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人ノ言葉ヲ喰ラウ鬼 其ノ肆

そして日和の姿に気付いた二人は

「何じゃ遅かったのう」

「日和さん何してたんです?」

 何も見なかった……何も聞こえなかった……と自分に言い聞かせながら平静を装いながら

「……ちょっと話がまとまらなくてな」

「どうしたんじゃ? 幼馴染に怒られてしもうたのか?」

(あっ! 何言ってんだよディユンの奴)

 その瞬間、ディユンが言った『幼馴染』という言葉に水琴が反応した。

「日和さんの幼馴染です?」

「そうなのじゃよ。木乃葉というて日和と幼稚園からの幼馴染が居ってのう」

「そんな前から日和さんの事を知っている人が居るのです?」

 何だか元気を無くした水琴を見た日和はディユンの耳元で

「お前! さっきから何言ってるんだよ! 女の子に女の話をしたら気まずくなるだろう!」

「そうなのか」

「だからもうお前は静かにしてろ!」

 そう言われたディユンは考え始めた。

(そうじゃったのか……人間というものは異性に自分と同姓の存在の話をされるのを嫌うのか……それなら今仲良くなった少女の為にも、日和の為にもここは一つ嘘を付くのが良い判断じゃろうて……)

「のう少女よ。私が要らん事を言うってしもうたばかりに変な気持ちにさせて済まんかったのう。だが安心せい。幼馴染というても男じゃ」

「だ~か~ら~お前は黙ってろよ! 話がややこしくなるだろうが! 何処の世界に木乃葉って名前の男が居るんだよ!」

「なんじゃ? 居らんのか? 人間というのは名前すらも分けておるのじゃのう」

 話を滅茶苦茶にされてしまい、水琴にどう言い訳をして良いのか(こんな風に言ってしまうと水琴が日和に対して特別な感情を抱いている様に取られてしまい兼ねないが、ただの知り合い関係である)分からなくなった日和が気まずそうにしていると水琴が言った。

「日和さんってその木乃葉さんの事好きなのです?」

「な、な、な、何を言っているんだ!? そんなわけ無いじゃないか! たまたま家が近くて同じ学校に行ったりしてたから幼馴染みたいになってるけど、ただの友達だよ!」

「本当にそれだけの関係なのです?」

「当たり前じゃないか! 少年漫画じゃないんだから幼馴染の事を好きになるだなんて、そんな在り来りな設定が現実に適応される訳が無いだろ!」

「確かにそうなのです」

 急に元気になった水琴にいつもの笑顔が戻った。

「ちょっと心配しちゃったです」

(やっぱり水琴の笑顔は可愛くて最高だな。でも何で突然元気になったんだ? 俺が木乃葉に対して恋愛感情を持っていないと知った瞬間だった。もしかしてこれは……水琴は俺に恋してるのか? いや、まだ焦ってはいけない。仲良くしてくれるお兄ちゃんに好きな人が居ると分かった時に幼い女の子なら誰もが『嫉妬』というものを経験する筈なんだ。自分だけの人が取られてしまうんじゃないかという『焦り』。幼心に芽生え始めた人を好きになるという感情を知った時、叶わないと思いつつも追い掛けてしまう『禁断の愛』。そしてこの未だかつて誰もが解き明かせなかった方程式によって水琴が俺に対して抱いている気持ちが判明したのだった。確実に水琴は俺の事を愛している)

「きっと日和さんの事なので好きになってしまったら相手がどんなに嫌がろうとも無理矢理に変な事をしようと考えるです。でも良かったです。日和さんが犯罪に手を染めるのはもう少し後のようなのです」

(全然違ったぁ~……俺の事を気にしてたんじゃなくて相手の身の危険が無いかの心配だったのね。しかも水琴から見た俺って遅かれ早かれ犯罪に手を染める事になっているんだ!」

 ファミレスに入ってからの日和は色んな感情に振り回されていたせいか疲れ果てたような表情を浮かべていた。

(何かどうでも良くなってきたなぁ……この後は木乃葉の家を直しに行かなきゃいけないのにもうクタクタだぁ……さっさと水琴に御飯を食べさせて向かうとするかな。さて、俺は何か軽い物を注文しようっと)

 そう思いながらメニューを手に取ろうとする。

「あ、日和さんの御飯も一緒に注文したのです」

「えっ……何を注文したの……?」

 疑問を投げ掛けようとした時、日和は窮地に立たされたのだった。

「お待たせいたしました! こちからか……」

 次々に運ばれてくる料理を目の前にして日和の魂は抜けかけていた。

(何でだ……? どうしてだ……? 俺に対しての虐めなのか? 水琴は何故こんな事をしたんだ? きっと俺は夢を見ているんだな。あぁそうだ。ミリテリアスと戦った時の毒が完全に抜け切ってなかったんだな。もう……大した奴だよミリテリアス)

 現実逃避をしている日和にディユンが声を掛ける。

「おい、しっかりせぬか! 意識をしっかり持つのじゃ! 必ず無事に二人で帰るのじゃ! 日和~~~!」

 浄鬼ヲイシテ 完

 ……

 ……

 ……

「って、まだ終わる訳無いだろ!」

 何とか現実逃避から戻って来れた日和は水琴に疑問を投げ掛けた。

「水琴! この大量の料理はどういう事だ!」

「えっ全部食べるのです」

「食える訳無いだろ!」

「これくらい食べれるのです」

「えっ……マジで言ってるのか水琴?」

「はい! 私の同級生はみんなこれくらいは食べるのです」

 そう言って食べ始めた水琴は次々に平らげていった。

 唖然としながら見ていた日和とディユンに水琴が

「さぁさぁ一人で食べても美味しくないって言ったのは日和さんなんですから一緒に食べるです!」

「水琴とは公園と病院で会ったイメージしか無かったから全然気付かなかったけど、滅茶苦茶大食いだったんだな……」

 呟く様にディユンに言うと日和とディユンは顔を見合わせて笑った。

「よし! 食べるか。一緒に食べないと美味しくないもんな!」

「そうじゃそうじゃ。何だか少女が食べておるのを見ておったら私もお腹が空いたのじゃ」

(あぁ、この後に木乃葉が作ってくれてる料理も食べなきゃいけないのに大丈夫かな俺。でも水琴がこんなに楽しそうに食べてるのを見れて良かったな。ウォールムに喰われてた手足も元通りになってるみたいだし、出会った頃に比べると本当に心から笑ってるな)

