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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: ロジカル和菓子
File 1「濡れ衣の刃」
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File 1-5

「まず、皆にわかりやすいように噛み砕いて事件の状況を改めて説明するとしよう。ジョブ案内の受付に並んでいた狼の獣人、リマティが急に大声を出して倒れた。そしてその背中にはナイフが突き刺さっており、すぐ後ろには小野道くんがいたというわけだ。現場には回復系魔法が二種類使用された痕跡がありその跡は街のど真ん中まで続いていた。凶器のナイフには認識阻害魔法がかけられていたそうだ。これらの魔法事項は1級魔法士の資格を持つリムくんが確認したことだから確実だと言えるね」


 終はゆっくりと人差し指を立てて現場を歩き回りながらそう解説した。いちいち偉そうにしないと気が済まないのか?この人は。


「それはいいが、なんで俺たちがここに連れてこられたんだ?」


 そう声をあげたのは、意味もわからず連れてこられたものの、今まで黙っていた元僧侶のエクセルだった。


「そうだよ。俺たちゃかんけいないだろ。犯人はそこの坊主で決まりじゃないか」


 エクセルに続いてそう声をあげたのは現僧侶のマスラオだった。前に戦士をやっているだけあってごつい体をしている。僧侶にしてはゴツすぎる。


「もちろん、最初にその現場を見たものは先入観で彼、小野道くんを犯人と決めつけてしまうのも無理はないだろう。しかし、しかしだね。そうだとするならおかしな点がいくつもある。リムくん。ナイフにかけられていた魔法はいつぐらいにかけられたものかわかるかね?」


 終は話の途中でリムに向かって話しかけた。


「あいよ。姉御。ナイフにかけられた魔法は何日か前にかけられたもんだ。何日前かに関してはもう少し時間がかかりそうだが」


 リムは宙に浮きながらぽりぽりと器用に前足で頭をかきながらそう返事をした。


「うむ。ありがとう。その情報だけで十分だよ」


「つまりどういうことだってんだ?」


 話の見えなさに思わず声をあげたのはマスラオだった。


「小野道くんは現在ジョブもなくさまよっているだけの言わば浮浪者のようなものだ。その小野道くんが魔法のかけられたナイフなどを入手することができると思うかい?」


「ああ、確かに!それはおかしいな!」


 マスラオは元戦士だけあって単純なのか、素直に左の手の平に右の拳をポンと当て納得したような様子を見せた。


「待て待て。それだけじゃこいつが犯人じゃないとは言い切れんだろう。その男が浮浪者だというには証拠がない。もしかしたらどこかに荷物や金を隠しているだけかもしれないじゃねぇか」


 反論したのはエクセルだった。こちらは元僧侶なだけあって頭が回るらしい。顔もズルがしそうな人相の悪い顔をしている。


「それは確かにそうだね。でも小野道くんには魔法が使えない。なんせジョブの履歴が一切ないからね。被害者にかけられた回復魔法は使えないというわけさ」


 終は得意げにそう言うが、その言葉の意味はよくわからなかった。


「ぐっ!!」


 エクセルは苦虫を噛み潰したような顔をした。なぜだ?僕はそれを疑問に思った。彼が悔しがる必要性はどこにもなかったはずだ。


「回復魔法が使えない?それがどう関係するんだ?回復魔法は被害者にかかっていただけだろう?そいつが使ったなんてわからないじゃねぇか」


 マスラオはポケっとした顔をして終にそう聞いた。それは確かにその通りで、ポカーンとしていなかったのは終とエクセルだけだった。その様子を見て、終は笑った。ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。この女はこの状況を楽しんでいる。間違いなく。


「そう!確かにその通り!ボロを出すのが早いぞエクセルくん。まぁいい。話を続けよう。お楽しみは後にとっておく派なんだ。ショートケーキのイチゴは最後にとっておきたいものだろ?」


 ショートケーキの例えに女の子らしさが出ていたなどと思っている暇もなく推理は展開されて行く。終はこの場の誰よりもこの場を支配していたし、この場を楽しんでいるようだった。その様子を見て嫌な顔をしているのはエクセルただ一人だった。この時点で察しの悪い僕でも、終が誰と戦っているのか理解できた。いや、戦いというにはいささか一方的すぎるのかもしれない。


 終の顔はもはや、狩人のそれだ。きっと終にはこの事件の顛末がわかっているのだろう。


「おいおい、この坊主からは何も聞かなくていいのか?」


 マスラオは終にそう進言した。確かに、一般的に事件において容疑者の供述は重要と言える。


「確かにそうだね。私としていたことが、ついつい喋り過ぎてしまっていたようだ。さぁ。小野道くん。自分の弁護をしてごらん。なぁに。心配はいらないさ。君の役割はただ自分から見た全てのことを喋るだけだ。それであとは私が勝手に事件を解決してしまうから」


「・・・わかりました。それじゃあ。僕が見た全てのことを話します」


 僕の言葉を皆は黙って見守った。もはや終の語り口によって、その建物の中にいる全ての人が見守っている状況だった。


「僕は、本当に無一文で、仕事もなく。仕事を探しにここにやってきました。そして時間ギリギリでここにたどり着き、そこにできていた行列にたまたま並びました。そして並んでいる途中、いきなり前に並んでいた獣人が大声をあげて倒れたんです。背中にはいつのまにかナイフが刺さっていました。そして気づけば犯人に仕立て上げられていたんです」


