File 1-6
「よし、それでは。次の話と行こうか、小野道く、いや、道連れ?」
事件を解決した終は僕の方に向き直るとそう言った。
「は?」
「いきなりで驚いたか。それもそうだ。小野道連慈と言ったろう、君は。だから道連れ。依頼者という立場だったから小野道くんと呼んでいたが、その関係も解消したわけだし。私は君のことを道連れと呼ぶことにするよ」
その女は傍若無人にそう言ってのけた。いや女の人からニックネームで呼ばれるなんてことは初めてだったけど、いきなりすぎて対応できない。それに道連れってひどい名前だ。
「いやいや、え?話が読めないんですけど」
「とりあえず受付にスキルの解析をしてもらおうか」
終の強引な話の持って生き方に渋々したがってジョブ変更の受付のお姉さんにスキルの解析を依頼する。どうやら、ここでは使える魔法やスキルがどのようなものかも判別してくれるらしい。
「それじゃあ、解析しますね」
お姉さんはそういうと僕の頭に手を当てて何かを読み取り始めた。しばらくその時間が続いた後、彼女は口を開いた。
「これは・・・ユニークスキル・・・ですかね。容量がパンパンになるほどの大容量スキルですが・・・内容は・・・道連れ・・・ですね。幸運パラメータの有無に関わらず、なんらかのトラブルに巻き込まれるという内容のようです」
その言葉を聞いて終は笑った。声をあげて。
「はっはっはっ!どうやら私は掘り出し物にありつけたらしい!いやぁ!とてもいい気分だ!ありがとう。よしなら行こうか、道連れ」
「え?行くってどこへですか?」
僕はまだ話が見えなくて終に正直に聞いた。
「ああ、そうか。順序だてて話さないとわからないはずだ。まず、今の君の状況を説明してあげないとね。今君は多額の借金を抱えている」
「はぁ!?」
いきなり借金とはどういうことか!?
「というのも、私、上終終は自分で言うのもなんだが、この世界ではそれなりに名の通った、いわば有名な探偵でね。その依頼料の相場は5千万Gと言われている。君が持っているのは何Gかね?」
「500Gです・・・」
「ふむ。まぁ転生してきたばかりなのだから仕方ない。君はその100万倍のお金を払わないといけないわけだ。とはいえ私も鬼ではない。今回の事件は簡単なものだったからね。割引してあげようじゃないか」
「本当ですか!?」
どれぐらい減額してくれるのかはわからなかったが、途方も無い金額だけにできるだけ少なくして欲しかった。
「ああ。4千万Gに減らしてあげよう!」
「おお!ありがとうございます」
この時点で、僕はぼったくられていると言う事実を忘れ、1千万Gも減額してもらったとはしゃいでしまっていた。それが詐欺の手口。僕は目の前の年上美女にいいように騙されたのである。
「しかしだね。今回。私の使い魔のリムくんの魔法解析、すぐに現場に駆けつける特急料金が加算される。その上、君には一時的にではあるが言葉が理解できる魔法も使用した。それは今日で解けるのだが。その料金を加算すると・・・割引した分も合わせて・・・占めて5千万G!なんて破格なんだ。良心価格すぎて赤字が出てしまう!」
終はそう大袈裟に言うが、僕はとんでもない奴に捕まってしまったと今更ながら危機感を感じていた。
「そんな!と言うかそもそも僕には5千万Gなんて支払えません!」
「うんうん。そうだろうそうだろう。だから私は君にある提案をしようと思う。私も鬼では無いからね。君に肉体労働を死ぬまでさせ、奴隷のようにこき使うなんて真似、するはずがない」
まくしたてるように言葉を投げつける終に、もはや僕は何も声を出すことができなかった。
「だから、君を私の助手として雇ってあげよう!もちろん、衣食住は約束するし、この世界で暮らして行く道のない君にとってもそう悪い話ではないだろう」
終のいうことは正論のようにも見えた。だが、その時の僕は上終終という女がどのような人間なのか、まだまったくと言っていいほどわかっていなかったのだ。だから、僕はその要求を飲んでしまった。
「・・・わかりました。ただ一つ条件があります」
「なんだね?言ってみなさい」
