エリオット視点
昔から俺の両親は馬鹿みたいに仲が良かった。
政略結婚だったのに父上と母上は一目惚れして相性がとっても良かったらしい。
だから俺も婚約者に会って両親みたいな、そんな結婚生活を送ってみたいと思った。
幸いにして挨拶の時に見た婚約者のイゼリアは一瞬息を吸うのも忘れてしまうくらい可愛らしい子だったから話していけば仲良くなれるだろうと思っていた。
なのにイゼリアは俺と関わりたくないとばかりに俺とは会ってくれなくなった。
関わらないなら別の子にすればいいと思わなくも無かったが昔会った時の彼女は無邪気で俺の事を嫌ってはいないようだったから、どうしても気になって婚約破棄が出来なかった。
そんな苛立ちを発散しようと外へ出てみれば近衛騎士団隊長補佐であるレオナード殿がイゼリアの話をしていた。いつも張り付けたような笑顔の彼が本当に嬉しそうに微笑うのを見てイゼリアはやはり俺にだけ会ってくれないのかと苛立ちを隠せなくなった頃だ。
父上がイゼリアからの手紙を持って俺の部屋に訪れたのは。
そこには年頃の女の子らしくないほど流麗な字で長い間会えなかったお詫びと今度会って紹介をしたい人が居るという事(その時俺はなんとなく女の子だと思っていた)が書いてあった。
***
そして久々に会うイゼリアは腰にまで届く艶やかな黒髪に宵闇の猫のような黒目に白磁の肌。
可愛らしかった少女は驚くほど綺麗になっていた。後ろにイゼリアと似た色彩の少年とイゼリアより幾つか年上の少年が居た。
「やぁ久しぶり、イゼリア。後ろの方々は誰だい?紹介を頼みたいんだが」
……まさか久しぶりに会ったイゼリアは間男の紹介をするというのだろうか。
そんなこと許せる訳がないが
「お久しぶりですわ。エリオット様…異母弟のギルバートと従者のヒューリです」
ピリピリと空気が荒れ、弟のギルバートと従者のヒューリが少し警戒体制に入ったのが分かる
そんな中、イゼリアは何事も無いかのように微笑いながら紹介をする。
「…そう、弟はまだいいけど何故従者を連れてきたのかと思えば隷属の契約をしてるからなんだね」
良く見ればイゼリアの華奢な手首に小振りながら細工すれば最高級の宝石になるだろう珠玉が止まっている
鮮やかなその緋色は濁りなど欠片もないほど透き通っていて後ろにいるヒューリの瞳と同じ色をしている。そのヒューリの首にも紋があり無理矢理契約をした訳ではないのがよく分かった。
「だが久しぶりの逢瀬だ。弟君と従者君には隣室に行ってもらえないかい?」
まぁ家族を紹介するなら分かるがこの家で護衛は必要ない。
そう思っているのが分かったのかイゼリアは隣室に二人を移した。
「それで二人を私から遠ざけてするお話って何かしら?エリオ…ット…?」
部屋に戻ってきたイゼリアは本当に分からないようで小首を傾げながら俺に聞いてくる。
美しく育って、だけどイゼリアは男の感情を知らないで育ったことが分かった。
あの二人はイゼリアが大切なのだろう。箱にいれるようにして守りを固めているようだ。
「イゼリア、巫山戯ているの?なんで俺とずっと会ってくれなかったの」
「ちょ、ちょっと…!?エリオット!?」
そんなイゼリアを逃がさないように腕で囲うようにすれば戸惑ったように俺を呼ぶイゼリア。
闇夜より黒いその瞳が俺を写している。
今だけはイゼリアは俺の事だけを考えてくれているんだろうか。
「……俺はずっとイゼリアを見てなかったのに本来君と関わりの無い騎士団所属の者ですら君を知ってる。君とずっと一緒に居た弟君と従者君ですら憎いよ」
初めて会ってから奪われた心はずっとイゼリアを求め続けている。
美しく育ったイゼリアは周囲の男の視線をさぞ奪う事だろう。イゼリアが望めば大概の男は言う事を聞くはずだ。
「俺以外の名前を呼ばないで。俺以外を見ないで、イゼリア」
だからこそ俺は願うのだ。
俺が狂ってしまう前にイゼリアが俺だけを見てくれる事を。