「なぁ、水琴。今幸せか?」

「いきなりどうしたのです?」

「何か水琴を見てたら聞いてみたくなったんだ」

 勢いよく食べていた手を止めると水琴は急に照れたように笑った。

「はい! とてもとても幸せなのです。お母さんは相変わらずお仕事に出掛けたりするけど、前みたいに無理をしなくなったし、一緒に居られる時間も増えたから毎日凄く楽しく過ごせているのです! 今こうして居られるのは全て日和さんとディユンさんのお陰です。本当に感謝してもし足りないくらいなのです。そして私に気を使ってくれて一緒に御飯を食べてくれて嬉しいのです。日和さんって普段はただの変質者だし、私はずっと身の危険を感じてばかりで逃げたい気持ちを抑える事で精一杯なのです!」

「……何か途中から俺の悪口になってないか?」

「仕方無かろう。真摯に受け止めるのじゃ」

「でも日和さんの優しさは誰もが持ち合わせていないものです。きっと周りの人達はその優しさに助けられたり救われたりしている事だと思うのです。もしかしたら幼馴染さんは日和さんの優しさをいつも間近に触れてきた訳ですから好意を抱いてくれているかもなのです」

「おぉ! 案外するどいのう!」

「……お前はいちいち反応するな」

「だから日和さん。これからもずっと変わらずそのままで居て下さいなのです。私もそんな日和さんの事が大好きな一人です」

「俺、今……告られたのか?」

「いや、決め付けるのはまだ早いのじゃ!」

「なぁ水琴。一つ聞いていいか?」

「はい! 何でも聞いて下さいです!」

「人の事を大切に思ったり、好きになるってどういう事だと思う?」

「いきなり小学生相手の質問で難易度高めできたのです!」

「そんな難しく考えなくて大丈夫だよ。率直に思った事を言ってくれれば良いから」

「う~ん……日和さんが求めている答えかどうかは分からないですけど、きっとそれは相手が笑っている時に自分も自然と笑顔になれるかどうかだと思うのです。私の場合だと、お母さんが笑っていると何か胸の奥の方がくすぐったい感じになってしまい、それでいて凄く温かい気持ちになるのです。きっとこういう気持ちになる事が『幸せ』であり、その人の事を『好き』っていう証拠だと私は思うのです。単純に言えばずっとその笑顔が見たいかどうかだと思うのです……えへっ、何だかこういうの少し恥ずかしくなっちゃうのです。どうです? 日和さんの聞きたい事にちゃんと答えられたです?」

 まだあどけない顔が若干赤らんで恥ずかしそうにしている姿は日和にとってこれ以上ない程の至福の時に感じたが、疑問に思っていた日和の心を優しく包んでくれた様でもだった。

「あぁ、良い答えだったよ。その答えで何だか悩んでた部分が少し解れた感じになった。有難うな! あとさっき、俺が気を使って水琴と御飯を食べてくれたって言ったけど、俺は水琴に気を使ったりしないよ。だって俺は自分のしたい事は無理にでも実現しなきゃ気が治まらない人間だからな。今日は俺が水琴と一緒に御飯が食べたいと思っただけだ。それに付き合ってくれた水琴に感謝してるくらいだ」

「いえいえそんなお礼なんて言って貰っては罰が当たるです」

 和やかな雰囲気でテーブルの上の料理も殆ど食べ終わり、ディユンが最後に残ったチョコレートパフェに手を伸ばした瞬間、日和の携帯が鳴った。

「俺の携帯を知っている奴なんて殆ど居ないのに鳴るなんて珍しいなぁ」

「時々じゃが……日和の事を本当に可哀想に思うわい」

 何の気無しに携帯画面を見た日和の表情が一瞬にして凍り付いた。

 そして咄嗟にディユンの腕を掴むと

「行くぞ!」

 突然、血相を変えた事を不安そうに見ていた水琴に微笑んで

「ちょっと急用が出来てしまった。ごめんな。また一緒に御飯食べような。あとブランコの約束も果たさないとな」

 そう言うとレジでお金を払い、ディユンを連れて走り去ってしまった。

 いきなり腕を摑まれたままのディユンは状況が飲み込めておらず、日和に制止を求めた。

「どうしたと言うのじゃ? まだ私はチョコレートパフェを食べておらぬのだぞ! 携帯の相手は木乃葉じゃったのか? なかなか来ない私達の事をそんなに怒ってしまっておるのか?」

 だが、日和は黙ったままひたすら走り続けていた。

 訳が分からなくなったディユンは腕を払って立ち止まった。

「いい加減にせぬか! どうしたと言っておるではないか!」

 漸く日和も立ち止まったが、振り返ったその表情は絶望に打ち震えていた。

 ただ事では無いと悟ると日和に近付いて行き、肩に手を乗せた。

「何があったのじゃ?」

 日和は何も言わずに携帯画面を見せた。

そこには――


『日和兄ちゃん……助けて!』

 その一文しか書かれていなかった。

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