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レベル1勇者の神殺し  作者: 伊崎則人
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レベル1勇者、少女を助ける


「お腹……すいた……」


 草一生えていない荒野の中を、一人の男が歩いていた。

 グロウ・エルシェイド。冒険者だ。彼は今、空腹と闘いながら次の町を目指していた。


「こんなことなら、五日前の財宝と壺、壊さずに取っとくんだった……」


 後悔し、フラフラになりながら少しずつ歩を進めるグロウ。もう一週間も連続で野宿するはめになっている。まともな食事はとっていないし、水すらあまり飲めていない。次の町で仕事を見つけて稼がないと、冗談抜きで死にかねない。


「もうやだ……。早くご飯食べたい……」


 なんとか必死な思いで歩き、グロウは陽が沈むより前に次の町へと到着した。

 辺境の町、『グリオーム』。冒険者たちの活動によって成り立っている小さな街だ。

 ここの冒険者ギルドに行けば、山ほど仕事があるはずだ。


「よし……。まずはすぐ終わる仕事を受注して、その報酬でなんとか食事を……」


 なんて考え事をしながら、ギルドの方へ向かうグロウ。

 すると、前方から怒鳴り声が聞こえた。


「ふざけないで! あなた一体何様のつもりよ!」


 見ると、どうやらギルドの前で言い争いをしているようだ。

 怒鳴っているのは、白銀の長髪が美しい少女。腰につけたポーチや体中に散りばめられたアクセサリー型のアイテム類、それに膨らんだ鞄を見るに、間違いなく冒険者である。

 対して、その少女に睨まれている相手は……。


「何様って、そりゃあこの町最強の冒険者、ドン・バリー様に決まってんだろ?」


 バリーと名乗った禿頭の男は、扉の前に立ちふさがって、少女の邪魔をしているようだ。よくよく見ると、その大きな扉は冒険者ギルドの扉である。


「とにかく、ギルドに入れて欲しければ銀貨三枚が通行料だぜ? もしくはC級以上のアイテム一つ。この俺様に献上しな」

「だから! どうしてアンタにお金をあげなきゃなんないのよ! アンタだってただの冒険者でしょ!? なんの権限もないはずよ!」

「ただの冒険者? お前さん、なにも分かってねえなあ。さっきも言ったが、俺はこの町で最強なんだよ。俺に嫌われたりしたら、この町で仕事できなくなるぜ? 大人しく俺に従っとけよ? 可愛がってやるからよ」

「この……っ! アンタ、最低の卑怯者ね……!」


 悔し気に唇を噛む少女。


 ここのように、小さな町ではよくあることだ。一部の冒険者がその力を振りかざし、ギルドや他の冒険者から不当な利益を得ることが。もちろん良いことではないが、冒険者たちは自分よりも遥かに強い相手に戦いを挑む愚は犯さないし、ギルドとしても一番役に立つ冒険者の機嫌を損ねることはしたくない。


 その証拠に、さっきから彼らは大きな声で言い争いをしているが、ギルド職員が注意にでてくる様子はない。それどころか周囲にいる他の冒険者は、ニヤニヤした顔で様子を見ていた。「またバリーのいびりが始まった」、と。彼らは完全に追の男のはいかになっているのだろう。

 

