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短編

指輪の跡とSNSの罠 ~恋愛はどうしてこうも難しいのか~

作者: 秋山機竜

 高校時代は意識していなかった女の子が、突然可愛く思えた経験はないだろうか?

 俺は現在進行形で経験している。

 きっかけは同窓会だった。いや同窓会と呼べるほど大規模な集まりではなくて、SNSをきっかけに偶然集まった飲み会だ。場所は、ありふれた大衆向けの居酒屋で、タバコと若者向けの香水が漂っている。客層も大学生風の男女ばかりで、サラリーマンは少ない。どことなく大学の学食を連想するテーブルと椅子が、現役の大学生たちには親しみやすかった。

 そんな青臭いと酒臭さが交差する店で、美崎さんと再会した。


 二年前の彼女は、化粧をほとんどしていなくて、童子みたいな丸顔には不安や怯えが付きまとっていた。

 それが今では、ぱっちりとした化粧をしていて、花が咲いたみたいに笑う子になっていた。お洋服だって柄物のワンピースとシンプルなカーディガンを組み合わせたソツない着こなしで、なんとなくだが男の影を感じてしまった。

 だから彼女の左手の薬指に注目した。

 

 指輪の跡があった。


 やっぱり彼氏がいるのだ。だがなんで外しているんだろうか。堂々とつけていればいいのに。

 もしかして裏の顔は遊び人だったんだろうか。それを俺が知らないだけで、勝手に清楚なイメージを持っていただけとか。

 それとも彼氏がいることを追求されることが嫌なのだろうか。引っ込み思案だから? でも引っ込み思案ならそもそも同窓会に出てこないだろう。

 こんなウジウジ悩んでいないで、直接理由を聞けばいいんだろうが、どうも会話のきっかけを掴みにくい。

 と思っていたら、かつてクラスの人気者だった派手なギャルが突っこんだ。


「美崎さんってさ、どうして指輪外してるの?」

 

 ナイス突っこみ、と心の中で賞賛しつつ、ビールジョッキの水滴を指先で弄びながら聞き耳を立てる。

 他の同級生たちも男女問わず興味津々だ。これなら俺が関心を持っていても不自然じゃないだろう。

 やがて美崎さんは苦虫を潰したような顔でいった。


「実は、彼氏と別れたばっかりで」


 ああ、そういうことだったか。納得した。たしかにそれなら指輪を外す。

 だが意外だ。あのおとなしい美崎さんがつい先日まで彼氏がいて、しかも指輪の跡がつくほど長く付き合っていただなんて。

 そうなってくると下世話なことが思い浮かぶ。

 あの美崎さんも、処女じゃないわけか。

 だから、あんなソツない格好で、快活に笑うようになったのか。

 つまり女として自信を持っているというわけだ。

 

 そう考えたら、さきほどまで美崎さんに抱いていた淡い恋心が、急速に怯えに変わっていく。

 もし俺みたいにモテない男が距離を縮めようとしたら、昔の彼氏と比べられて鼻で笑われるんじゃないかって。

 でも、ここで話しかけるのをためらったら、二度とチャンスはやってこないかもしれない。 

 やらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがいいというじゃないか。

 酒の勢いもあって、俺は美崎さんに話しかけた。

 

 そこからの記憶が曖昧だ。いや嘘だ。本当は鮮明に覚えている。だが脳が忘れようとしていた。

 調子に乗った俺は、あることないことバカみたいに喋って美崎さんにドンビキされた。そればかりか周りの同級生たちも白けてしまって、すっかり同窓会は失敗してしまった。

 男子の同級生たちはドンマイといってくれたが、女子たちが白い目をしていたことを火傷の跡みたいに覚えている。

 

 そして後日知ったのだが、俺のSNSアカウントは女子全員にブロックされていて、おまけに俺を除いたメンバーで二度目の同窓会をやって、美崎さんは俺に言い寄られたことを相談していた男子と付き合ったという。


 …………おい誰だよ、やらないで後悔するよりもやって後悔したほうがいいといったやつ! ちくしょう! 覚えてろ!

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