表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1勇者の神殺し  作者: 伊崎則人
3/4

レベル1勇者、仕事を探す

 ガツガツウガツガツガツ!

 レオナと一緒に来たレストランの中、グロウはものすごい勢いで食事を胃袋に入れていた。


「ね、ねえ……。そんなに慌てて食べなくても料理は逃げないんじゃないかしら……?」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」


 グロウの食べっぷりに、レオナも少し引いていた。テーブルには五人前ほどの肉料理や魚料理が並び、グロウがどれほど飢えていたかを如実に物語っていた。

 それらを全部平らげて、グロウはやっと落ち着いた。水を飲み、大きく息を吐く。


「がは……っ。あ~、助かった……。ありがとう、レオナ。お陰で餓死は免れたよ。もう五日も飲まず食わずだったからさ」

「よくそれで生きていられたわね……。普通だったらとっくに天国だと思うけど?」

「まーね。俺、世界最強の冒険者だから」

「はいはい、それは分かったから。……なんでアンタはレベル1なのにそこまで自分に自身持てるのよ」


 グロウの話をまるで信じず、呆れ顔で頬添えをつくレオナ。


「それとも、レベルが全く上がらないから開き直ってる感じなの? 

「……? 良く分からないけど、俺が最強なのは本当だぜ? A級ダンジョンくらいなら、ソロでも余裕でクリアできるし」

「あなたの中ではそういう設定なんでしょうね。……A級なんて、一人で攻略できっこないわよ」


 ソロで攻略可能なダンジョンは、せいぜいB級までである。A級やS急になってくると出現する魔物が恐ろしくレベルの高いものになり、また、凶悪な罠も出現する。いかにな実力者であっても、一人で潜るのは自殺行為だ。


「でもさ、さっきは何でバリーのやつに銀貨3枚渡したんだよ? あのまま戦わせてくれれば、余裕でアイツに勝てたのに」

「はいはい妄想お疲れ様です。アンタね、そんなに自信過剰だとそう遠くないうちに命堕とすわよ。最強設定もほどほどにしなさい。早死にしたくなければね」

「あれ……? レオナひょっとして、俺の話全部信じてない?」

「当たり前でしょ。実際、こんなもの見せられちゃったらね」


 そう言いレオナがかざすのは、グロウの冒険者カードだった。

 冒険者カードはどんな魔法を使っても、偽装することは不可能だ。そのカードにしっかりと、レベルは1だと表記がしてある。これはもう、そういうことなのだ。


「でも、本当にレベル1なんて……。それはそれで信じられないわ」


 レベルは本来、ダンジョンに潜ったり魔物を倒したりする度に、その時に得た経験によって勝手に上がっていくものだ。

 冒険者は普通、10歳の頃から別の冒険者の力を借りてダンジョン探索を行っている。親や故郷の冒険者たちと一緒にだ。そのため、15歳になる頃には30レベルを超えているのが普通である。15歳になって30レベルを超えられないのは、人の力を借りなければ弱い魔物すら狩れないということ。また、レベル30はパーティーを作っての戦闘ならばギリギリ戦力になれるレベル。この歳になってもそこに到達していない者は、冒険者としての才能が欠如しているということなのだ。

 だが彼の場合、さらにおかしな点がある。


「しかもあなた……攻撃力も防御力も、素早さも体力も精神力も魔力も全部揃って1じゃない。その上、経験値ポイントも0。なんだお前! ついさっきデビューしてきたばっかか!?」


 レオナが読み上げた数値は、要するに初期ステータスである。しかも最初期で全部1というのは、よほど彼自身の力が弱いということだ。普通ならレベル1の段階であっても、どれか一つ、あるいは複数のステータスで5くらいまではあるはずなのに。


 それに、経験値ポイント0もおかしい。冒険者になったばかりの者でも、一度ダンジョンに潜ったり魔物と戦ったりすれば、経験値ポイントが必ず上がる。それが0ということは、冒険者としての経験を全く積んだことがないということ。


 これではカードを持っていても、冒険者なんて認められない。冒険者を目指す子供の方が圧倒的に強いくらいだ。


「あなた……。もしかして冒険者なりたてとか? 昨日くらいに始めてギルドに登録したとか……」

「いや、もう五年以上になるよ。最初の頃は故郷にある簡単なダンジョンで鍛えてさ」

「それならこれはカードの故障? ギルドに相談した方がいいかも……」

「い、いや大丈夫! そうじゃねーから。ちょっと、特殊な事情があってさ……」

「特殊な事情……?」


 それはなに? と聞こうとして、レオナは咄嗟に口をつぐんだ。

 特殊な事情。

 そう言葉を濁すということは、一言では説明できない何かがあるということだ。おそらくそれは、初対面の人減が踏み込んでいい何かではない。

誰にだって一つくらい、触れられたくない何かがあるはず。

 そう思い、彼女は話題を変えた。


「……でもあなた、こんな辺鄙な町まで何しに来たのよ?」


 この町は、南を荒野、北を海、西と東は山に囲まれ、非常に交通の不便な地域だ。その分、周囲にはたくさんのダンジョンが存在するが、レベル1の人減がわざわざ来るような場所ではない。それも、仲間も連れずにたった一人で。