 彼の言う通り、この町で冒険者をするならばバリーのご機嫌を取ることは必須。この少女も最後には、バリーの言う通りにするしかない。


 ところが、彼女はそうしなった。


「そっちがその気なら……。アンタを倒してギルドに無理やり入るまで! 覚悟しなさい! このデカブツ!」

「ほぉ……? この俺に逆らうのか?」


 あれ? 何だか話がこじれて来たぞ……? と、グロウはわずかに危機感を感じる。

 彼の見立てでは、あの少女は圧倒的にバリーより弱い。レベルにして、おそらく25と言ったところか。

 一方バリーはレベル40を超えている。べつに最強という訳ではないが、まあこの小さな町の中では一番強くてもおかしくはない。


「キャアアアッ!」


 と、グロウの予想通り。

 少女はバリーのパンチ一つであっという間に倒れ込む。持っていたナイフは放してしまい、離れた所に転がっていた。


「ヘヘヘ……。だから言っただろ? 大人しく俺に従っとけって」

「う、うぅ……!」

「大体、女なんかが冒険者やるのが間違いなんだよ。お前らは所詮、男に力で勝てっこねえんだ。おとなしく家でオママゴトでもしてな」

「…………っ!」


 少女が地面に倒れたまま、固く両手の拳を握る。顔面を殴りつける気だ。

 しかし彼女が反撃する前、グロウが少女の腕を掴んで自分の前に持ち上げた。


「さてと。それじゃあ、生意気なガキにはしっかりお仕置きしねえとな。二度と逆らえねえように」

「え……!?」


 バリーが下卑た笑みを浮かべ、手にはめられた指輪をかざす。


「行くぜ、オープン!」


 彼が叫ぶと、指輪から虹色の光が展開。光はバリーの手の中で一つのナイフを形づくった。E級アイテム『ククリナイフ』だ。

 アイテムの多くはダンジョンなどで手に入るが、そのほとんどはアクセサリーの形をしている。それに人間が魔力を流し込むことで、アイテムを使うことが出来るのだ。


「さて、動くなよ? 罰としてその髪、バッサリ刈ってやるからな」

「ま、待って! 止めて! お願い! それだけは――」

「問答無用! 喰らええええーーーー!」


 バリーがククリナイフを構えて、少女の髪へ振り下ろす。


「おいおい、そろそろやめとけよ」


 一瞬で隣に移動したグロウが、バリーのナイフを持つ腕を掴んだ。


「その子、怖がってるだろう?」

「あぁ……? んだお前? 見ねえ顔だな」


 バリーが少女を突き離し、グロウからも一歩距離を取る。

 そして、ククリナイフをグロウに向けた。


「お前、俺が誰だか分かってんのか? どうやら流れの冒険者のようだが……」

「ああ、知ってるよ。ドン・バリー様だろ? この町の中で一番強い冒険者。あくまでこの町でだけだけど」

「んだとテメエ……。バカにしてんのか!」


 グロウの言葉に込められた嘲笑のニュアンスに気が付いて、バリーの額に血管が浮き出る。


「俺様のレベルは45だぞ! C級ダンジョンをソロで攻略できるレベルだ! あんま舐めてるとブチ殺すぞ!」

「え、何ソレ脅し? だとしたら成立してないぜ。C級ソロとか、普通すぎるだろ」

「あぁん!? テメエ、とことん生意気だな! それならレベルを言ってみやがれ」

「あー、俺のレベル? いいけど、知って驚くなよ?」


 グロウは自身の冒険者カードをバリーに向けて投げつけた。名前やレベル、ステータスなどを始めとした、冒険者の情報が記されたカード。

 バリーはそれを受取って、そこに書かれた内容を見る。


「こ、これは……っ!?」


『グロウ・エルシェイド(15歳)/冒険者/レベル1』


「あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! こりゃいいや! レベル1! レベル1だとよ! 今日び5歳のガキでもレベル10くらいあるってのに、お前は何だぁ!? ガキ以下か? 生まれたばかりの赤ちゃんでちゅかぁ!?」


レベルは、冒険者同士の力量差を示す一番確実で分かり易い指針だ。レベルが一つ違うだけで、その差は確実に能力値の中に現れる。そのレベルが高ければ高いほど周りに畏怖や尊敬されるし、逆に低ければ笑われる。


