逃亡姫と3人の傭兵
初投稿兼初作品です。
世界が新しい日を迎えて人々が動き出す頃。
ユーランダ王国の王城にて。
「アリスは、どこに消えた!!」
この国の王は、憤慨していた。自分の娘がいなくなった事に。しかも、婚約者との会合の前日に。これでは、招待したこちら側、つまり王族の面目は丸つぶれでもあり、婚約者は、この国の公爵であり莫大な財力を持つため、何としても味方に引き込むための対価として娘を婚約者としたので、このままでは味方へと引き込めない。
「すぐに、王国中へと知らせを出せ!!見つけ出したものには、褒賞を取らせる。すぐに取り掛かるのだ!!」
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王国中へと、国王からの報せが駆け巡っているが、その騒動の張本人となるアリスがどこにいるかというと。
「おい、嬢ちゃん。一人で何してんだよ。」
「なーなー、一緒にいいことしようぜー。」
絶賛、二人のチンピラに絡まれていた。
アリスは、このような経験などない。今までずっと王城の隔離された部屋で過ごして来たために、彼女は完全に固まってしまっていた。感情では、すぐにここを離れるべきだと感じているが、何分にも体がいう事を聞かないために、彼女は思考回路もパニックへとなっていた。
「え、何?無反応?ハハ!誘ってんのかなー?」
片方のチンピラが肩に触れようとした時に、アリスの前に背の高い白髪の女が現れた。
「そこのチンピラども!!その女をこっちに渡しな!」
「あぁん!なんだ・・と。ちっ、行くぞ。」
「あーあー。なんで傭兵が出てくんだよ。」
チンピラ二人が、背の高い白髪の女性を見てさっていく、そこにどういう思惑があるにしろアリスにとっては、助けてくれた人であるのは変わりない。彼女にとって、背の高い白髪の女性は自分にとっての救世主だ。だからこそ、彼女は背の高い白髪の女性に向かってこう言ってしまったのかもしれない。
「助けていただきありがとうございます。あの、私をさらっていただけませんか?」
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ユーランダ王国のスラム街にて。
「だから、彼女を連れて来たのか?ユティ?」
「ああ。そうだよ。悪いか。レン?」
「まっまぁー、二人とも落ち着く落ち着く!」
「ルーク。俺は、落ち着いています。静かにしてください。」
さらってくださいと言った後、背の高い白髪の女性にスラム街にある拠点としている場所に連れて行かれ、そこには彼女の仲間が二人いた。彼女たちの会話を聞いているアリスは、自分を助けてくれた背の高い白髪の女性がユティという名前である事。そして、対面に座っている黒髪の隻眼の男性の名前がレンである事。もう一人の、二人をなだめようとしている金髪のチャラそうな男が、ルークという名前である事。これらのことをアリスは、推測していた。
「はあー。わかりました。まあ、いいでしょう。では、アリスさん。いえ、アリスレイティア・ベストラーナ・ユーランダ。この国の第二王女様。なぜ、さらって欲しいのですか?」
「な!どうして私の名前を、知っているのですか?」
「あんたさ、町中にこういう紙が出回ってるの知ってる?」
そうユティが言いながら、アリスに見せたのは、国王から発せられた紙で、アリスの捜索を行い見つけ出したものには褒賞を与えるというものだった。
「うそ。もうこのような紙が出回っているのですか?」
「そーだよ、そーだよ!もう王国中に回ってるだろうさ。だからさー、俺たちみたいな傭兵にとっては、君が金蔓にしか見えないんだよねー」
「ルーク。そういう風に言うとせっかくの金蔓が、怯えてしまうではないですか。」
愕然とした表情を浮かべるアリスに対し、ルークとレンが追い打ちをかけていく。
「あの、ユティさんで合っていますよね?あなたは、私の正体を知っていて助けたのですか?」
「ああ。そうさ!それに、私が助けた時、その女を渡しな!と言ったはずだよ。助けに来た人であれば、離しな!と言うと思うけどね。」
