レオナード視点3
最初はイゼリアと違って可愛らしい守って差し上げねばという雰囲気の王女だと思った。
近衛騎士団の隊長として国の賓客を護衛するのは名誉な事だ。
だが王女はその愛らしい容姿に似合わず俺を囲いたいと思ったらしい。
学ぶべき王の話や民の生活などにも耳を傾けず、俺に対して横柄な命令をするようになった。
「貴方は私のおもちゃになればいいのよ」
胸元を滑る手が情欲に塗れている。
瞳が欲に濡れて俺を欲するかのように見る。
「貴女は一国の王女でしょう。なれば清くあるべきです。俺などに気を取られませんよう」
昔の忌まわしい記憶を思い出させるから性に関わる事など避けていた。
やめてくれ。
俺に触らないでくれ。
気持ち悪いと身体が拒否反応を起こす前に脳が拒否反応を起こしたようで俺は無意識のうちに姫の手を払っていた。
「…私を拒絶する権利なんて貴方にあると思って!?良いわ貴方は男に襲わせる。女子のように鳴かされて、絶望すればいいわ!!」
払った手を姫は押さえると癇癪を起こしたように俺に言い放つ。
男に襲わせる…?何故、そんな事を知っているんだ。誰にも…イゼリアにも断片的にしか話していないのに。
「貴方みたいな人はとっても犯しがいあるんですってね。そのプライドを折ってボロボロになればいいわ。貴方の大事な人をそういう風にしてもいい」
昏い笑みを浮かべながら姫は言った。
俺の大事な人などこの姫が知るはずもない。
だが知ればどうなる。
様子のおかしい俺とまともに勉強しない姫に護衛を入れ替えると王から話が出て、俺はそれからずっと、剣を振っていた。
なにかしていないと身体が震えるのだ。
誰に相談出来るという?男に犯された事がトラウマで姫にそうすると脅されたなどと。
オルシア家の罠にハメられた部下ですら、そんな目には会ってないというのに。
ソレが原因で部下や同僚にそういう目で見られるのが嫌だった。
そんな時だった。
「…レオ、ねぇ少し休まない?」
闇に差し込んだ光みたいに、柔らかな声が掛かったのは。
「イゼリア……?」
…ああ本当にどうして。
こんなにどうしようもなく救いが欲しい時都合よく貴女は現れるのか。
「何があったの!?どうしてこんなに…!!?」
様子の違う俺に心底驚いたみたいでイゼリアが俺に駆け寄ってくる。
「…カティナ王女が…俺を気に入ったと。…目があの男のようで、俺に触れた手があの時みたいに情欲に塗れていて振り払ったら…」
馬鹿みたいに怯える身体を。
忌まわしい記憶がフラッシュバックする頭を。
どうしても救いが欲しい俺はイゼリアが逃げないように腕を掴んだ。
「俺を男に売ると…カティナ王女が…何故、何故知って…イゼリア…」
「…私は今日初めて関わったのよ?何も言ってないし、そんなこと言うはずもない」
イゼリアは俺が疑っていると思ってるみたいで、掴んでいないもう一つの手で頭を撫でてきた。
「分かってる。…だからもう少し離れないで傍に居てくれ…」
情けない懇願をする俺。
イゼリアには恰好いい所を見て欲しいのに気付けばいつもこんな所ばかり見られている。強張った身体から余計な力が抜けていくのが分かる。
「大丈夫。レオ傍にいるわ」
髪を撫でる指に眠気が襲う。
暫く寝食忘れて剣を振っていたからだろうか。
「…眠たいなら寝ても良いのよ?」
「起きた時、貴方が居ないのは…耐えられない」
「ならレオが起きるまで傍に居るわ。だから今は眠って?」
柔らかい甘やかす声に意識が引っ張られる。
俺は…
本当は貴女を俺のものにしたい
公然と貴女を抱き締める事が出来たなら。
意識が消える直前、俺はイゼリアの手を離さないと言わんばかりに握り締めた。




