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レベル1勇者の神殺し  作者: 伊崎則人
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レベル1勇者、ダンジョンに入る


「ったく、朝から気分が悪ーぜ。女子供のおもりなんてよぉ」

「ま、そう言うなよ。彼らも必死に稼いでんだからさ」

「それよか、C級とかだるくね? もうちょっとムズイとこ行きた~い」


 バリーのパーティーメンバーは、彼の他には二人だった。

 金髪のチャラそうな男性『ペリグラ』に、やたら露出度の高い服を着た『シャルミア』という女性の二人。

『グリオーム』の町では最強クラスの冒険者パーティーが彼らであった。

彼らは今、街の近くの山奥にあるC級ダンジョンの攻略中だ。

 二人のアイテム係を連れて。


「はぁ……。気分が悪いのはこっちよ……。何でよりによってバリーたちなのよ……」

「ってか、全然アイテム落ちてないなー。もう誰かに取られちゃったんじゃね?」


 二人はバリーたちの荷物を持ちつつ、道に落ちているアイテムを探す。あえて彼らとは十メートルほど距離を離して歩きながら。


「おっ! やっとアイテム見っけ! これB級じゃん! やったー! ラッキー!」

「別に全然ラッキーじゃないでしょ? アイテム係のアイテムは、結局依頼主の物に鳴るんだから」


 アイテム係がダンジョンで拾ったアイテムは、原則として依頼主に渡さないといけない。そういう決まりになっていた。

 そしてダンジョンで手に入るアイテムは、監禁すればお金になる。ギルドからの報酬以外でも、冒険者はこういった手法でお金を稼いでいくのである。


「え? でも言わなきゃバレなくね?」

「もしもバレたらマズいでしょうが! アンタ、グリオームで仕事できなくなるわよ!」

「まあまあ、固いこと言うなって――」


 と、グロウがアイテムを自分のポケットに隠そうとしたとき……。


「こらガキィ! テメエ、アイテムちょろまかしてんじゃねぇぞお!」

「げっ! バレた!?」

「次やったらマジしばくからなぁ! お前ら二人ともだ! 分かったなぁ!」

「す、すみません! もうしません!」


 グロウの代わりにレオナが頭を提げて謝る。

 しかし、バリーはそれからも――


「おい、ちゃんと働けよクソガキィ! 無駄口叩いてんじゃねえ!」

「この辺アイテム落ちてっぞ! 残さず全部拾ってけよ!」

「おいテメエ! さっさとついて来い! 歩くスピード遅ぇんだよ!」


 なんだかやたらと、バリーはグロウを怒鳴りつけていた。


「はいはーい。ちゃんとやってますよー」

「んだその態度は……!? そう言えば、テメエからはまだ銀貨をもらってなかったなぁ。これが終わったらしっかり払ってもらうからなぁ!」

「へーい。了解しましたよー」


 ものすごく適当な返事をし、グロウは周囲のアイテムを探す。


「ねぇ、グロウ……。あれからまたバリーに何かした……? すごく嫌われてるっぽいけど……」

「さあな~。昨日はあれから会ってないけど」


 そんな風に話をしながら洞窟内を歩いていると、前を歩くバリーたちが突然ピタリと足を止めた。


「ほぉ……。やっとダンジョンらしくなったな」


 この先の道は、左、右、直進と三つのルートに分かれていた。そして、それぞれの未知の奥を見てみるといくつも曲がり角がある。


「迷路型のダンジョンか……。攻略するのは久しぶりか」


 ダンジョンの姿は、その場所によって千差万別。ここのように迷路の形をとっていたり、モンスターが大量にいる部屋がいくつも用意されていたり。その形は、入ってみるまで分からない。


