カティナ視点3
…おかしいなぁ。原作だと弟ってここまで魔法強くなかったと思うんだけど。
中空に浮かびながら私はまた魔法を放つ。
「ねぇいい加減諦めたらぁ?君じゃ私には勝てないと思うよ?」
今まで私が出した魔法は雷魔法と弟が苦手な属性魔法の大技の連発だ。
それでも私の魔力はまだ有り余る。
そう。原作なら弟はとっくに倒れてておかしくない。……私に手傷を負わせる事も有り得ないのだ。
私は手の甲の血をぺろりと舐めた。
眼下に見える弟は元々万全の状態ってわけでも無かった。夜目でも分かるほど瞳が赤く、魔力も普段の半分くらいしか無かった。
「…まだです!!俺は…!!」
「君が頑張ったって私には負ける。負けたらお姉様から捨てられると思ってるから頑張るの?」
白いシャツはとっくに血に濡れてあちこちズタズタに裂けている。
魔力もそろそろ尽きてしまうだろう。
なのにどうして諦めないの?
私の言った言葉に弟は口に溜まった血を吐くと睨み付けるように言った。
瞳が鮮やかなまでに金に染まる。
「姉様はそんなことしない。俺は貴女には惑わされないよ。…どれだけ俺が姉様に愛されてきたか貴女は知らない癖に」
知らない。
私は一人称が俺だった弟しか知らない。信用してる人に捨てられるのがトラウマで姉を死ぬほど憎んでるって事しか。
姉を慕って犬みたいな性格してる弟なんか知らない。弟はあんな強い精神してなかった。
そもそもこのゲームは精神的に脆いヒーローを支える事が楽しいのだ。
「…そう、ならアンタなんか要らない」
飛びっきりの雷魔法を辺り一帯に掛けた。これならもう避けようがないでしょ?
私の思い通りにならないなら要らない。
それに早く帰らなきゃぜーんぶバレてしまう。
まだバレる訳には行かないんだよね。
悪役令嬢もいたぶり足りないし。
さっきからあちらこちらに掛けた魔法が地味に消えていくのが分かる。
魔力が足りなくなったのかしら。
原作にない事態を創り出したのは私。
なのにどうして私が計画した通りにこの世界は動かないのよ。
「…この世界はゲームじゃない…ね」
悪役令嬢に言われた一言が私の記憶の端に蘇る。
「馬鹿なんじゃないの?そもそも悪役令嬢が悪役令嬢らしく動かないからこんな事態になったんじゃない。転生したんなら仕事をしなさいよ」
空間転移は魔力を無駄に食らう。
私はテレポートを使って屋敷に戻った。