 モンスターはダンジョン内でしか出ないため、旅をするだけならレベルが低くても問題ないが、冒険者として仕事をするなら初心者には厳しい町なのだ。

 グロウはレオナが聞いたあと、ほんの一拍間を置いた。

 その後、彼女の目を見据え、


「実は俺、世界中のダンジョンを一つずつ順番に巡っているんだ。……あるアイテムを探すために」

「アイテム……?」


 アイテムは、ダンジョン内でのみ手に入る特殊な力を持った道具だ。ダンジョンの中で普通に拾えるものもあるし、攻略報酬となっているレアなアイテムも存在する。

 それらは大抵アクセサリーの形状をとり、そこに魔力を流し込むことで秘められた力が発動する。これをつかえば自分では魔法を使えない者も、様々な術を扱えるのだ。

 そしてグロウが探しているのは、その中でも特別なアイテムだった。


「パンドラBOXって、知ってるか?」



 グロウがその名を口にした瞬間、周囲の雰囲気が冷たくなったような気がした。


「パンドラ、BOX……? それって、まさか……」


 レオナも、その名は知っていた。

 パンドラBOX。SSS級ダークアイテムに認定された、驚異の力を持った道具だ。その能力は今一番欲しいものが何でも一つ手に入る代わりに、今一番大事なものを失うことになる、というもの。


「でもあんなの、伝説上のアイテムでしょ? 本当に存在するなんて話、一度も聞いたことがないわ」

「ってことは、レオナも実物に関する情報はないか……」

「当然でしょ。それに、ダークアイテムに自ら進んで関わるなんて……」


 ダークアイテムとは、他の種類のアイテムよりも強力な力を持つ代わりに、代償を伴うアイテムの事だ。

 通常のアイテムの場合、使うためには魔力を流せばそれでいい。しかしダークアイテムは、魔力を流して発動した後、それぞれのアイテムの発動中『激痛が走る』『聴覚を失う』などのリスクを負うことになってしまう。

 普通の冒険者はいかにそれが強力と言えど、好んで使うことはしないのだ。

 ましてやパンドラBOXなんて、その最たるものである。


「ねぇ、グロウ……。あんた、パンドラBOXを使ってまで手に入れたい物があるの?」

「そうだな……。正確には少し違ってるが……。あのアイテムを探すために旅をしているのは確かだ。だから、もし何か情報があったらこれに連絡して欲しい」


 グロウが取り出したのは、小さな魔石のはまった指輪。E級アイテム『テレパシー・リング』だ。話したい人を心の中で思い浮べると、その人と念話ができるアイテムである。


「分かったわ……。もし見つけたら連絡する。だけど、期待はしないでよね」

「ああ。まあ、気長に待ってるさ。……っと、もう外こんなに暗いのか。早く見回りしないとな」

「え? ちょっと、どこ行くの?」

「決まってるだろ? この辺のダンジョンの下見だよ。明日一人で探索するから、今日の内に計画立てたくて」


 一人でダンジョン……? レベル1なのに……?