「まっ、このダンジョンのレベルはCだし? そんな大きな迷路じゃないっしょ?」

「そうだといいけどぉ? ってか、どうする~? 道、三つに分かれてるけど」


 パーティーのメンバーは、アイテム係のグロウたちを入れて五人である。一つの道に二ずつとしても、どうしても一人余ってしまう。


「そうだな……。じゃあ、ペリグラとシャルミアは二人で左の道を行け。俺は一人で真っすぐ進む。そんで……」


 バリーがグロウたちを振り向き、アイテム係を雇う物としては衝撃的な言葉を放つ。


「お前らは、二人で右側に行きな。落ちてるアイテムはしっかり拾えよ」

「え……っ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」


 慌てて反論するレオナ。実力の低い彼女からしたら、到底この指示は容認できない。


「私たち二人でC級ダンジョンの探索は無理よ! グロウはまだレベル1なんだし、私だって30前後……。せいぜいD級が限界なのに!」

「そんなことはどうでもいい。俺はやれって言ってんだ」

「な、なんて横暴な……」


 怒りでプルプルと腕が震える。


「別に嫌なら帰ってくれても構わんぜ? その場合、当然金も払わねぇが」

「ぐっ……」


 レオナは言葉を詰まらせた。

 確かに今なら引き返せる。ここに来るまでは一本道で魔物も潜んでいなかったし、数分歩けばすぐ外だ。

 だが、報酬をもらえないのはキツイ。昨日お金を使いすぎたせいで、銅貨一枚持っていないのだ。このままじゃ今日は食事もできない。

 レオナが葛藤していると、その肩をグロウが優しく叩いた。


「別にいいじゃん。俺たち二人で」

「ぐ、グロウ……?」

「だって、どんな敵が出て来ても俺一人で全部蹴散らせるしさ」

「またアンタはぁ! そんな馬鹿なことばっかり言ってぇ!」

「ヘヘッ。そんじゃあ決まりだな。おら、さっさといくぜ、野郎ども!」

『へ~い』


 ペリグラとシャルミアが左の道に、バリーがまっすぐ伸びた道にずんずん歩いて来えていく。これで取り残された二人も、進むしか道はなくなった。


「ああもう……。ここでやらずに逃げたら、絶対後で仕返しされる……」

「だからさっさと行こうぜ、レオナ。モンスターがⅮてもやっつけるからさ」

「アンタの能天気、少し分けて欲しいわ……」


 仕方なく、レオナも右の道へ進んでいった。


               ※


(ヘッ……。思惑通りだぜ)


 バリーはこっそりグロウたちの後をつけながら、内心ほくそ笑んでいた。

 彼はまっすぐの道を進んでいったかと思いきや、尾行するため二人と同じ道へ進んでいたのだった。

 アイテムを使い、自分の姿を見えなくしながら。


(B級アイテム『ステルス・チェーン』。この鎖を腕に巻いている間は、透明になって一切の攻撃も通さない。使い捨てだが、いいアイテムだぜ)


 彼がそんなアイテムを使ってまで二人の後をつける理由は、たった一つしか存在しない。

 すなわち、グロウの秘密をさぐること。

 バリーは、グロウの力の正体がずっと気になっていたのだった。レベル1でありながら、自身の腕に痣を残すほどの怪力。どうせアイテムを使ったのだろうが、そんな気配すらあの時はまるで感じなかった。


(ガキが戦うところを見れば、怪力の秘密が解けるはず……! そしたら後はたっぷり礼をしてやるぜ……。俺に傷をつけたお礼をな!)


               ※


迷路は、思ったより入り組んでいた。分かれ道や曲がり角が多く、五分も進めば元の位置まで戻れなくなる。


そんな中、グロウとレオナは叫びながら進んでいた。


「いい加減自覚しなさいよ! アンタはレベル1! 弱いのよ! そして私も結構弱いの! クリアできるのはせいぜいDクラスダンジョンまで! それ以上は私より強い人とパーティー組まないと無理なのよ!」

「だーかーら! 俺は本当に強いんだって! バリーなんか目じゃないぜ?」

「レベル1のやつが強いわけないでしょ! いい加減夢から覚めなさい! 私たちは弱いの❕ただのザコなの!」

「レベルに現れない強さもあんだよ! 俺、言っとくけどドラゴン倒したことだってあるぜ?」

「はいまた妄想! そういうのいいから! ホントいいから! 脳内設定は一人でやって! 私をいっしょに巻き込まないで!」

「あ。あとA級のダンジョンだってソロで攻略できるんだからな! あそこのボスは見掛け倒しで……」

「あーもう! 話が通じな――――――いっ!」


 二人はゴールに行く方法や敵が出て来てしまった場合の対処法などを考えるでもなく、互いの気持ちを相手にぶつける。

 そんなことばかりしているから、いざ魔物と遭遇した時に慌てることになるのだろう。

 二人は曲がり角を曲がった瞬間、ビクッと体を硬直させた。

 数メートル先に道の幅にピッタリはまる、巨大な戦車がいたからだ。


「え……? こ、これは……」


 迷路ダンジョンにのみ出現する、特殊モンスター『メイズ・タンク』。

 その名の通り迷路内を走る巨大な戦車で、侵入者を撃って粉微塵にするか、そのキャタピラで押しつぶすまで、敵をどこまでも追い続けるという非常に危険な魔物である。

 それが今、グロウたちのことを感知した。


『ビーッ! ビーッ! 侵入者発見! 迎撃モードニ移行シマス』


 装甲上部に取り付けられた赤い魔石が輝いた。そして、戦車が動き出す。


「キャーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 そこでようやく硬直していた体を動かし、すぐに逃げ出そうとするレオナ。

 だがグロウは、むしろ前にでる。


「へぇ! C級ダンジョンにしては面白い敵が出てくるじゃん。少しだけ本気出せそうだぜ!」

「バカーーーーーーーーーーーーーっ!」


 グロウが拳を構えた瞬間、レオナが彼の腕を掴む。


「何馬鹿なこと言ってんの! 早く逃げるわよ! こっち来て!」

「え? 何でだよ!? せっかく楽しめそうなのに!」

「この期に及んでまだ言うか! ホント、頼むから自覚して! アンタはすごく弱いから――」


ドオオン!