アリスは、自分が金目当てで助けられた事、そしてここに居る自分を助けてくれるかもしれないと思った3人が、自分の事を金蔓としか見ていない事。さらに、このままでは別名豚公爵とも言われる者と婚約せねばならない事。これからの自分の未来を想像した絶望と、自分は助けられていなかったことに対する絶望という、二つの絶望がアリスの心の中に渦巻いていた。
「アリスさん。もう一度だけ聞きますよ。あなたは、なぜさらって欲しいのですか?」
「そーそー。さらってくださいなんて普通は言えないもんねー。」
「言わなきゃ、わかんないよ。いいかい。気付いてないかも知れないけど、私達は傭兵だよ。この紙にある報奨金以上に何か価値のある理由なら、なんとかなるかも知れないよ?」
アリスにとって、この3人の言葉は助けであった。絶望の中にあった彼女の思考に一筋の希望の光が見えたからである。だからこそ、彼女の口から出た言葉に王女としての言葉はなく、ただ一人の少女の願いだった。
「私は、あんな公爵の婚約者になりたくありません。あの公爵の別名は豚公爵ですよ!なんでそんな人物に私が婚約せねばならないのですか!それに、私は王女としてもう生きたくない!あんな堅苦しい生活を続けるのは嫌なのです!飢える事はないかも知れません。でも、生きて居るという実感が何一つないのです。贅沢な悩みかも知れません。でも、私は一人の普通の少女として生きて見たいのです。だから、私をさらってください。」
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太陽の位置が最も高くなり人々が昼飯をどうしようかと悩み出す頃。
ユーランダ王国の王城では。
「このバカ娘が!!お前のせいでどれだけの金が動いたと思う?」
「申し訳ありません。」
「ふん!まあ良い。さて、レンと言ったな。貴様には褒美を取らせよう。しかし、聞くところによると、孤児で傭兵なのだな。であれば、この程度でいいだろう。光栄に思うと良い。」
「ありがたき幸せ。最高の栄誉でございます。」
レンに与えられた褒賞は、金貨一枚。紙に書かれていた褒賞の50分の1にすぎない。他の者であれば激怒しただろう。それに、アリスが黙っている筈がない。しかし、どちらもまるでこうなる事が分かっていたかのような感じで特に表情に感情を出すまでもなく、いや、アリスは、レンに対して申し訳なさそうな表情をしていたが。
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同じ時、ルークとユティはというと。
「さて。アリスちゃん。誘拐(救出)しちゃおう作戦の確認をしよっか。」
「ええ。まず、アリスは、城に戻ったら敷地内の西にある離れの屋敷へと幽閉される。そこに夜陰に乗じて侵入。アリスから屋敷までのルートは聞いているから、それを頭に入れる事。」
「そして、アリスちゃんがいる部屋が何処か解らないけど、アリスちゃんにお願いしたアレさえ実行してくれれば、こっちのもん。」
「さあ、準備するよ。」
二人は、前にある机に、アリスから聞いた簡単な城の見取り図と屋敷までのルートを書いた簡単な地図を置いて、作戦の確認と準備をしていた。
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あたりが寝静まり、王国全てが闇に飲まれていた頃。
アリスは、3人から言われたことを思い出し確認しながら、夜になったらやるようにと言われていた行動を実行していた。
「よいしょっと。これで良いのですよね。」
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同じ頃。
ユーランダ王国の王城の敷地内に、二人の影があった。ルークとユティである。黒の装束に身を包み、先程までの抜けた空気など全くなく、神経を集中させた戦士の顔をしていた。
二人に会話はなく、また、足音といった動く音も無く、目的地へとスムーズに向かっていた。
途中何度も、警備の兵士がいる。しかし、気づかれることなく進んで行く。
ただ、どうしてもやり過ごせない時は、
「がぁっっっ。」
「ぐぇぇぇ」
