虚空の異常
少し遠回りして通常通りの転移門を見つけた。
「…やっぱりさっきのは異常だったのね」
柔らかな夕陽色に輝く転移門を見て、この先が危険だろうと直感する。
「…テイカは無事だろうか」
イオリが顔を歪ませてつぶやく。
「転移門が歪む程の異常が起きてるんだ…覚悟してた方が良いよ」
中の魔力の渦巻きはギルが顔を顰めるほど、強いものらしい。
私達は夕陽色の中に足を踏み入れた。
***
「ぅぐ…っ!!」
入った瞬間、怨念めいた強い感情に侵されギルが膝を着いて咳き込む。
…予想以上に狂った空間らしい。
真っ白な空間のハズの虚空が暗く汚い。
人を収監する部屋も、縦は人が腰を屈んで漸く入れる程度で、横は身体を丸めて漸く寝れるか…ってところだろうか。
「ギル、魔法で防壁を作った方が良いわ…」
「…そうします」
劣悪って言葉では纏められない環境。
虚空では人が死ねば虚空に吸収されて消えるから遺体を片す必要がない。
…つまり供養もされない。
だけど普通は虚空で死ぬ場合、殆どが狂い思考力もマトモにない状態だ。
意思もないため、このような怨念めいた暗い感情など虚空に存在するはずも無い。
…って言うことはだ。
この国の虚空は…意思もある、狂ってない人間をそのまま殺してしまう…という事だろう。
まぁ碌に食べるものもなく、こんな所に入れられたらすぐ死んでしまうだろうけど…。
「…テイカ…っ!!テイカどこだ!!助けに来たぞ!!」
イオリが虚空の中の空気に慣れたようで、虚空の無数にある部屋を手当たり次第に覗く。
私たちも早目に出たい為、イオリにテイカ殿の容姿を教わって探す。
テイカ殿は薄い茶の髪に薄赤の目の持ち主でパッと見女性に見えるほど優美な見た目の男性らしい。
闇魔法に特化しているらしく、この状況でも恐らく平気だろうとイオリは言っていた。
「闇魔法特化など…珍しいですね」
確かに珍しい。
闇魔法は精神状態に悪い影響を与える副作用が多い魔法が多く余り好かれない属性だ。
「…精神状態が余程安定しているか…ぶっ飛んでいるか二択になるわね」
覗く部屋は排泄物も処理されぬほど醜悪で、部屋の中の人はブツブツと怨嗟の言葉を吐いている。
…我が国の虚空と違いすぎて戸惑うばかり。
しかもイオリ曰く殆どが冤罪の方が多いらしい。
…私の父親入れた方が良いのでは。
そんな事を考えながら歩んでいた時だ。
「…おや、看守殿以外では初めてのお客さんだ」
穏やかな声が聞こえた。
その部屋は特に黒く蠢くような…見ただけで後ずさった程の怨念に包まれていた。
「怯えずとも…この子達は私の力だ。…君は…」
「…私はイゼリア…貴方はテイカ殿?」
見た目が黒過ぎて分からないとは予想外。
「ふふ、そうだよ?」
…これは精神状態が安定してる人…って考えで良いのだろうか…。




