようだが、かなりよくできている。



「ずっと隠れてたっていうの? ここに? いつから……」


「考え読まれて先回りされてたのかもな。

けどま、今のが外れたんじゃもうおしまいだぜ。この手袋越しなら吹き矢をキャッチしてもなんの弊害もないみたいだし」


 先ほどかすめた時は電気が走ったような衝撃があったのだが、おそらく、針に付着している液体にその効果があるのだろう。

 あるいは本当にこの液体に『蓄電』されていて、当たった瞬間放電されるような能力なのかもしれない。

 直には触りたくもないから、確かめるすべはないが。



「それは聞き出せばわかることだよな。おれたちを狙った理由と一緒に」



 冬夏は手袋をしっかりとはめなおしながら、男に向かって一歩踏み出す。

 大学生くらいの男は、じりじりと距離を詰める冬夏に対して、少しずつ後退しようとしていたようだったが。


 ふと。

 その口元に、笑みらしきものが浮かんだのを、冬夏は見逃さなかった。



「っ? ……開け!」



 咄嗟に能力を発動し、振り向くより早く背後を確認。

 状況をあまり理解できていない来夢の背後に、もう一人男が居る――!



「転がれ来夢!」



 咄嗟の指示だったが、来夢はしっかりと反応、状況を正しく把握する前にその場に身を投げ出すようにして転がっていた。

 だが、背後の男の位置や動作をしっかりと把握していなかったのが不味かった。



「い――づぅ!?」


「来夢!」



 来夢の足に針が刺さる。途端、ばちぃッ、と音を立てて付着していた液体が放電を行った。

 放電は一瞬だったが、影響は甚大だ。

 痛みこそ堪えられているようだが、来夢の足は痙攣していて、上手く動かなくなっているようだった。

 来夢を狙った男は、最初に見つけた男と同じ顔。



「双子かよ……! 珍しいな全く!」



 来夢の近くに駆け寄って、来夢を守るように立つ。

 双子だけあってというべきか、能力は二人とも電気を操るタイプらしい。

 ただ、あの謎の液体――冬夏のカンでは唾液あたりか――に蓄電し、放電するという手順を踏まなければいけないようだ。


 二人くらいなら、隙を突けば一人でも相手取れるだろうか――と、冬夏は静かに思考を巡らす。

 遠距離で攻撃してくるのが痛いが、二人程度ならば『弾込め』の隙を狙って迎撃可能だ。


 来夢から受け取っている『創り札』もある。それを使って無理やり隙を作ることだって出来るだろう。

 楽じゃないにしろ、十分切り抜けられる。そう思っていた冬夏だったが。



「双子じゃないよ」



 声がした。二人の男、ではない。

 別の方向、冬夏の背後から。

 社の影から出てきた、他の二人と同じ顔をした男は、楽しそうに笑った。



「――僕ら、三つ子なんだ」


「クソ設定どうもありがとう……!」



 三つ子とかどこのギャグ漫画設定だ! とキレそうになるが、そんな暇はなかった。

 三人目が現れた途端、針が三方向から時間差で飛んできたのだ。



「っく、っそ、この……!」



 冬夏の技量でどうにか叩き落とすなりキャッチするなりできているが、相手は来夢も狙ってきている。

 加えて囲む発射口は三つ。

 能力を併用していても自然と守るための動きは大きくなり、反撃に出る暇はなくなってしまう。



「ら、いむ! 何か、針とか、電気とか、通さない布みたいなの、ないかっ?

あるなら、被っててくれ! それで、少しは、こっちの負担も減る……!」


「ちょ、ちょっと待って。今探すから……!」



 転がった時に荷物とはやや距離が出来てしまったため、制服の中を漁り始める来夢。

 それを横目に、冬夏は絶えず襲い掛かる針を処理していく。


 三つ子ならではの阿吽の呼吸というべきか、一本針を処理した瞬間、冬夏が背後を向けている男がすかさず針を放ってくるのだ。

 能力で背後を確認しているからどうにかなっているものの、無かったらおそらく今頃感電して地面に伏していただろう。


 ぬめった嫌な汗が額を流れ落ちるのを感じながら、冬夏は雑念を払いひたすら防衛に専念する。

 一瞬でも気を抜けば、高速で飛来する針に対処できなくなるのは目に見えている。

 だが、そんな時間稼ぎがようやく実を結ぶ。来夢が目当てのものを見つけたらしく、声を上げた。



「あった!」


「よっし、それ展開して自分の体隠しといて! その間におれがどうにかするから!」


「オッケ! 『防護シート0』! ……ん? ぜろ?」



 来夢は名前を呼んで、軽くカードを上空に放ると同時に首を傾げた。

 しかし呼ばれた以上、能力はすぐに発動する。

 設定された情報を元に形成される架空の物質。

 名前の通りの防護シートは、しかし。



「ちょ……でかくないか!?」


「……あー……これ、試作品のLLサイズだったかも……どうりでナンバーが普段振らないゼロなわけだわ……あはは」



 驚く冬夏と、やっちまったと言わんばかりに悟ったような諦めの声を出す来夢。

 その次の瞬間、二人を完全に覆い隠すほどの、約十メートル四方の防護シートが、ばさりと音を立てて二人を覆い隠した。


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