 向かい合う二人の鼻先を、光る砲弾が掠めていった。

 砲弾はその先の壁に激突。盛大な音を立て、破壊した。


「――――――――――――――――――――――!」

 悲鳴を出す余裕すらもなかった。

 レオナはグロウの手を引っ張り、強引にその場から逃げ出した。


「いででででででで! レオナ! 離せって! お願い離して!」

「もういやーーーーーーーーーーっ! 出口はどこよーーーーーーーっ!」


 敵は戦車だ。レオナにとっても戦って勝てる相手じゃない。ましてやグロウはレベル1。たとえ二人でも勝ち目はなく、生き残るためには逃げ切るしかない。

 レオナはグロウを連れて走り、出口目指してとにかく走る。

 敵のスピードは早くはないが、決して遅いわけでもない。油断したら、本当に機体に押しつぶされる。

全速力で走りながら、敵の砲撃を受けないように何度も曲がり角を曲がる。

 後ろで何度も、ドーン! ドーン! と爆音が鳴り、その度に迷路全体が揺れた。壁が壊れているのだろう。


「はあっ……はあっ……! でも、スピードは私達が早い……。このままなら逃げ切れるかも……」


 そうレオナが油断した瞬間。

 カチッ――。


「えっ……?」


 足元で、何かを踏んだ音がする。

 嫌な予感に、レオナは足元を見おろした。

 そこには、誰かが踏んだ際に発動するタイプのトラップが。要するに、地雷が埋められていた。あとはレオナが足をトラップから外せば、爆発が巻き起こるはずである。


「うそーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 ダンジョンには魔物の他に、トラップが存在することも多い。そんなことはレオナも分かっているが、まさかこんなタイミングでくるとは。

 当然、メイズ・タンクも迫ってくる。

 ドドドドドという振動を響かせ、曲がり角から現われる敵。レオナとの距離は、十メートルほど。直線状にいるために、砲撃でも突進でもレオナは直撃することになる。

 そしてかわしたら、地雷の餌食。もう完全に詰んでいた。


「お、終わった……。私の人生……」


 メイズ・タンクの赤い魔石が、一際輝きを増した気がする。

 敵は砲撃による爆殺ではなく、轢殺を選択したようだ。まるでレオナをなぶるように、ゆっくりと巨体を前進させる。

 レオナはまるで死の瞬間が引き延ばされるような苦痛を覚えた。涙の浮かぶ目を閉じて、唇を噛んで


「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 …………しかし。

 覚悟していた瞬間は、いつまでもやってこなかった。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!


 代わりに、身体の芯を揺らすような轟音。レオナは驚き、反射的に目を開けた。

 そしてその目に飛び込んできたのは、前面の装甲がメコッと凹み、赤い魔石の光が消えて動かなくなった戦車の姿。

 そして、その前に立つグロウだった。


「なんだ。思ったよりも脆かったな」


 そう言う彼の拳からは、なぜか白い煙が上がっている。


「……え? 何……? どういうこと……?」

 状況が呑み込めないレオナ。

 まさか、彼がパンチ一発で戦車を倒したとでもいうのか。

 何か、強化系のアイテムを使ったのだろうか? しかし、いくらアイテムを使ったと言えどもレベル1のパンチ一発で戦車が沈むとは考えにくい。第一、グロウの指にはさっきから何の指輪{アイテム}もはまっていない。

 となると、ワケが分からなかった。


「ね、ねぇ! アンタ今何したの!?」


 好奇心のあまり、グロウのもとに駆け寄るレオナ。


「まさか、本当にアンタがこの戦車を!? 絶対おかしい! だってあなたレベル1なんでしょ!?」

「い、いや……。。それよりレオナ……」

「何!? 早く教えなさいよ! なんであの戦車は壊れてるのよ!?」

「その前にさ……地雷踏んでたんじゃ……」

「え…………あっ」


 ちゅどーーーーん、と激しい爆発が二人を宙に舞い上げた。


               ※


「ば、バカな……!? レベル1のアイツが『メイズ・タンク』を倒すだと……!?」


 バリーは一部始終を見ていたが、やはり何のアイテムも魔法も発動するような気配はなかった。あれは紛れもない彼の実力。


「い、いや……! 認めねぇ! 何かカラクリがあるはずだ……!」


 バリーは爪を噛み、爆発によって吹き飛ばされた彼らの後を追うのだった。


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