速やかに気絶させて、見えない物陰へと縛り上げて隠す。
特に見つかると言ったこともなく、アリスが幽閉されている屋敷へとたどり着いた。
「ユティ。よろしく。」
「ええ。」
ユティは、夜であっても通常の昼間と同じように見えてしまうという、目の異常があった。だからこそ、アリスへ頼んでいたアレを探すのは、ユティの仕事であった。アレとは、アリスが幽閉されている部屋にある窓から色のついた布を挟んでおくこと。それを探すために屋敷の周りを静かに動いて行く。
「あった。あそこ。二階だ。」
二人は、アイコンタクトを取り、ルークは窓の下に行き、足を肩幅以上に開いて腰を下げて両手を合わせて下に構える。さらに、ユティはそこから一直線に離れ、ルークへと向かって全力疾走する。
ユティの足が、ルークの両手へとかかった時に、ルークはユティを上へと投げる。ユティはそのまま重力などまるで感じさせないような軽やかさで、窓枠の出っ張りのところに着地する。そこで、彼女は窓を決まったリズムで叩く。
「ユティさん。本当にk・・・」
「し!」
窓にいるユティにアリスが安堵した様子で近づいて来るが、すぐに口を抑えられる。
ユティは、アリスの耳元に自分の顔を近づけてこう言った。
「来ないか心配だったようね。安心しなさい。必ず約束は守るから。さあ、行くよ。」
それからユティは、アリスをお姫様抱っこしてそのまま飛び降りた。
アリスは、地面に着地した時の衝撃を覚悟して目を閉じていたが、いくら経っても衝撃がないので目を開けると、すでに地面へと着地しお姫様抱っこから離されてもいた。そこで疑問をアリスが持っていると、ルークが近づいて来る。
ルークは、右手にはVサインを浮かべながら、左手には真っ白の紙を持っていた。アリスには、その真っ白の紙が何か知っていたので、先ほど着地した時の衝撃がなかった事について納得をした。名称を魔法符と呼ぶ。今は、真っ白の紙だが元々は魔法を行使する為の魔法陣が書かれていたが、魔法を行使するとただの紙へと戻るという特性を持ち、一回しか魔法を行使することができない。つまり、ルークが魔法符を持っているという事は何らかの魔法を行使したため、衝撃がなかったという事だろうが、どんな種類の魔法を行使したかまでは理解出来ていなかった。どんな魔法を行使したか気になったアリスだが、今まで見たことのない戦闘を生業とする者達が放つ独特の空気感に聞くことを躊躇していた。脱出した先の落ち着いたところで聞こうと決意し、二人の後をついて行く。
しばらく進んでいると、鐘が三回鳴らされ、城内がとても慌ただしくなった。鐘が三回鳴らされる事の意味は、城内に何者かが侵入したことを表している。または、アリスが部屋にいないことが気づかれかもしれない。
「もう、こそこそしなくて良いんじゃないか?」
「そーだね。ごめんね、アリスちゃん。ちょっと、慌ただしくなるかも。あと、耳を塞いでおいてね。」
「あ、はい。」
アリスがルークから言われた通り耳を塞ぐと、大きな地鳴りと共に爆発音が遠くから聞こえてきた。
「バッチリ。」
「あの、何が?」
「さあ、アリスちゃん。行こっか。もう。耳は塞がなくて大丈夫。それと、ちゃんと説明してあげるから、動きながらだけど。」
アリスは、ルークからこの爆発についての説明を聞いていた。この爆発は、今この場にいないレンが引き起こしたものであるという事、そしてこれが自分たちが逃げやすくするための陽動という役割を持つ事。ということを説明された。また、爆発を引き起こしたのは武器庫であり、それによって武器を壊す事で攻撃力を下げるという目的もあると。
「では、レンさんは今、武器庫ににいらっしゃるのですか?」
「いや。もうそこにはいない。拠点で、この国から逃げる準備をしているさ。おっと。」
「そこの怪しい奴ら。止まれ!!」
アリス、ユティ、ルークの前に兵士が4人。剣を構えている。
すると兵士の1人がアリスの存在に気づいた。
「そこに居るのは、アリス様ではないか。貴様ら何者だ!」
「何者か、ねー。答える訳ないじゃないか。さて、こいつの命が惜しければ剣を捨てるんだね。」
ユティが、アリスの首筋に自分の剣を突き立てる。
