人ノ言葉ヲ喰ラウ鬼 其ノ参
そして目的のファミレスに辿り着いた三人は中に入って行った。
「何名様でしょうか?」
「あ、三人です」
「三名様ですか? ……もう一名様は後からのお越しでしょか?」
日和は後ろを振り返るとディユンの姿が無い事に気が付く。
(あっ! ディユンが後ろから付いて来てると思っていたのに、いつの間に)
(本当に気付いておらんかったのか……)
(お前、俺の中に入ってたのかよ。さっさと出て来いよ!)
焦りながらブツブツ言っている日和に店員は困った様子で
「あの……」
何とかこの場を取り繕おうと
「あれ? おかしいな? さっきまで一緒だったのになぁ~。すぐに来ると思うんで三人でお願いします!」
「あとから一名様お越しですね。それではお席へご案内致します」
(絶対おかしい人だと思われた……水琴の事も何かチラチラ見てたし、幼女誘拐と思われたかも知れない……それも何もかもディユンのせいだぞ!)
(私が何をしたと言うのじゃ?)
(急に俺の中に姿を消してんじゃねぇよ! 一言くらい言えよ!)
(何を言っておるのじゃ。日和が少女に夢中になっておるのが悪いのじゃ)
「あの……日和さん? 何か様子がおかしいのです……どうしたのです?」
席に案内されても座らずに独り言を言っている日和の顔を水琴が覗き込んでいた。
「いや、何でも無いよ。ちょっとトイレ行って来るから好きな物を注文して待ってて」
そう言うとトイレに行った日和だったが、中に入ると誰も居ない事にホッとする。
すると中に居るディユンに言った。
「取り敢えず出て来い!」
渋々日和の身体の中から出てきたディユンだった。
「なんじゃ? 私など別におらんでも良いではないか。急に何を怒っておるのじゃ?」
「お前、俺に憑いてる癖に何も分かって無いんだな! 俺はな……女の子と二人っきりになったらどうして良いのか分からないんだよ!」
「……は?」
「だから女の子が一緒に居る時は俺を一人にするんじゃねぇよ! 緊張するだろうが!」
ディユンは日和に出会ってから今までの事を思い返してみた。
すると日和の言っている意味に納得がいったような感じで拳を手の平に軽く打ち付けた。
「おぉ~そうじゃったのかそうじゃったのか。今まで普通にしておったので何も疑問視して見ておらんかったが確かにスーパー女の時といい、今席で待っておる少女の時といい、幼馴染の家に行った時といい……全て私が一緒だったのう。二人っきりでは無かったから出来た事なのじゃな。その割には妄想の中では自由奔放に繰り広げておったではないか。別に初対面という訳でも無いのに恥ずかしがるとは何気に純粋なのじゃな!」
「べ、別に二人っきりじゃ無かったから出来た訳じゃないし、たまたま偶然ディユンが居合わせてただけだろう。それに恥ずかしがってるんじゃなくて、どうしたら良いのか分からないだけだ! 例えるなら初めてのバイト先で何をしたら良いか分からない状態の時に周りから『大人しい人なんですね』って言われるのと同じだ! 大人しい訳じゃねぇ! 何をしたら良いか分からないだけなんだ!」
「何となく話がズレとるような気がするが、早い話が女の子と二人っきりになるのに慣れとらんという事じゃのう。ところで少々疑問なんじゃが、一体日和は何歳くらいの女の子なら平気で接する事が出来るんじゃ?」
「そりゃ高校生から大人はもう立派な女性だから何をどうして良いのか分からなくなるし、中学生は大人と子供の発展途上国みたいな位置だけど、魅力は充分有るから三百メートルの距離があれば二人っきりになっても大丈夫だと思う。小学生はあのあどけなさがマジ半端ねぇ! 無邪気に笑い掛けられると溶けてなくなってしまいそうだ! 幼稚園児はこれもなかなか手強いぜ。物事をまだ知らない反面、急な成長に驚かされてしまうんだよな。まるで天使が降り立ったみたいな錯覚に捉われてしまう」
「いや……もう良い……聞いた私が悪かった。日和がそんな風に道行く女の子を見ておったとは……話の途中から娘を持った父親みたいになっておったが、明らかに日和のは違う感情が入っておったぞ」
ディユンは久し振りに厄介な人物に憑いてしまった事を心底後悔していた。
「取り敢えずだな、今後俺が誰か女の子と一緒に居る時は絶対に隣に居ろよ!」
「……お前は良くても相手が気まずいのではないのかのう」
「俺がその場に居ない方がよっぽど気まずいぞ!」
「いや、意味が分からん。それではただの他人同士が一緒に居るだけではないか」
「っていうか、あまり水琴を一人っきりにしてたら可哀想じゃないか! 俺はちょっと木乃葉に連絡してから行くから先に戻っててくれ」
「今言った事をもう現実でしようとしておるのか……」
もう完全に呆れ果ててしまっていたディユンは疑問を感じながらも水琴の所に戻って行く。一人残った日和は携帯を取り出して木乃葉に電話を掛け始めた。
プルルルルルッ
「あ、日和。どうしたの?」
「ちょっと家の用事で少し遅くなるけど、昼過ぎくらいには行けると思うから先に御飯を食べてても良いからな」
「えっそうなの? でも昼過ぎには来れるんだったら別に一緒に食べれば良いじゃん。私はそれまで待ってるけど」
「あ、いや……それなら……一緒に食べるか。じゃあ何か買って行くからどんな物が良いかな?」
「そんな事しなくて良いよ。日和は私の家を直す為に来てくれてるんだから私が作って待ってるよ」
「……そっか。因みに何を作ろうと思ってる?」
「そうだなぁ~。たまには頑張って作っちゃおうかな! 日和も沢山食べないと元気出ないだろうし」
(そんな頑張らないで下さいよぉ~……明らかにガッツリ系の物を作ろうとしてる感じがひしひしと伝わってきてるよぉ~。ごめんなさい……僕今、ファミレスに居ます)
何て事を言える訳も無く
「それは楽しみだなぁ~! 用事を早く済ませてすぐに向かうからな!」
「そう言って貰えると尚更やる気が出てきた! 沢山作って待ってるからね!」
(はい、地雷踏んだぁ~。俺の馬っ鹿!)
「あ、あまり無理するなよ……それじゃ……」
プツッ……
「ま、まぁ水琴に御飯を食べさせてやるのが目的なんだから俺がそんなに食べなきゃ良いだけなんだよな」
気を取り直して水琴の所に戻って行く日和だったが、何故か笑い声が聞こえてきた。
「あははっディユンさん。面白いです!」
「じゃから私は日和に言うたのじゃ。『それは食べ物では無いぞ!』と、そしたら日和の奴驚いたように吐き出したのじゃ」
「あははっそれ本当なのです。日和さんどうしようもないです!」
日和はその様子を見て唖然となった。
(……デ、ディユンと水琴が打ち解けてる)




