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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: ロジカル和菓子
File 1「濡れ衣の刃」
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File 1-2

 拾った硬貨で食べ物を買うのをぐっとこらえて僕は教えられた場所へとたどり着いた。なぜなら、職業斡旋の手数料などが存在するかもしれなかったからだ。まぁその手数料が拾ったコインだけで足りるのかどうかは別として。


 ついた場所は一見酒場、というか酒場だった。大きなレンガ造りの建物で、中は酒を飲むスペースと、何やら人が並んでいるスペースに分かれていた。そこにいる人々は皆防具や武器を装備していたり、奇妙な杖を持っていたりいろんな人がいた。並び終わって何かの受付が終わったと思われる人々はそのまま酒場の方に移動して人と話し出した。そして何やら掲示板のようなものをみて各々話し合っている。


 おそらく職業を斡旋のしてくれるのは人が並んでいる方だと思われるので、僕はその行列の一番後ろに並んだ。前には僕よりも一回り体が大きな狼系の獣人が並んでいた。時間も時間だったようで、僕の後ろに誰かが並ぶ事はなく、どうやら僕が最後の客(?)になるようだった。


 前の様子を見ていると、何やら書類に何かを書いて血印を押すだけのようだった。受付の終わった人は一様に不思議な光に包まれた後、嬉しそうに何かを言っていた。もちろんその内容はわからなかったが。そして肝心の手数料はというと・・・ちょうど僕が持っているコインだけで済むようだった。皆は受付に僕が拾ったコインを提出している様子だったのでそれがわかった。


 しばらく経って、ようやく僕の番まで後数人、というところで異変が起きた。


「ぐああああああああああ!!!!」


 僕の前に並んでいた獣人が大声を上げ始めたのだ。僕はそれに驚いて腰を抜かしてしまったが、その獣人をよく見ると、背中に割と大きなナイフが突き刺さっていた。僕は直感的にこれがこの世界での僕の巻き込まれた事件だと思った。でもそれよりも僕は目の前の獣人が心配だった。


「大丈夫ですか!?」


 もちろんその言葉は通じないのだが、思わずそう声をかけていた。僕は周りに助けを求めるが皆驚いているだけですぐに動いてくれなかった。酒場の方にいるだけで人々はすでに酔いが回っていて何が起こっているのか理解していないし、かと言ってこちら側にいる人々はもうそんなにいなかった。


 僕があたふたしているうちに、狼の獣人は意識を失ったようだった。放心状態から帰ったらしい受付のお姉さんはすぐにどこかに電話をし始めた。それが電話と呼んでいいのかはわからなかったが、耳と口に当てるその仕草を見ると電話としか言いようがなかった。


 五分もしないうちにやかましい音とともに何かが移動して来る音がして、その直後うさぎの獣人と思われる小柄な人たちが入ってきた。その人たちはピシッとした青い制服を着ていて、まさしくそれは警察のようだった。顔までもふもふのうさぎの者もいれば、顔はヒトの者もいる。


 読み通り、その人たちは警察のような存在のようですぐに死体を取り調べ始めた。そしてドアを封鎖し、誰も外に出せないようにした。僕はうさぎの警官たちに追いやられ、壁際まで移動した。そして壁に手をついた時、カサと紙のような感触が手に伝わってきたのを感じた。見ると、そこにはポスターのようなものが貼ってあった。そこには茶色の帽子とパイプタバコ、茶色のコートという、いかにも探偵と言わんばかりの格好と、電話番号と思われる数字の羅列が表記してあった。


 なんだこれ?と思いながら、ポスターから目を話し振り向くとうさぎの警官たちが何やら僕のことを指差しながら周りの人と話し合っている。これはまずい流れな気がするとすでに感じ始めていたが、もうどうしようもなかった。すぐにうさぎの警官たちは僕の方にわらわらとやってきて、僕を取り押さえた。意外と力強いんだな、なんて思っている場合ではなく。僕はこの世界に来て初っ端から濡れ衣を着せられたらしかった。釈明しようにも僕はここの言葉がわからない。正直お手上げだった。


 しかし、僕はさっき見たポスターのことを思い出した。探偵。もしそんな存在がこの世界にも存在するとするならば、この状況をなんとかしてくれるかもしれない。


 僕は取り押さえられながらも必死にジェスチャーで電話をさせてくれと頼んだ。うさぎ獣人の警官たちも僕のその必死さから何を言いたいか伝わったようで、電話ぐらいならと許してくれたようだった。僕は受付のお姉さんから電話を借りるとポスターの番号を見て電話をかけた。