アリスは、一瞬自分に剣が突き立てられたことに対して驚いたが、この場を切り抜ける手段として最適だと思ったために次のような行動に出た。
「や、やめなさい。わ、わたくしは死にたくありません。」
言葉としては、この行動に説得力を持たせるための最適だが、アリスの演技力はかなり壊滅的で完全な棒読みだった。しかし、兵士たちは演技であることに気づいていない。後日、ユティとルークは、笑いを堪えるのに必死だったとこの場にはいないレンへと話したそうだ
「さあさあ。どうするんだい。あんたらの姫様はこう言ってるよ。」
「くそ!」
兵士たちは言われたとうりに剣を捨てる。
そして、彼らに対してルークが彼らを縄で縛り上げる。
「さて。じゃ!」
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その後、縛り上げられた兵士たちが見つかり、国王へとアリスが攫われたことが伝えられた。
国王は、その報告を聞きとても憤慨した。王国中に捜索命令を出そうとしたところで、婚約させる予定だった公爵が到着し、公爵はアリスがいない事を伝えた。すると、アリス目当てで婚約する予定だった公爵は、国王に対して今回の婚約は無しにして貰おうと言った。公爵にとって、アリスとは、誰の手にも触れていない高貴な存在だったが、今や何処の馬の骨ともしれない奴の手に触れている以上、もう高貴な存在ではないと。もう婚約者にしても高貴であるというプレミアが無いことからである。はっきりいうと、公爵は自分の手でアリスの最初を奪いたかったのだ。そのため、婚約を無しにしようと言った。これらの理由は国王に伝えてはいないが。
このような事態になり、国王はあまりのショックに立ち直れなくなる。公爵という協力者を失ったために、国王が考えていた数多くの計画が破綻したからである。
王国でこのようなことが起きて居る間に、アリスと傭兵の3人は、国外へともう出ていた。
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王国から出て、ある程度進んだところにある丘に。
アリスと、傭兵の3人はいた。
「レンさん。ルークさん。ユティさん。ありがとうございました。そして、申し訳ありません。あれだけの褒賞金しか私の父が与えず。」
「気にしなくていい。王城に侵入なんていう貴重な経験できたんだ。それに、せっかく王城に侵入したのだからね。ある程度、かっぱらって来ているんだよ!」
そう言って3人は、自分の装備の中から宝石のついた装飾品を出して見せた。
「そーそー。気にしなくていいんだよ。アリスちゃん!」
「俺たちが会った王族の中でアリスさん、貴方は素晴らしい方だ。今まで、傭兵で孤児である俺たちに対して、普通に接してくれた王族というか特権階級の人間などいない。正直、嬉しかった。」
「おーっと。レンのデレかー?」
レンの言葉にルークが茶茶を入れ、レンが蹴り飛ばそうとしている。アリスは、それを見てこの人達と一緒に生きていく事ができたら、仲間になる事ができたら、なんと楽しいだろうと思った。アリスが頼んだのは、さっらてもらう事であり、仲間にしてもらう事ではない。彼らとの関係はここまでだと思うとアリスは何とも言えない気持ちになっていた。
「本当に、ありがとうございました。皆さん、3人のことは忘れま・・・」
「何、言ってんだい?王族であるあんたが急に一人で生きていけるわけないだろう。」
「そーだよー。アリスちゃん。普通の少女として生きたいと言っていたけど、そこに傭兵という選択肢もあると思うんだけど?」
「アリスさん。傭兵は自由です。あなたが感じていた王族の堅苦しさなど感じないはずです。どうですか、一緒に傭兵として生きてみませんか?」
傭兵とは、とてもきつい仕事だろう。いつか死ぬかも知れない。でも、あの生活に戻らなくてもいいのであれば。この人達と共に生きていくことが出来るのであれば。仲間になる事が出来るのであれば。レンとルークとユティ。この三人の問いかけに対してどう答えるかは、もうアリスの中では決まっていた。
「はい!よろしくお願いします。」
END
ありがとうございました。