テイカ視点
ココに押し込まれてどれほどだろうか。
たまに様子を見に来る看守は気が触れているようで奇声を上げながら去っていく。
「…おや、看守殿以外では初めてのお客さんだ」
時折様子を伺うような静かな足音に伏せていた頭を上げた。
この虚空で自分の事を守るために展開していたモノに目の前の少女が身体を震わせているのが分かった。この少女からは私のことが真っ黒な闇にいるように見えているからだろう。
「怯えずとも…この子達は私の力だ。…君は…」
「…私はイゼリア…貴方はテイカ殿?」
イゼリア。
…どこかで聞いたことのある…ような?
「ふふ、そうだよ?」
久々に呼ばれた自分の名前に心の底でホッとする。
平気だと思ってたけど、自分の精神的にはキツかったんだなぁと他人事のように思う。
返事を返した事でイゼリアという少女が安心したように息をついたのが分かった。
「テイカ殿、お下がりを。門を開けます」
一息ついてイゼリアが凛とした声で言う。
久々に部屋から出ると傍にもう1人男の子がいることに気付いた。
ヒンヤリとした敵意を感じる。
「助かったよ、ありがとう」
「いえいえ御礼ならばイオリに」
ふわりと微笑むイゼリアは本心からそう思ってるようで驚く。
この虚空に来るのは、かなりの決意が必要だ。
なのに何も俺に要求しないなんて…
「随分謙虚な方だね…あの方とは大違いだ」
俺をココに入れたあの人ならば、笑いながら様々な要求をしてきただろう。
…見た目は美しかったんだけどねぇ…。
物思いに耽っているとイゼリアが誰かに連絡をとったのが分かった。
待っている間今までのことを話した。
この国はどこか閉鎖的で、魔力が高いだけで化け物扱いされること。
俺がどの国でも忌まわしいとされる闇魔法に特化しているということを。
幼い時から化け物扱いされ、時には殺されかけて俺の人間らしい感情はどこか鈍い。きっとそうしなきゃとっくに狂ってたんだろう。
それでも俺の感情がまだあるのは傍にイオリが居たからだ。
泣きそうなくらい顔を歪めるイゼリアにどこかが暖かくなる気がした。
「…そんな顔しないで、俺にはイオリが居たから」
これが嬉しいって感情なのかな?
イオリといる時もたまにこんな気持ちになったなと思いながら自分より幾分小さなイゼリアの髪を撫でる。
「姉様、イオリが来ます」
そこでこの少年がイゼリアと兄弟だということを知った。…余り内面は似てないようだ。
暫くして空間を歪ます振動が伝わり、裂けた空間の隙間からイオリが泣きながら俺に抱きついて来た。
「テイカ……っ良く、よく無事で…!!」
「イオリ…ごめんね、助かったよ」
思えば幼い頃からお互い迫害されてきたから、ここまで長く離れた事はあまり無かった。
きっと不安だったんだろう。
少し身体も細くなってるようだし、薄いとはいえ目の下も隈ができていた。
「…本当に大事な友人なのね」
「…イゼリア…お前イオリが暴走してる間丸投げってどうなんだ…」
イオリと一緒に出てきた青年は…大分疲れてた。
ごめんね。イオリってば猪突猛進な子だから制御不能だっただろうに…。
「ふふ、お疲れ様…あぁ早く此処から出ないと」
俺を守ってくれる闇がざわざわとざわめく。
そろそろこの空間が牙を向いてくる頃だ。




