原作開始……?です!!7
屋敷の奥へ漸く辿りついた。
おかしい。確かにこの部屋が最後の一室なのにヒューリが居ない。それどころかレオも…2人とも居ないのだ。
どういうことと悩んでいたその時だった。
「きゃあっ!?」
背中に強い衝撃を感じた私は床に思いっきり叩きつけられたのは。
「…う、げほっごほっ」
息が詰まって一瞬呼吸が出来なかった。
咳き込んですぐに立ち上がる事も出来ない私の目前に人が立つ。
そして私の髪を乱雑に掴んだ。
「…侵入してきたのは従者だけじゃなかったのねぇ、まぁ都合が良いわ…悪役令嬢様?」
忘れもしない優しげな声にこの空間(異常なほどの魔法…いやもう呪いに近い)をものともしないその少女は荒廃した屋敷に似合わない白のドレスを身に纏っていた。
「やっぱり貴女も…だったのカティナ様…」
琥珀色の瞳が闇に光る。
「ねぇ貴女がちゃーんと仕事してくれないから私が仕事をするハメになったのよ?だから今の貴女の状態はその償いって訳…聞いてる?」
カティナは一言一言ごとに私の身体を蹴ってくる。
狂気を感じるその瞳はヒロインらしくないほど鋭い。
魔力が空なせいで身体が重い。更にこの部屋に掛かった魔法は重力を操作するやつみたいで動けないなんてものじゃない。
「そんな…事知らない、!!この世界はゲームじゃないのよ…っ!!」
「ゲームでしょ?じゃなかったら皆存在しないもの。プレーヤーの思い通りにならないなら、なるように改良すればいい」
…どうしよう。
私はこの人ときっと一生分かり合えない。
こんな人がどうしてヒロインに生まれ変わったの。
カティナの可愛らしいその容姿がまるで悪魔みたいになるぐらい彼女は狂ったように笑う。
「貴女転生者なんでしょ?お気にいりは誰なの?騎士隊長?ふふっ…アハハハっ渡さないけどね」
アレから蹴るのも飽きたのか何度か風魔法を私にぶつけた後カティナは何かに気づいたかのように別の方向を見た。
「ちっ…誰なのぉ?余計な事を」
舌打ちをして悪態をついたカティナは現れた時のように姿をその場から消した。
「…テレポートじゃ、ないわね…空間転移か」
なるほど通りで感知できない訳だ。
彼女も転生者ならこの世界の事は知り尽くしててもおかしくない。
ビリビリに裂けたドレスを引き摺って私は部屋を出ようとした時だった。
「!?…髪紐が…」
私の髪を束ねていた紐が部屋の向こうへと引っ張ってくる。
それはヒューリとお揃いにした髪紐だった。
転移に使ったアレ以来使用することは無かったが…そういえばコレには二人を繋ぐように魔法が掛かっている。おまじないのような可愛らしいものだけれど。
でも向こうってもそれ以上は壁しか…
「…え、通って…る?」
どうやらこの壁はまやかしのようで。
でも視認してしまえば壁となって道を阻む有幻覚みたいなものらしい。
私はこの先にヒューリが居ると分かり瞳を閉じた。
視認してしまうと壁になってしまうなら見なければ原理的には通れる筈だ。
私は目を閉じたままその壁へと走った。




