人ノ言葉ヲ喰ラウ鬼 其ノ貳
一瞬で日和の思考内は水琴の事で埋め尽くされ、急に走り出した。
(めっちゃ久し振りじゃん! 元気だったのかな? 俺はお前に会えてハイパー元気になってしまったぞ! こんな所で会えるなんてやっぱり運命の赤い糸、いや鎖で雁字搦めに巻き付いてるんじゃないのかな! せっかくの感動の再会なんだからここは劇的な感じにしたいよな。あぁ……でも、もう待てない!)
「水琴おおおおおおお!」
勢いよく車道に飛び出して向かってくる自動車を交わし、反対側まで辿り着いた日和は水琴に抱き付いた。
「うわああぁぁぁぁああああああ!」
そして水琴の頭を撫でながら
「もう手足は大丈夫なのかぁ~。ずっと心配していたんだぞぉ~。こんな所で何しているんだよぉ~。ダメじゃないか一人で歩いていて変な奴に抱き付かれでもしたら大変なんだぞぉ~。相変わらず良い匂いするなぁ~」
「いやああぁぁああああああああ!」
「大人しくしろ! 大丈夫だから! 何もしないから! ちょっと家に連れて帰るだけだから!」
「助けてぇ~です! こ、このロリコン変質者を捕まえて死刑にでもして下さいです! このままだと連れ去られてしまうですぅ~!」
そこにやっと日和の後を追い掛けてきたディユンに
「止めぬか!」
バシッ!
その一撃で我に返った日和は
「あれ? 俺何をやってたんだ?」
「おぉ、気が付いたか! お前は悪い者に憑かれておったのじゃ。これで一安心じゃ。それでは先を急ごうではないか。」
ディユンは日和を引き摺るようにその場を後にしようとしたが
「って、何も無かった事にしようとしても無駄なのです!」
その突っ込みで足を止めた
「やっぱり無理じゃったのう」
前にも交わしたようなやり取りを終えた三人。
日和は水琴に質問をした。
「何でこんな所を歩いているんだよ。水琴の家ってこの辺りなのか?」
「はい! すぐ近くが私の家なのです」
「そうだったのか。意外と近所だったんだな。これからは好き放題に水琴を抱き締められるな!」
「……お前冗談抜きで捕まってしまうぞ!」
「ところで今日はお母さんと一緒じゃないのか?」
日和にディユンの声は届いていないのであった。
「今日はお母さんは用事があって一日中居ないのです。だからお昼御飯を買いに来たのです」
「そっか今日は留守番してて水琴一人なんだな。それなら俺と一緒に昼を食べようぜ。ちゃんと奢ってやるし」
「えっ……でも日和さんに悪いです! 私なら一人でも全然大丈夫なのです」
「子供が大人に気を使わなくても良いんだ。俺もよく両親が仕事に出掛けていたから一人で御飯を食べたりしてたんだけど、やっぱり一人だと美味しいって思えなくってな。どうせ食べるなら一緒に食べた方が絶対美味しいって感じられるんだから」
少し考える水琴だったが、日和の顔をチラッと見て笑顔で答えた。
「仕方ないです! 日和さんのお誘いを強引に断る訳にもいかないのです! では、ご馳走にならせて頂くのです!」
「良かったぁ~。もし誘いを断られたらあまりのショックで我を見失い自殺の衝動を抑え切れなくなってしまうところだったよ」
「ええ!」
「……お前がやっているのは脅迫という立派な犯罪じゃぞ」
「それじゃ好きな物を食べさせてやるから行こうぜ」
やはりディユンの声は何があろうとも届かなかったのであった。
日和は取り敢えず色々な料理が食べられるという事でファミレスに向かう事にした。
隣を歩いている水琴をチラチラ見ながら妄想を膨らませる。
(はぁ~まさか水琴とデートが出来る日が来るなんて夢にも思って無かったなぁ~)
(あの……私も一緒なのじゃが……)
(何か変な声が聞こえたけど気のせいだな! 取り敢えず彼女と一緒に歩いている訳だから手ぐらいは繋いだ方が良いよな?)
(小学生と手を繋いでも傍から見ればただの保護者にしか見えないのでは? 若しくは幼女誘拐犯!)
日和は恐る恐る水琴に声を掛ける。
「なぁ水琴」
「はい!」
「手……繋ごうか」
「結構です!」
「べ、別に疾しい気持ちなんてこれっぽっちも無いんだからな……ただ車とか来たら危ないと思ってな」
「そうだったのです! 気を使って貰って有難うなのです!」
「じゃ、じゃあ手を繋いでくれるのか?」
「あ、結構です!」
かなりの大ダメージを受けた日和だったが『浄鬼』で『無かった』事にした。
(意味不明な事で使うでない! しかも鬼とは何の関係も無いではないか!)
(はい、聞こえない聞こえない)
(日和お前、本当は最初から聞こえておるのじゃろう……)
水琴の事で頭が一杯になっている日和に呆れたディユンはもう付き合い切れないと言わんばかりの表情をして日和の中に入っていった。
(何をやろうが日和の勝手じゃが、幼馴染の所に行かんでも良いのか?)
はっとしたように立ち止まった日和は急に何かを考え始めた。
(そうだったなぁ……水琴と会えた事に浮かれ過ぎてて、すっかり忘れてしまっていた。こっちも大事だけど木乃葉とは約束だからな……)
携帯を取り出し時間を確認すると
(まだ全然、昼までは時間があるから少しというか……かなり名残り惜しいが食べ終わったらすぐに向かうしかないな)
(……もし幼馴染の家に行く用事が無かったならば食べ終わった後に何をしようと考えておったのじゃ……いや、考えるだけでもおぞましいのう)
急に立ち止まり独り言をブツブツ言い始めた日和を不思議そうに見ていた水琴が
「あの……どうしたのです? もしかして何か用事があったのでは無いのです?」
気を使われた言葉で日和は我に戻ると
「あぁ、いや、何も無いよ。ちょっと急に青色発光ダイオードの仕組みを思い付いちゃってねぇ。ついつい考え込んでしまった」
(何をつまらん事を……懐中電灯の仕組みすらも分かっておらん癖に)
水琴は更に不思議そうな感じで
「あおいろ……? だいおー……? ……何か難しいのです」
「大丈夫だよ。もう終わったから、さぁ行こうか!」
上手く誤魔化したつもりの日和だったが、水琴の日和に対しての印象は
(やっぱり日和さんって何を考えてるのかさっぱり分からないのです。悪い人では無いのです……悪い人では……だけど九割くらい理解出来ないのです)
この世の中に日和の事を完全に理解出来る人間など居るのだろうかと同じタイミングで疑問を抱いた水琴とディユンだった。




