そらとぶライオン
とある童話賞の賞金目当てに(苦笑)応募した作品です。
もちろん、落選しました。だめですね、煩悩だらけで応募したりしては。
短いお話ですが、そらとぶライオンと人間の少年の友情を楽しんでいただければ嬉しいです。
エドガーはライオンです。でも、普通のライオンではありません。背中に大きな羽根が生えていたからです。
ぼくみたいなライオン、みたことないや。
エドガーは段々、不安になりました。みんなと一緒がよかったからです。
ある日、エドガーはお母さんに聞いてみることにしました。
「ママ、どうしてぼくには羽根が生えているの? 兄さんにも、姉さんにも、ママにもパパにも、羽根は生えていないのに」
「それはね、エドガー」
おかあさんは、優しく微笑むと、こう答えてくれました。
「エドガーには、他のひとにはできないことができるからよ。みんなにはないその羽根を使って、なにかができるから」
「なにかって、なあに?」
「それはわからないわ。エドガーが自分で見つけなくては」
他のひとにはできないけれど、ぼくにはできること。なんだか、難しそうだなあ。
どうして誰も教えてくれないんだろう。
その夜、家族のみんながぐっすりと眠りについてから、エドガーは散歩に出かけました。でも、普通の散歩ではありません。
エドガーは背中の羽根を大きくのばして、ばさばさと羽ばたかせました。そう、空の散歩にいくのです!
「うわあ、今日はお月さまがきれいだなあ」
まんまるになったお月さまは、あたりを明るく照らしています。空は透き通っていて、風が心地よく羽根や背中の毛をくすぐりました。ぐんと高いところに飛ぶと、ひとつの窓から明かりが漏れているのに気付きました。もう、大抵の人間たちは寝てしまっているというのに。
エドガーは窓に近づいて行って、そっと羽根を閉じると、窓辺に座って中をのぞいてみました。
薄いカーテンの向こうには、小さなベッドがあって、その小さなベッドの上には小さな男の子が寝ていました。目は開いているから、眠ってはいないようです。男の子は、窓の方に首を向けて、そして、
「うわあ! ライオンだ!」
男の子は、ベッドから降りると窓の鍵を開けて、エドガーを部屋に入れてくれました。
「こんばんは」
「こんばんは。うわあ、本物のライオンだあ」
男の子は、エドガーの周りを興味深そうにしげしげと見つめています。
「ぼくは、エドガー」
「初めまして、エドガー。僕は、クリス。あ、エドガーには羽根が生えているの?」
「そう。変でしょ?」
「ううん、ちっとも変じゃないよ。格好良いよ! だって、飛べるんでしょ?」
「うん、飛べるよ」
格好良い、なんて言ってもらったのは初めてでしたから、エドガーはなんだかくすぐったくいような気持ちになりました。
「いいなあ。僕なんて、この部屋から出られないのにさ」
「どうして出られないの?」
「外に出ると、体に良くないってお医者さまが言うんだ。走ったりするのも、だめだって」
悲しそうにクリスが言うので、エドガーは思わず、
「じゃあ、ぼくの上に乗って、ぼくと一緒にお散歩に出かけようよ」
と言いました。
クリスを乗せての空の散歩は、今までで一番楽しい散歩でした。お月さまに向かって飛んだり、逆さまになったりすると、クリスは楽しそうな笑い声を上げました。
「ありがとう、エドガー。こんなに楽しい夜は初めてだったよ」
「どういたしまして、オスカー。また、お散歩に行こうね」
他のひとにはできない、ぼくだけにできること。それって、もしかしてこれのことかな? ひとが喜ぶのをみるのって、嬉しいな。あんな笑顔が見られるんだったら、ひとと違っても良いかもしれないな。
エドガーは家に向かって、羽根を広げました。