 レオナは耳を疑った。


「それじゃ、食事ありがとな! 今度お金が出来たらお礼するよ!」

「え、ちょ! ちょっと待ちなさい!」


 しかしレオナの静止を聞かず、グロウはあっという間に店の外へと出ていった。


「あ、アイツ……! 本物のバカ?」


 どうやら彼は演技などじゃなく、本気で自分を最強と信じているようだ。なりきりよりよっぽどたちが悪い。無理にでも誰かが一緒にいてやらないと、すぐに命を落とすだろう。

 レオナはすぐ後を追おうとし、店を出るため会計へ向かう。


「はい。お会計、銅貨二十枚になります」

「えっ……?」


 予想以上の代金に、絶句。

 さっきバリーに渡した銀貨三枚と、今ここで払う食事代。それらを合わせて、貯金は綺麗に空になった。


「あ、はは……。タダで泊れる宿ないかな……」


 一文無しになったショックで、グロウのことが彼女の頭から抜け落ちる。

 財布の軽さに重い絶望を抱きながら、レオナは店を後にした。


               ※


 翌日、冒険者ギルドのロビーにて、レオナが大きく伸びをしていた。


「うう……。体中が痛い……」


 昨夜は結局ベッドで寝られなかったせいで、肩や腰にズキズキ痛みが走る。

 無一文では、宿を借りることなどできない。レオナは町の農家の馬小屋を借りて、そこで練る破目になったのだった。

 今日はもうあんなところでは寝たくない。その為にまずは金を稼がねば……。

 そのためにレオナは、掲示板に張り出されているクエストの数々を眺めていた。


「う~ん……。やっぱり一番多いのははぐれモンスターの討伐か、ダンジョン攻略のどっちかか……。でも、あんまり危険なやつはなぁ……」


 レオナも最近、この町に一人で流れてきた身だ。仲間が見つからない内は、モンスターとの戦闘は避けたい。

 その点E級のダンジョンならば一人で潜っても大丈夫そうだが、あいにく依頼に出されているのはD級ダンジョンの攻略からだ。そんなところ、一人で潜ったら死んでしまう。

 そこまで考え、レオナは一つ思い出した。


「あっ、そう言えば! グロウのやつ大丈夫かな……。結局追いかけなかったけど……」


 一人でダンジョンに潜るのは、ある程度の実力者であっても本当に危険なことなのだ。ましてや彼はレベル1。たとえEクラスのダンジョンに出て来る最弱クラスのモンスターでも、致命的な戦闘になり得る。

 昨日は下見と言っていたから、まだ遅くはないかもしれない。今からでも彼を探しに出て、ダンジョン探索を止めるべきでは……。


「おっ、レオナ! また会ったな!」

「グロウ!?」


 偶然にも、彼の方からレオナのもとへ近づいてきた。


「良かった、心配してたのよ! 一人でダンジョンに行くとか言うから……」

「あ~、そのつもりだったんだけどさ……。俺、よく考えたら無一文で。まずは少し金稼ごっかなって」


 どうやらグロウも、レオナと同じ状況らしい。


「そう。それなら、一緒にクエスト探しましょう。私もお金になりそうなのを見繕っているとこなのよ」

「おっ、じゃあ色々教えてくれよ。俺さ、ダンジョン潜ってばっかでクエスト受けたことないんだよね」

「……アンタ、自分のことどんだけ達人と思い込んでるの?」


 そんな冒険者、普通はいない。

 ダンジョンに潜ってばかりでは、冒険者はなかなかお金を稼げない。そんなとき、ギルドからのクエストの受注はレオナたちにとって生命線。よほどなりたての冒険者でなければ、クエスト受注は何度も経験しているはずだ。

 無論、クリアすれば財宝が手に入るような高レベルダンジョンを攻略できる、達人クラスの冒険者は別だが。


「はぁ……。まあいいわ。とりあえず、探すからあっちに座ってて――」

「レオナ、これとかいいんじゃない!」


 レオナの言葉は完璧無視して、グロウが依頼の紙を手渡す。


「な、なにこれ!? A級ダンジョンのボス討伐!? こんなのできるわけないでしょう!」

「じゃあこっちのは? はぐれゴブリンの討伐依頼」

「そんなの、二人じゃ手に負えないわよ! 戦闘以外なの持って来て!」

「じゃあ、このB級アイテムの捜索!」

「あーもう、だから無理だって! 私が入れるのはE級までなの!」


 グロウが持ってくる無茶な依頼の数々に、レオナはすっかり辟易する。

 あんなもの、この町全体でもクリアできる者は少ないだろう。 大体、グロウもクリアできないハズだ。


「あーあ。レオナ、無理ばっかりじゃん。こんなんじゃ何も仕事できないぜ?」

「アンタのチョイスがハード過ぎるのよ! よくもまあ高難度な依頼だけをあれだけ見つけ出せるわね……!」

「じゃあ、やっぱりこれなんかもダメか?」


 そう言い、グロウが最後の一枚を差し出した。


「これは……。C級ダンジョンのアイテム係……?」

「あ、俺ちょっと前に頼まれてアイテム係やったことあってさ。あんまし戦えなかったけど、結構楽しかったからどうかな?」

「う~ん……そうねぇ……」


 確かに、これは悪くないかもしれない。

 アイテム係の稼ぎはそんなに良くないが、依頼者のパーティーが魔物や罠から守ってくれるし、弱い敵が出てきた場合はそれを狩って経験値にできる。

 リスクは少なくて、リターンもそれなり。今やるべき仕事はこれだった。


「これならちょうど良さそうね! 早速受注してきましょう!」

「よしっ! ようやく仕事開始だ!」


 二人はギルドおの受付で、正式な手続きを完了させる。

 これで後は、依頼してきたギルドと合流するだけだ。ギルドの受付が『テレパシー・リング』でパーティーのリーダーに連絡し、彼らをここに呼んでくれる。

 そして、数分後。ギルドに入ってきた相手は……。


「うわぁ……マジかよ」

「私たち、地雷踏んだみたいね……」


 それは、180センチを超える体躯。筋骨隆々で、とても頑丈そうな肉体。太い指にはたくさんのリングがはめられていて、いずれも肉体強化系か武器具現化のアイテムである。

 つまり、根っからの近接型。自分の体に自信のある、かなり純粋なファイターだ。


「おいおい……。また会っちまったな。クソガキ」


 バリーの姿がそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