裁きの時です3
「…さて、オルシア家の存続だが…」
父親が貴族籍を抜けた今、オルシア家は風前の灯だ。新しい当主を決めなければ存続すら危うい。
ただ母親は恐らく当主には成り得ない。
何故なら女性の当主など、この国には2人と居ない。…最後に女性当主が居たのは100年以上前だ。
「親に罪あれど子に罪はない。よってイゼリア、お前が新しい当主になりオルシア家を変えよ」
…えっ?
…まじか。母親通り越して私に回ってきたよ。
「お言葉ですが陛下、女の身で当主の座に座るのは些か問題が…」
「問題ない。お前ならば良いと臣下も納得済だ」
周囲の目を気にして陛下呼びにして常識を言ってみるが伯父様はまさかの説得済みでした。
そもそも継ぐのならば嫡男で、長男のギルが居るでしょう。
「…俺は姉様に従いたいのです。姉様が当主になれば悪の大家は滅びるでしょう?」
…あ、なるほど。
ギルが継ぐ気ないわけですね。
…ギル、伯父様とこの件について話したのね?
「民を愛し民に愛され、悪を許さず…罪を犯したならば父親でも惑わずに処罰出来るお前はオルシア家にしてオルシア家らしくない。新しい当主には十分相応しい」
その言葉に私は周囲を見回した。
少しでもその言葉に納得していない人がいるなら継ぐ気は無かった。
正直平民になった方がフラグも折れるし、気楽だからだ。悪意も感じなくて済むし暗殺の危機だって少ない。…ギルやヒューリを連れて田舎のこじんまりした所で過ごすのも楽しそうだ。
当主など親戚筋から適当に決めたらいい。
だけど、見回した人達は皆、優しげに微笑んで私を見た。…今まで私は、ここに居る人達にオルシア家の姫としか見られていなかった。
王宮に初めて来た時は、凍りつくほどの悪意と憎悪を感じていた。
…いつからだろう。
悪意を感じなくなったのは。
…いつだっただろう。
王宮の人達が柔らかく笑って話し掛けてくれるようになったのは。
「…イゼリア、頼めるか」
…私が悪役令嬢って分かってから少しでも足掻いた事がやっと認められたと、肩の力を抜いていいってそう思えたのは。
…そうだ。ずっとずっと前から皆私に協力してくれてたじゃないか。
一人じゃ何も変えられやしなかっただろう。
私が分からないふりしていただけで、皆オルシア家の子供としてではなくイゼリア(私個人)として見てくれてたんだ。
「…分かりましたわ…陛下の期待を裏切らぬようにオルシア家を変えてみせます」
声が上擦る。
視界が揺らぐ。
涙は零さないように私は必死に目に力を込めた。




