File 1-3
「まずは・・・そうだな。事件現場の検証から入ろうかな?死体はすでに運ばれているのかね?チェッカーくん?」
終は僕に「行こうか?」と言ったが、チェッカーといううさぎの警官とのやりとりがほとんどのようだった。チェッカーは顔までがっつりうさぎを様している獣人の警察官だった。きっちりと一番上までボタンを止めていて、ビシッとまっすぐ立つ姿から真面目さが伺える。
「そうですね。被害者である狼の獣人、リマティさんは病院に搬送されましたが死亡が確認されました」
「死体の様子は?」
「背後からナイフで一突きですね」
「角度は?」
「垂直に刺さっていました」
終の質問にチェッカーは的確に答えていく。しっかり状況確認できている、なんて感心している場合じゃないんだけど。
「ふぅむ。それですぐ後ろにいた小野道くんにしか犯行は不可能だったと?」
「そうです。仮に遠くからナイフを投げたとしても、刺さる角度が異なるはずなのです」
「なるほど面白い!それがここかね?」
終は血の色が残っているところまで歩くと、血の跡を指差してそう言った。改めて見ると生々しい血の跡だ。獣人も同じ赤い血が流れているんだなと奇妙な納得をしてしまった。初めて見る血の跡が、異世界というだけあって人が(正確には獣人が)死んだという実感がまだ湧かなかった。
「ええ。そこです」
「小野道くんはどうだった?すぐ後ろから見ていて。君はやっていないんだろう?でもすぐ目の前で見ていたはずだ。ならなんらかのヒントが隠されているかもしれない」
終は面白そうに僕を見てそう聞いた。長い白髪が風もないのに揺れた。僕はそれを見ながら返事をする。僕は全く面白くないという反抗は飲み込んで。
「もちろんです!やっていません!・・・えっと。確か。あの時は・・・前の狼の獣人が急に大声を上げだして・・・それで気づいたら背中にナイフが刺さっていたんです」
「ほほう!気づいたら。ときたか。なら小野道くん。君は怪しげな影だとか何かが飛んできた音だとか、刺さる音は聞いていないんだね?」
「・・・多分そうですけど?」
「なるほど」
終はそうとだけいうと周りにいる人をジロジロと見始めた。何かがわかったのだろうか。
「あの、終さん」
「終でいいと言ったろう。なんだね?」
「何か・・・何かわかったんですか?」
僕は初めての世界でいきなり巻き込まれた事件で相当不安になっていた。大丈夫だよと言って欲しかったのかもしれない。しかし終の返事は予想外のものだった。
「いや、さっぱりわからないよ。今の情報だけで何かわかるとしたらそれは探偵ではなく小説家だよ。探偵はできるだけ先入観を持たずに推理を行わなければならないというのが私の持論でね。最初にこうじゃないかと思い込んでしまうと自由な思考を妨げる結果につながりかねないんだ」
「はぁ。そんなもんなんですか」
「そうだ。だから君は不安だろうけど、事件解決に協力してもらいたい」
「それは、もちろん。自分の汚名を晴らすためですから。協力しますよ」
「あと、君は私の依頼料をどうするつもりかね?」
終は試すような目で僕を見た。透き通るような青い瞳でまっすぐ見つめられるとなんだかその目に飲み込まれそうな気持ちになった。
「もちろん。この事件が解決したあと、死ぬ気で働いて返しますよ」
「ふむ。ならいいんだが」
終はお金に関してはそこで話すのをやめ、今度はチェッカーに魔法を使う許可を求めた。
「チェッカーくん。少しばかり、いつもの魔法を使わせてもらうが、いいかね?」
「ええ。どうぞご自由に」
「では。リム。やってくれるか?」
終は宙にふわふわと浮きながら手持ち無沙汰にしていた小さな生物に呼びかけた。名前はリムというらしい。
「是非も無いくせによくいうぜ。姉御」
驚くことにその生物は、いともたやすく人の言葉を喋った。
「いやいや、私はお願いをしているだけだよ?」
そう言って笑う終の顔は不気味なほどいやらしかった。青い目が不気味に光っている気がした。本当にこの人に任せてよかったんだろうか。
「はいはい。んじゃやりますよ。アナリシス。魔力を感受。解析。・・・出たぜ姉御」
リムはそういうとまた尻尾をふり、不思議な光が当たりに散らばった。かと思うとその光はリムの元に帰っていった。これは一体なんなのだろう。
「結果は?」
今度は真剣な顔をして聞く終。探偵というのはもっと硬い感じかと思っていたが、以外とコロコロと表情が変わる人のようだ。
「この血の跡のある場所から線を引くように魔法の反応が続いてる。追うかい?姉御?」
「ああ。どこまであるか追ってくれ」
終がそう指示するとリムは扉を開けて出て言った。
「さて。それでは、小野道くんもみなさんも、何をしているんだこいつはという感情が読み取れましたので、今何をしているか説明いたしましょう。本来ならば全て事情がわかってから説明するものなのですが、私の使い魔のリムくんが帰ってくるまで少し時間があるので、説明タイムといたしましょうか」
終はそこで僕を見たので、僕は必死でうなづいた。
「さっきのリムの魔法は、魔法感知という魔法でね。とても珍しい魔法なんだ。とても熟達した、それも才能のある魔法使いしか使うことができないとされている。まぁそれはいいとして、その効果は、使用された魔法の残りカス。魔力の跡を感知することができるというようなものなのだ。お、そろそろ帰ってきたようだ。魔力の跡はそんなに遠くまでは続いていなかったようだね」
終のセリフが終わったところで、終の言った通りリムは帰ってきた。そして帰るなり報告を始めた。
「姉御。解析が終わりましたぜ。魔力の跡は町のど真ん中で消えておりやした」
「ふむ。魔法の系統は?」
「青ですぜ」
「ほう!青か!」
「不思議なもんです」
何やら二人してよくわからない話をし始めたので、僕は思わず困惑して終に訪ねた。
「青・・・っていうのは?」
「ああ。そうだな小野道くんは知らないはずだ。説明してあげなければ。魔法感知で感知できるのは、いろいろあるんだが、大雑把に色である程度どのような魔法かが判断できるのだよ。その色というのは三原色で表されていて。赤は攻撃、青は回復、黄は支援魔法というふうにね。他にもう一色あるのだがそれはまたの機会にするとしようか」
「は、はぁ」
僕は畳み掛けるような説明に思わず息を飲んだ。
「つまり、今の解析で何がわかったかというと・・・持続的な回復魔法が被害者であるリマティさんにかけられていて、それが町から現場まで続いていたというわけだ。ここまで言えばもう何があったか大体わかるかね?」
「えっと・・・」
正直全然わからない。なんで死んだ人に回復魔法が?
「ふむ。では種明かしまでのお楽しみということにしておこう。これは魔力解析だけで終わってしまう実に簡単な事件だったようだ。正直見掛け倒しだった。リムくんのおかげであらかたの魔法犯罪は解決が簡単になってしまうからね」
「?」
終は僕が何を言わずともひとりでにどんどん喋っていく。でも事件が解決に向かって言っているのは確かなようだ。僕にはなんのことだかさっぱりわからないけど。
事件の調査は続く。




