トイレットペーパー(ショートショート28)
ホームセンターの出入り口そばに、トイレットペーパーの束が山積みされて並べられてある。
今はこうしてトイレットペーパーだが、以前は新聞紙や段ボール箱であった。さらにその前は、本やノートと輝かしいときもあった。
そこへ……。
若い女性がやってきて、トイレットペーパーのひと束を手に取り、レジに並んだ。
――オレの人生もいよいよ終わりだな。
そのトイレットペーパーは思った。
今度ばかりは水に流されておしまいなのだと……。
――でも、オレは運がよかったよ。
人生最後に娘のお尻をなでられる。ついニヤニヤしてしまうのだった。
娘が玄関の奥に向かって声をかけた。
「おじいちゃーん、頼まれてたトイレットペーパー買ってきたわよー」
「いつもすまんな」
老人がヨボヨボとした足取りで出てきた。
「気にしないで」
「ほんとに助かるよ。年寄りの一人暮らしは、なにかと不便でな」
「こまったことがあったら、いつでも連絡してね」
娘は笑顔で言って、トイレットペーパーの束を老人に渡した。
思わぬなりゆきに……。
――ゲッ!
トイレットペーパーは大いに落胆した。
これから毎日、ジジイのケツをふくことになってしまったのだ。
だが、すぐに思い直す。
――まあ、いいか。どのみち最後は、土になって大地にもどるんだからな。
遠い昔。
自分がまだ青々とした、若木だったころのことが懐かしく思い出されたのだった。