イゼリアの父視点
俺はこの国の王妃から生まれた第二王子だった。
そして生まれた時から母上はお優しく、好きな物だけを食べ、遣りたくない事はやらなくて良い。お前は正統な後継者なのだからと甘やかされて育った。
だが、そんな俺の邪魔ばかりするのが側室から生まれた兄上だった。
兄上はこの俺よりも評価が高く、周囲から麒麟児と呼ばれていた。そして俺が惚れた女はみな兄上に夢中になった。俺はそんな兄上が恐ろしかった。全てが完璧に出来る…などタダの化物だろう。
***
ある日俺は一人の女を犯した。女は俺が惚れた女だったが詰まらぬ男を選び俺を選ばなかったのだ。
怒りに任せて俺は女を押し倒し、痛みに泣く女を殴って黙らせ碌に慣らしもせずに突っ込んだ。
その時に初めて得た暗い快楽は俺を虜にした。
幸い全ての問題は母上がどうにかしてくれる。
綺麗な者が泣き喚き、血に塗れ、許しを請うてくる姿はゾクゾクするほど快感だった。
そんな俺を兄上は見下し、嘲笑うかのように王家の後継者となった。
側室に負けた事になった母上は発狂。部屋から出てくる事は無くなり、たまに出てきても幽鬼のようにフラフラと目だけは血走らせていた。
そして俺以外はまともに訪れなくなった離宮で母上はひっそりと息を引き取った。
母上の喪が開け、俺が後ろ盾を無くしたのだと理解した頃だった。
俺がオルシア家に婿養子に入る事になったのは。
父上は俺に対し、この家ならばお前に相応しいと太鼓判を押してただけあってオルシア家には権力があった。
ただし妻になった女は俺の好みではなかった。だから子を産ませるという義務が済んだ後はお互いが愛人を連れ込むという事にしたのだ。
そうやって生まれたのが俺の娘でもあるイゼリアだった。娘は俺や妻に似ずに鶏ガラのように細く不健康なほど青白かった。
大きな目には理知が宿り、俺にはどこか不気味なほど得体の知れない者に見えた。
そうだ。アレは俺を見下している目だ。雰囲気や目が兄上そっくりな娘。可愛がれるはずも無かった。
その癖魔力素養は低く利用する事も出来ない。
使えぬ娘だと思いながら、その年に見合わない冷ややかな目を俺は恐れていた。
この国で俺は最も媚を売られる立場だろう。
娘は俺に対し従順でなければ要らぬ。魔力素養が無く、道具よりも使えない愚かな娘ではなかったのか。
いつからあんな威圧を向けてくるようになった。
イゼリアは兄上と同じく俺の邪魔ばかりする。ヒューリの時もそうだ。使用人の一人や2人壊しても変わりはいるだろうになぜ怒られねばならん。
屋敷からも出せぬよう強固な防壁が築かれた。
本当にイゼリアの事は理解が出来ない。俺と血が繋がっているのだろうか。恐ろしい娘だ。