 プルルルルプルルルルとツーコールしたところで相手は電話に出てくれた。


「ーーーーーー、ーーーーー?」


 やっぱり言葉が伝わらない。というか聞き取れない。でも僕は必死に日本語で「助けてください」と言った。


「ほう、君はアース世界の者か。それも日本・・・かね?」


 その声は女の人のものだったが、口調はなんだか偉そうな男のようだった。しかしそれよりも注目すべきなのは彼女の話す言葉が、紛れもない日本語だったことだ。


「へ!?」


「詳しい説明は後だ。その様子から見ると、こちらの世界に来てから言葉もわからぬままいきなりなんらかの事件に巻き込まれたと見える。合っているかね?」


「そうです!なんでそんなことが!?」


 電話の主は言ってもないことを言い当て出した。


「これは簡単な推理だよ。君は日本語を話した。その時点で君は転生者だということがわかる。どうせあの阿呆に騙されてこんなところまで来たのだろう。そしてその君が日本語で助けてと言った。それはつまり言葉のわからない状態で困っている状況だということだ。まぁそれはいい。そこはどこだ?至急向かわねばならんのだろう?」


「ありがとうございます!ここは・・・酒場と職業を探すところが一体になっているところです」「ふむ・・・それなら5、600通りの場所があるな。何か変わったものはないかね?」


「変わったもの・・・変わったもの・・・あ、入り口のドアに龍と騎士のようなマークがあります」


「警官はどんな姿をしている?」


「うさぎの獣人です」


「なるほど。そこはラビの双子町のようだ。すぐに向かわせてもらうよ。電話を警官に変わりたまえ。待つように言っておこう」


 電話の主の言い分に従い、僕はその電話を警官に取り次いだ。数分喋ったかと思うと、警官は僕にここで待つようにジェスチャーで伝えてくれた。


 そして数分後。僕にとっては希望の扉が開いた。


 入り口から現れたのは真っ白な長いローブを着た、白髪の美女だった。その白髪は床にまで伸びようとするぐらい長く所々髪の毛が外にはねていた。目は青くうっすらと光っているかのようで、白い肌と合わさって彼女はまるで人形のような美しさを纏っていた。白いローブの中にもまた白い服を着ていた。それはそれは異様な姿で、明らかにその場には浮いていた。


 彼女は入ってくるなり、僕を見つけるとつかつかと歩いてきた。


「君が依頼者だね?名前は?」


 もはやなんで僕が依頼者だとわかったのかとか日本語なのはなんでだとかは聞かないことにして、質問にだけ答えることにする。その美しさについ見惚れてしまったのは内緒だ。


「小野道連慈・・・です」


 彼女はさらに周りをぐるっと見渡すと、再びつかつかとうさぎ警官の元に歩いていき、何やら話をしていた。かと思えば、彼はまた僕の方に戻ってきた。


「事情は彼から聞いたよ。君は随分と困っているようだね?」


 彼女は自信満々な顔つきで僕にそう言ってきた。それはもう本当で、それはそれは困っていたので正直に答える。


「はい・・・お願いです。僕の濡れ衣を晴らしてください」


 彼女は僕のその言葉を聞くと、ニヤリ、と笑った。その時の彼女には美しさよりも異様な気持ち悪さという言葉が似合っていた。


「よろしい。それじゃあ、少し、時間をもらおうか。まずは君のその言葉をなんとかしないとね。一時的ではあるが、あらゆる生物と意思疎通ができる、いわばテレパシーにも似た魔法をかけてあげよう。ーー!」


「ーーーー!」


 彼女が何かの名前を呼ぶと、彼女の髪の中から小さな生物が現れた。それは翼の生えたリスのような形をしていて、なんというか・・・モフモフだった。


「ーーーーーーーーー」


「ーーー!」


 彼女がその生物に何かを頼むと、その生物は不思議なそぶりをした。尻尾を振ると柔らかな光が僕を包んだ。そして次の瞬間僕は皆の話す言葉がわかるようになっていた。


「これで言葉がわかるようになったはずだよ?今この言葉が理解できるだろう?」


「はい!他の人の言葉もわかります」


「よし。それじゃあ、君の濡れ衣を晴らす準備をしようか。おっと、その前に自己紹介をしておこうか。つい忘れていたが、君は電話をしてきた時、文字が読めなかったはずだから私の名前は知らないんだな・・・。私の名前は上終終。気軽に終とでも読んでくれ給え。私は堅苦しいのは嫌いなんだ」


 畳み掛けるように話す彼女はなぜか生き生きとしていた。小さな生物の方を見ると僕の方を見てなんだかため息をついた気がするのだが、気のせいだろうか。


「よし。それじゃあ調査を始めようか。チェッカーくん!」


 終が名前を呼ぶとうさぎの警官の一人が近寄ってきてそれに応える。


「はい。上終さん。どうぞご自由に取り調べください。上の許可は降りています」


「うむ。ありがとう。チェッカーくん。では、・・・小野道くん。行こうか?」


 自分のことは終と呼べと言ってくる割に小野道と呼ぶんだなと思いつつも返事をする。


「はい。お願いします」


 僕の命運をかけた調査が始まろうとしていた。



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