「ふむ。ありがとう。・・・では、皆も待ちきれないと言う表情であることだし、そろそろ解決編といこうじゃないか」


 終は自分が待ちきれなかったんじゃないかと思うぐらい生き生きとした顔をしながらそういった。


「と、その前に。チェッカーくん」


 終は突如うさぎ警官を呼ぶと耳打ちでこそこそと何かを指示すると、警官たちはこぞって散らばっていった。一体何が起こると言うのだろうか。


「それでは。いかにして事件が起こり、小野道くんが犯人に仕立て上げられたのか。説明といこう。まず、小野道くんは全くの被害者とも言っていい。それは彼が転生者だと言う事実がほとんど証明してくれている」


 終がそう言うとすぐに周りで見ている者たちはざわめき出した。転生者と言ってこの世界の人はわかるのか、わからないからざわついているのか。


「しかも彼はついさっき転生してきたばかりだ。皆も知っているように、この世界には何人もの転生者が現れ、世界の窮地を救ってきた。まぁ、例外もいるが。そして小野道くんは近年現れていなかった、待ちに待った転生者というわけだ」


 その終の言葉でさらに周りはざわめき出した。


「そういうわけで、小野道くんは本当にたまたま、事件に巻き込まれたというわけだ。そして。事件の本筋は、回復魔法にある。この街ではほとんどが初期ジョブの者であり、上級職はほどんど、いや全くと言っていいほどいないというのは皆も知っていることだろう。それはこのラビという都市が田舎町だからというなんともしょうもない理由なんだが・・・。とにかくこの街で、この建物内にいた人物の中で回復魔法が使えるのは、僧侶、あるいは僧侶だった者に限られるわけだ」


「それはいいんだが、なんで回復魔法が事件に関係あるんだ?起こったのは殺人だぞ?」


 マスラオは思わずそう疑問を口に出していた。正直僕もそれと全く同じ疑問を抱いていた。しかしそれを聞いた終はその質問を待ってましたとばかり嬉しそうな顔をした。


「いい質問だね!マスラオくん。その通り。ここで起こったのは殺人事件。でも、現場は本当はここじゃなかったとしたら、どうだ?」


「はぁ?」


 マスラオは馬鹿面を晒した。いや戦士が皆バカだという偏見を持っているわけじゃないんだけど。


「つまり、殺人はすでに街のど真ん中で起こっていたんだよ」


「もしかして、その回復魔法って・・・」


 僕は終の推理に乗せられてつい声を出していた。それすらも終の計算のうちだったらしく。


「その通り!犯人は街のど真ん中で被害者、リマティの背中にナイフを刺したんだよ!そして、犯人は二つの回復魔法を使った。一つは痛みを消す魔法。そしてもう一つは持続的に回復が行われる魔法。言わばリホ○ミのようなものさ。その結果、リマティくんは刺されたことなど気づかないまま、見事にこの酒場までたどり着き、列に並んだというわけさ」


 途中でやや危ない単語が出てきた気がするが気にしないでおこう。


「でも、そのナイフはどうするんだ!丸見えのナイフが背中に刺さっていたら誰かが指摘するだろうが!」


 エクセルはなぜか妙に反抗的に終にそう反論した。


「ふむ。それはナイフに変えられた認識阻害魔法で片がつく。ナイフは認識阻害魔法で見えない状態にあったのだよ。だから誰も気づけなかった。そして後ろに一人しかいない状況でその三つの魔法を解除すれば・・・濡れ衣事件の出来上がりだ。そしてそれができたのは・・・」


 そこで終は一旦言葉を止めるとぐるっと周りを見渡した。終の長い髪がその動きに応じて広がり、近くにいた僕に少しいい匂いが漂ってきてこんな状況だというのにドキッとしてしまった。終はその後少し間を開けた後、渾身の指差しポーズで決め台詞を言った。


「エクセルくん。君だけだ」


「なっ!なんで俺だけなんだ!そこのおっさんだってできるだろうが」


 終に指を指され犯人だと言われたエクセルは意地になって反抗した。


「いや、それは無理なんだよ。持続的な回復魔法は僧侶の高等魔法。ついさっき僧侶になったばかりのマスラオくんにはつかえやしないんだよ。できたのは、前に僧侶をやっていてかつ、犯行を隠すために違うジョブに変更した、エクセルくん。君しかね」


 終はエクセルのことを指差してそう言った。エクセルはもはや反抗もできずに口をパクパクさせていた。受付のお姉さんにジョブの変更表を確認していたのはそのためだったのかと一人納得する。


「あの、終さん。ならナイフの認識阻害魔法は誰が・・・?」


「ほう、君がそれを指摘するか。小野道くん。おそらくそれはどこかの闇稼業のアサシンがやったのだろうさ。な!そこにいるんだろう!」


 終は周りで見守っていた人の中から、フードを被った人物を指差して言った。その人物はまさか自分が見つかるとは思っていなかったのか、指を指されると慌ててその場を離れようとした。が、後ろに迫っていたのはチェッカーを中心とするうさぎ警官たちだった。


「そこはスキルの有効範囲外だからね。警官たちに活躍してもらったわけだ。・・・さて、それではエクセルくん。君が使用できたはずの魔法はそこの受付で調べてもらえば明らかになるし、使用した魔法の内容も時間をかければ解析できるわけだが、何か反論はあるかね?」


 エクセルは、隅から隅まで犯行を言い当てられ放心状態になっていた。そして彼は力なく頷いた。すると終を中心として発生していた謎の空間は終の方に収縮していき、同時にエクセルにはがっちりと手錠が両手に現れていた。


「ふむ。拘束されたことでこの推理が正しかったということがわかったね。これにて私の愚考もお開きというわけだ。それでは後のことは頼んだよ。チェッカーくん」


 終がそういうとチェッカーは頷いた。どうやらこれで事件は解決というわけらしかった。



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