七
*
「「お帰りなさいませ」」
この屋敷にいる者全員でその人物を迎える。それは、彼女がこの一族の当主であるがためであった。
頭を下げた人々の中を、少女は颯爽と歩く。白銀の長い髪が、風に揺られ月夜に輝いていた。同じく白銀の髪を持つ者たちの道を抜け屋敷に入ったところで、ひとりの少年が彼女の元に歩み寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
少年も同じように頭を下げる。十五ほどの、これまた白銀の少年。顔を上げさせて、彼女はその少年を引き連れ自室へと入った。途端に褥に倒れこむ。一息ついたところで、少年が茶器を持って彼女の元にやって来た。
「お疲れ様でございます」
淹れたての茶を少女に差し出す。甘い香りが彼女の鼻腔を掠めた。
「ありがとう。良い匂いだわ」
彼女が少年に微笑む。褒められ、少年は少し頬を赤らめた。
「……大層お疲れのご様子。本日はどのようなご用件だったのですか?」
少年はおずおずと口を開く。彼女は茶を一口飲み、少年を視た。【巫】。彼女の目に映るのは、魂の名前。それは、少年の【真名】。彼女は、それを視ることができる数少ない存在であった。
「やっと、よ」
「……え?」
彼女がポツリ呟いた。言いたいことがわからず、少年が首を傾げる。
「やっと、新しい王を迎えることが出来るわ」
他でもない、彼女が見出したのだから。
「では……」
「これから、忙しくなるわね」
一族を挙げて儀式の準備に取り掛からねばなるまい。しかし、その忙しさは彼女にとってとても喜ばしく幸せなものだ。思わず顔が笑みを湛える。全身から気持ちが溢れ出すようだった。それを見た少年もつられて微笑む。
彼女は障子戸を開けた。目に飛び込んできたのは、燦爛と輝く月の光。今宵は、満月だ。それら全てが目出度いことだった。
「……総ては、龍王國のために」
彼女はこれからのことに胸を躍らせ、暫くその月を眺めていた。