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彼岸花はまだ早い  作者: アヤギ
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1話

高校1年の5月。

入学してから一月経ち、まだ初々しさが残りながらもみんなが学校に慣れ始めた頃。

大好きだった兄が死んだ。

私は兄の死を受け入れられず何日も泣き続け、涙が枯れた後は無気力になりしばらく不登校になった。

妹の私がいくら泣いたところで兄の死という現実がひっくり返ることなんてなく、葬式も滞りなく進んだ。

2つ上の兄は、運動はギリギリ平均レベルだけど勉強はとてもでき、性格が温厚な世界一のイケメン(私補正多少有り)で、女子だけでなく近所の人たちからも人気者だった。

そのおかげか葬式には大勢の人が来てくれた。

昔からお世話になったおばちゃんや生意気なガキ共、私と同い年ぐらいの女子(恐らく兄狙いだった連中)とたくさんの人が来た。

葬儀中私は引きこもってたから話を聞いただけだけど、そのあとの食事会はどんちゃん騒ぎだったらしい。

温厚のくせに騒がしいのが好きだった兄への気遣いとしてみんな遠慮なく騒いだらしい。

それからは、引きこもっていた私を親友の優理花が励まし続けてくれて、何とか学校にまた通うようになった。

兄の死を完全に受け入れられてはいないけど、ほんの少しずつ前向きに生きていけてると思う。

そんなある日の学校で。

「ねえ花梨昨日のテレビ見た?20時からのやつ。」

「その時間はお菓子作ってたかな。今まさに優理花が親の敵のようにむさぼってるクッキー。」

「誰もそんな食べ方してないし!いやさ、幽霊の見えるゴーグルが量産化できたから、アタシたちの小遣いでも頑張れば買えるようになるんだって。」


──幽霊

──それは死んだ生き物が魂だけ残りこの世を彷徨う存在


いつのことだったか幽霊の存在が科学的に証明され、世界レベルでその研究がされるようになった。

「優理花・・・それ本当?」

「ホントホント!実際アマズンでももう予約始まってるし!」

研究が進み、ついに幽霊を視認できる機械が完成した。

それにより、私たちの常識が変わった。

例えば幽霊に決まった形がなく、自由に姿を変えられる幽霊もいればよく分からない板状の形でふわふわ浮かんでる幽霊もいた。

逆に私たちの妄想の人魂や、体が腐ってる幽霊はいなかった。

昔テレビで見たときは、普通の人と同じように歩いていてテレビカメラに気づくと、寄ってきてピースをする子供っぽい幽霊もいた。

そんな感じで幽霊は私たちに浸透していったけれど、肝心の視認できる機械が私たち学生ひいては庶民に手が出せる値段ではなかった。

「・・・本当だ・・・私でも買えそう。」

「だしょ?これならあんたも少しは・・・って花梨、涙!涙!」

「え?あ・・・。」

優理花に言われるまで自分が大粒の涙を流していることに気がつかなかった。

「ぐすっ、ゆ、優理花、わたしっ、わだじっ!」

「ああーもう。よしよし。うん、分かるから。分かってるから。」

幽霊の研究が進んだと知っていても、心のどこかでは諦めていた。

でも、また兄に会えるかもしれない。

その考えを反芻すると嬉しさで涙が滝のように流れ出て止められなかった。

──

「んじゃあまたね花梨。」

「うん、ありがとう優理花。また。」

私が泣き止むまで優理花はずっと抱き締めて頭を撫でてくれた。

前に優理花が今日みたいに抱き締めて頭を撫でて励ましてくれたおかげで何とか学校に行くようになったんだっけ。

同い年のくせに優理花は昔からどこかお姉ちゃんみたいだった。

またお菓子つくってあげよう。

──

お風呂上がり。

部屋に戻ると携帯のランプが光っていた。

「優理花かな・・・あ、蘭ちゃんだ。」

画面にはメール受信、『広瀬蘭丸』の文字が表示されていた。

『おい花梨!あのゴーグルめっさやすくなぅてるぞ変え!』

「アハハ、蘭ちゃん焦りすぎ。『なぅ』と『変え!』って。」

蘭ちゃんは私の一つ上の幼馴染みで、優理花とお兄ちゃんと四人で昔からよく遊んだもう一人のお兄ちゃんみたいな人。

運動が大好きなのに部活動に入らずに、高校2年の今でも近所の子供たちと遊んでるのはさすがにどうかと思うけど。

「・・・優理花と同じで私のこと気にかけてくれたんだよね。」

ほんと二人は昔から私に優しくしてくれる。

過保護じゃないかなと思うときときもあったけど、二人とも真剣に私のことを大事にしてくれてるんだなってことが分かるから申し訳なさと嬉しさで溢れてくる。

「蘭ちゃんにもお菓子つくってあげよ。」

恩返しってわけじゃないけど、せめてもの気持ちで。

そう決めて私は蘭ちゃんにメールを返信した。


──


一ヶ月後。

「届いた・・・。」

例のゴーグルが届いた。

