レオナード視点4
…どうしてあの男がここにいる。
剣技をいくら上達させようと身体をいくら鍛えようと俺は変わらなかったらしい。
あの頃と変わらず醜悪な見た目の男だ。
「くくっ久しぶりだなぁ…レオナードぉ。またお前で遊びにきたぞ?」
記憶と寸分違わない声が聞こえ、あの頃よりも歪んだ妄執を見せる男に身体が震えまともに機能しなくなっていく。
「あ…な、何故…っ!?」
辛うじて出た声は周囲に届かないほどか細くて。
後ずさって逃げる俺をいたぶるように男はゆっくり追い掛けてくる。
俺は目の前の男にしか意識を割いてなかった。
だから後ろに女が立っていた事に気付かなかったのだろう。
ぐるりと視界をレースの付いた服の袖で覆われる。
「ふふっ隙だらけ。つーかまえたぁ」
「ん!?む……っ!?」
首に何かが刺さったと思った時には俺の意識は無くなっていた。
***
次に目が覚めたときは身体が動かなかった。
縄が身体中に食い込んでいる。
「ぐ…っ!?ぁ、あああああ!?」
まるで人間らしくない獣のような声。
どこか冷静に俺は自分があげた声とは思えない…と思った。
「ぐふふっ相も変わらずイイ具合だなぁ?レオナードぉ?お前も気持ちいいんだろう?」
何よりも消したい記憶と重なる。
無遠慮に伸ばされる手は好き勝手に俺の身体を触る。俺よりも体温の高いその手が絶望的なほど嫌悪感をもたらす。
その日俺は声が枯れるまで泣き叫んでも解放されなかったせいなのか気を失った後もずっとその記憶が俺を苛んだ。
起きてる間も、寝ていても記憶が蘇る。
寝ることが怖くなってもあの男は憔悴する俺を見ると興奮するようで関係なく俺で遊ぶ。
女は高みの見物を決め込んでいるようでいつも見ているだけだった。
…誰か助けてくれと願う。
イゼリア
脳裏にふと浮かんだのは辛い時には必ず傍に居てくれた少女だった。
だがこんな風にされているところなど見られたくない。それに騎士隊長が女に助けを求めるなんて醜聞以外の何物でもないな…。
それでも壊れそうな精神状態をまだ保てているのは最悪の記憶の中にイゼリア(好きな人)が居るからだろう。
まだ耐えられる。
どうにかして逃げてまた会うんだ。
記憶の中のイゼリアが微笑む。