「この世界の魔王とやらを僕は倒さないといけないらしいので、その目的だけは果たせるようにお願いします」
「はは。難しいことを平然と言ってくれるな。君は。だが、いいだろう。約束しよう。魔王、だね。うん。いずれは向き合うことになるだろう敵だ。その条件のもう。では、道連れ。君は今から私の助手だ。では、リムくん」
終に名前を呼ばれると、リムはすぐに終の髪の中から出てきた。
「はいよ。姉御」
「契約を頼む」
「!・・・ああ。あーあ、あんた、やっぱり助手にされちまったのか。あんたも運がねぇなぁ。・・・よし。それじゃあ契約を開始する。小野道連慈は借金を返すまで上終終の助手として働くこととする」
リムがそういうと不思議な光が僕と終を包み込み、不思議な感覚が訪れた。そして僕の手の甲には不思議な模様が浮き出てきた。丸に斜線が入った模様だ。前にどこかでみたことがあるような気がする。
「これは?」
僕は終に手の甲の模様について聞いた。
「それは私の助手であることを示すいわば・・・印籠のようなものだよ。それを見れば大体のものは君が私の助手であるということを理解できる。君が一人で行動しなければいけない時に役に立ってくれるだろうさ」
「なるほど」
こうして話している間にもリムは僕のことを可哀想なものを見るような目で僕をみていたが、しばらくすると終の髪の中に帰っていった。
「それでは、とりあえず今日の宿はとってある。詳しい話はそこでするとしようじゃないか」
その言葉を区切りに僕たちはその場を離れ、終のとったという宿に向かうこととなった。それにしても宿もすでにとってあるとは用意がいいな。などと思っている場合ではないことに、僕は全くと言っていいほど気づいていなかったのであった。
終の用意した宿に着くと、僕は助手の仕事についての説明を受けることとなっていた。宿は街の中心にある豪華なホテルで、部屋に入るとふかふかのソファとテーブルが僕らを待ち受けていたのであった。ふかふかのソファに向かい合って僕と終は座って、これからの話を始めた。
「・・・とここまで説明をしてみたものの、君には具体的に何をしてもらうと言ったものはないんだよ。君は私といるだけでいいんだ。なんせ君は道連れという極めて珍しいスキルを持っているんだからね。君のスキル道連れで事件に巻き込まれてしまえば、僕のスキル探偵はほぼ無敵だからね。それに新たな仕事も次から次へと舞い込んでくる。私も新たな謎と出会えて嬉しいことづくしというわけだ」
ホテルの一室で終はニヤリとして言った。そうか、いわば、僕は囮なのか。その時初めて気づいたが、この世界で生きて行くすべを持たない僕には他の選択肢はなかった。せいぜいもがいて生きるしかないらしい。
「あ、あと。言葉を理解する魔法は今日で切れるから、これ。明日までに覚えておくように」
そういうと終はどこから取り出したのか、分厚い本を一冊テーブルの上に置いた。それはこの世界の言葉の教科書のようなものらしい。
「そんな!日本語で書かれていないものをどうやって読めというんですか!?」
「何を言ってるんだ。だから明日までにと言ったんだ。魔法が切れるまでに勉強してしまえば問題なかろう」
その言葉は正論ではあったが、鬼畜だった。確かに今はこの世界の言葉を理解できるが・・・一日でそれを覚えろだなんて。
「できなければ追加で言葉を理解する魔法をかけるが?まぁそのぶん料金の加算はあるがね」
終はこういう女なのだと、なんとなく理解してきた。だからリムはああ言っていたのか。この女に捕まった時点で、・・・やばいかもしれない。そう思いながらも、僕は必死に言葉の勉強を始めた。終はというと、何かの読み物を一人でひたすら読んでいた。
そして僕は夜遅くまで勉強した結果、一応教科書を多少は読めるようなレベルまでは理解できるようになった。理解できる状態で勉強するという方法は効率がすごくいいらしく、するすると頭に内容が入ってきた。ここまで計算済みだったのだろうか。
終の方を見たが、微動だにせず何かを読んでいるだけだった。
そして夜はふけていき、女の人とおんなじ部屋だということも忘れいつのまにか僕は眠っていたのだった。