ゴーグルはスキーゴーグルみたいなデザインのやつもあったけど、私にはところ構わずそれを

装着する度胸はさすがに無かったので普通の眼鏡に近いやつにした。

・・・昔見かけた2009の間の『00』の数字の部分がレンズになってるようなやつもあったけど、あんなの需要があるのだろうか。

届いたものを手にとって見てみると、ゴーグルというよりは本当にだて眼鏡みたいで安心してつけられそうだった。

それとゴーグルと一緒に入っていたマイクとイヤホン。

これがないと幽霊の声が聞こえないらしい。

まあゴーグルはゴーグルだもんね。

説明書も読んだところで、

「いざ、癒着。」

スチャ

「・・・私の部屋には何もなしと。」

何かいたらすごく嫌だったけど、何もないのはそれはそれでちょっとガッカリと言いますか、ええはい。

「不良品とかじゃないよねこれ。」

とりあえずお兄ちゃんの仏壇も見てみよう。

仏壇は一階にある。

家の探索がてら一階に降りてきたけど、何もなかった。

・・・何かもっとこう、ジョギング中で通りすがりの幽霊とかボールみたいな幽霊とかエクス○リバーを持った英霊とかいるかなーと期待してたんだけど。

そんなことを考えながら仏壇の前まで来ると、

「・・・え、何あれ。」

仏壇の周りに青白いモヤがかかっていた。

スッ スチャ

「ゴーグルがないと・・・見えない。」

仏壇の前でゴーグルを外してはかけるを繰り返す私は端から見たらどう映ってたのだろうか。

いや自分の家なんだから別に気にしなくていいよね。

「あら、花梨何してるの?そんな眼鏡を何回もかけ直して。と言うかだて眼鏡かけ始めたの。」

「もひゃあああ!!」

ビックリした!

スッゴいビックリした!!

「お、お母さん!ビックリした!」

「あなた『もひゃあ』ってwwwどんな声よwww」

「やめてよもう!私ちょっと出掛けてくるからね!」

「あらそう。遅くなるようなら連絡しなさいね。」

私は部屋に戻って着替えると玄関を飛び出した。

──

「この辺りすごく多い。」

来たのは人通りの多い繁華街。

休日の昼間だからたくさんの人でガヤガヤしてる。

おまけに幽霊がすっごいいる。

浮いてる幽霊、サイコロの形で転がりながら進んでる幽霊、生きてる人とほぼ変わらずに普通に人混みを歩いてる幽霊etc.

ニュッ

「もひゃあ!」

私の足元から急に細長い幽霊が生えてきた。

チンアナゴみたいにニュッて出てきた。

「ビックリしたもう・・・。それにしても、すごいな。」

見慣れた風景のはずなのにどこか別の世界に来たみたい。

「でもこれが普通の景色なんだよね。ただ今まで見えていなかっただけで。」

異世界でも平行世界でもなんでもなく、これが今まで私がいた世界で、これからも過ごしていく世界なんだ。

「っとそうだ。モヤを追わないと。」

いつまでも見入ってる場合じゃなかった。

──お兄ちゃんの仏壇にかかっていた『青白いモヤ』が外に続いていた。

──それを追うために私は飛び出してきたんだ。

「この辺りは幽霊が多いけど、モヤも今までより多くなってる。」

ヘンゼルとグレーテルがパンの屑を目印に置いていったみたいに、道に沿って続いたモヤは町中で多くなっていた。

「でも何だろう・・・ただいっぱい湧いてると言うかはこの辺りをうろうろした結果いっぱい溜まってるような。そうだ、マイク。」

少なくともこの辺りにいる可能性は高いだろうから、もっと探すためにマイクのスイッチを入れる。

──ザザッ ぬろーん

──でさー ザザザッ 昨日の家で岩塩投げつけられてさー せめて盛り塩にしてくれよなー

──愚かなる生者どもよ・・・今こそわが魂を邪神の糧とし汝らのザーッ えっ、あ、ハイ サーセン

・・・ほんと何なんだろうこのカオス。

家を出たときはスイッチを入れてたんだけど、幽霊たちの意味不明な会話がたくさん入ってくるから切ったんだよね。

でもさっきよりもごちゃごちゃし過ぎててすごく疲れる。

もう切ってしまおうと思いスイッチに指をかけ


──ザザッ ぇ ザザッ かな?


ノイズの中に一人の声が微かに聞こえた。

「今の声って・・・!?」

耳から体全体に電気が走ったような感覚がした。

私は考えるよりも先に走り出していた。

──花梨。

──花梨はよく泣くなぁ。

──花梨・・・元気でな・・・。

聞き間違えたりしない。

間違えるわけがない。

「すいませんっ、すいませっ、どいて!」

ぶつかったりしながらも人混みの中を全力で掻き分ける。

(お兄ちゃん!お兄ちゃん!!)

──そうザザッ ザッ

「ぶあっはぁ!おにい──」

お兄ちゃん!

そう叫ぼうとした私の声は


「彼氏とのデートはまた今度にしてさ、今日のところは俺と彼岸花見に行かない?」

明らかにデート中の女の子をナンパしている兄の姿を見て出せなくなった。


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