アルフォンス視点
俺がこの国の王子として生まれたのは望まれてのはずだった。国王のたった一人の子供で息子だった俺には愛された反面、暗殺の危機も多かった。
誰も言葉には出さないが王宮内では叔父上が犯人なのだと囁かれていた。
尻尾の掴めない暗殺未遂事件は近衛騎士団の者を苛立たせ、父上も良く疲れた顔をしていた
そして父上は俺を見捨てられたのか俺に関する全ての事に無関心になった。母上は昔から変わらなく俺を愛してくれているが父上は俺のことが嫌いになってしまったのだろう。
王宮の使用人は素知らぬ振りをしているが継承権の危うい俺を徐々に軽んじるようになった。
広く冷たく感じる部屋で俺は自分の事は自分で出来るようになるまで、時間は掛からなかった。
そんな無為な日々を過ごしていた時だった。
件の叔父上の娘であるイゼリアがやって来たのは。
「会うのは久しぶりだな。イゼリア…」
イゼリアの叔父夫婦に全く似ていないその容姿は衰える事無く寧ろさらに美しくなっていた。
「ええ、お久しぶりですアルフォンス様」
年頃の少女らしい甘やかな声が清廉なものになっていた事に驚いた。そんなイゼリアの後ろには少年が2人控えている。
「しかし王宮でも忘れ去られている俺に会いに来るなど……目的はなんだ?」
「そう自分を卑下しないでください。貴方は王位継承者でしょう?それに目的などありませんわ。単純に従兄弟に会いに来ただけですもの」
この王宮で俺に話しかける者は何か目的があるものしか居ない。
だから少し怒ったようにイゼリアがそう言ってくれた事は嬉しかった。
「…そうなのか、だとしたら嬉しいな。ここでは目的なく俺に話してくれる者は居ないから」
空気が緩くなってしまう。
するとイゼリアの後ろに立っていた少年が前に出て来て頭を下げた。
「アルフォンス様、僕はギルバートです!!ギルって呼んでください」
イゼリアよりどこか冷たい空気を感じたがギルは明るく俺に話しかけてくれた。
もう一人の少年は従者なので…と身分を気にしてか自分からは名乗らずイゼリアから紹介された。
「アルでいいよ。様はつけなくていい。ギル、ヒューリと呼んでいい?」
何か飲みながら話したいと大分上手く淹れられるようになった紅茶を淹れつつ話を進める。
ギルもヒューリも最初は緊張してか言葉少なく会話も弾まなかったがイゼリアが上手く話を弾ませてくれたおかげで暫くすると2人も普通に話してくれるようになった。
「イゼリアは昔会った時より雰囲気が柔らかくなったな…ギルとヒューリのおかげだろうか」
昔会った時は無邪気で甘えたい盛りだったからか可愛らしい我が儘も言っていたのだが。
今日会ったイゼリアはすっかり大人の女性のようになっていた。
(またいつか、四人で話したいものだな)
広く冷たく感じた部屋が仄かに暖かく感じる。
今日は良く眠れそうだな…と思いながら俺はベットに入った。