「おい! 皆も見てみろよぉ! こいつ、マジでレベル1だぜ!」


 バリーが周りの冒険者たちに、グロウのカードを見せていく。


「うわっ、マジかよ!」

「こんなカス野郎、初めて見たぜ……」


 冒険者たちは侮蔑や嘲笑、呆れなど、様々な目線でグロウを見る。


「ゴミのクセに、ヒーローごっこしてんじゃねえよ。テメエなんか、この俺に傷一つ負わせられないぜ?」

「へぇ…… それじゃあ試してみろよ? お前が本当に俺より強いか」

「あ……?」

「まあ、結果は目に見えてるけどな。お前が公衆の面前で、『ゴミ以下』だって判明するぜ。恥かくの嫌なら、辞めときな」

「んだとぉ……? この勘違い野郎がァ!」


 度々の挑発で、ついにバリーがブチぎれた。

 バリーがククリナイフの先端を、グロウの喉元目がけて伸ばす。

 その動きに手加減はない。本気で彼を殺すつもりだ。

 しかしグロウは動かずに、じっとバリーの動きを見る――


「待って!」


 ナイフがグロウに届く直前、銀髪の少女が二人の隣で声を上げた。


「もう止めて! お金はちゃんと払うから! レベル1の人にムキにならないで!」


 そう言い、銀貨三枚をバリーの手に押し付ける少女。

 その行動に、バリーは一瞬迷った後、チッと大きく舌を鳴らした。


「フン……。最初から素直にそうしろよ」


 バリーは興が冷めたとばかりに、グロウに冒険者カードを返してどこかへ歩き去っていく。近くにいた他の冒険者たちも、彼と一緒について行った。

 その背中をしばらく眺めた後、少女はおおきく息を吐いた。


「………………はぁ~~~。やっと行ったわね……」


 緊張の糸が途切れたのか、脱力して冒険者ギルドの建物にもたれる。

 そして、少女がグロウに話しかける。


「アンタねぇ、バカな事してんじゃないわよ。レベル1であのバリーに勝てるわけがないでしょう? ま、私も人の事言えないけどさ……」

「え? 馬鹿なこと?」


 グロウは一瞬、それが何を指しているかが分からなかった。

 グロウにとってバリーとの戦いは決して無謀な挑戦ではなく、余裕で勝てる勝負だったからだ。


「でも、とりあえずお礼は言っておくわ。助けてくれて、ありがとう。あなたが来てくれなかったら、今頃この髪切られてた」


 少女は長い髪をつかみ、愛おしそうに手櫛で梳く。

 そしてグロウに向き直り、優しい笑顔で自己紹介した。


「私はレオナ・チュリージア。見た目通りの冒険者よ。あなたは?」

「俺は、グロウ・エルシェイド。同じく、冒険者をやっている」

「そう。じゃあ、グロウ。今から一緒にご飯でもどう? 助けてくれたお礼がしたいの」

「いや、でも……。俺は結局それほどのことは……」


 最終的に、結局彼女はバリーにお金を払ってしまった。これでは助けたことにはならない。

 そう、断ろうとしたときだった。

 ぐぎゅるるるるるるるるる。


「あっ……」


 グロウの腹が盛大に鳴った


「決まりね。早く行きましょう」


                    ※


「ったく……。何だったんだよ、さっきのクズは」


 バリーはとある路地裏のバーで酒を流し込みながら、誰にともなくボヤいていた。


「レベル1のクセにこの俺様に楯突くとは、思い上がりもいいとこだぜ」


 大方『自分は最強だ』と思い込んでいる、頭の可哀想なガキなのだろう。そう考えれば、さっきの

イライラも収まってくる。頭のおかしいやつのことなど、相手にしてもしょうがないと。


「ツッ……!」


 その時、いきなり左腕に激痛を感じた。反射的に腕を見る。

 すると……。


「な……! 何だぁこの痣はぁ!?」


 自慢の太腕についていたのは、くっきりと残った五本の指の跡だった。跡は青黒い色をしており、ちょっと触れるだけで激痛が走る。ひどい内出血を起こしてるようで、今まで気づかなかったのが不思議なくらいの怪我だった。

 よほど強く掴まれなければ、こんなにひどくはならないだろう。


「な、なんでだ……? いつだ! いつの間にこんな傷を負った!?」


 バリーは思考を巡らせる。今日、日中潜ったダンジョンでは大した戦闘をしていないから、こんな傷を負う訳がない。そうなると、さっきの女かあのガキになるが……。


「ま、まさか……。さっきのガキに掴まれた時か……?」


 それしか心当たりはない。間違いなくこの痣は、グロウに捕まれた時にできた。


「嘘だろおい……? 何者なんだ、あの男……」


 こんな力、レベル1に出せるものじゃない。

 痣を見つめ、バリーは全身に鳥肌が立っていくのを感じた。


投稿遅れましてすみません……。

作者のレベルも1ですが、何とか頑張ってまいります!

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