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じき、宣言なされましょう。今年は貴方様の成人の儀があるのですから」


「おれは、成人なんて嫌だよ」


「何を仰いますか。シンリ様の【真名】を皆も今か今かと待ち望んでおります」


 この国の子供は、皆十六歳になると成人の儀を行う。成人の儀をして初めて一人前の大人と見なされるのであった。そして、その成人に必要なのが、【真名】。


「【龍】はゲン兄だよ。おれじゃない」


 書物をギュッと握りしめ、シンリは僅かに顔を歪める。


「ゲンリ様だと仰る方も多いですが、シンリ様だと仰る方も同じ程多く居られます。利知きくち様はシンリ様であると仰っておられますよ」


「違う、おれじゃない。おれは、嫌だ」


「シンリ様……」


 モトイはシンリの拒否に視線を落とした。

 現在次期王ではないかと囁かれている有力候補は二人。王の第一子である第一皇子と、この末皇子であった。小さな両肩に、多くの期待が掛っている。それは、とてつもない重荷であろう。途端にモトイにはこの少年がいたく儚い存在に見えた。


(しかし、王は未だに宣言していらっしゃらない。これは、貴方様の成人を待っておられるのではないのですか……?)


 モトイは四阿あずまやの外を見た。もうじき日が暮れる。いつもより多く着込んでいるにもかかわらず冷たい北風に身震いし、慌ててシンリを宮廷の中に促した。吐く息が白い。よくこのような冬の寒空の下、四阿に居座っていたものだ。感心してそのことをシンリに言うと、寒さに気付かなかったとの答えが返ってきた。この皇子は余程書物と冬の張り詰めた空気が好きらしい。室に戻ったら火鉢を増やさねばと考えつつ、モトイはシンリと共に歩を進めた。


 なぜこんなにも次王の選定が注目されているのか。それは、王の容体が芳しくないからであった。昨年から、この国の王はやまいに侵されていた。療養中であり、長らく表には出て来ていない。近頃では寝たきりであることが多くなっていた。王の命数は長くないことはもはや周知。故に、次王の宣言が仰望されているのだ。


(王は何をお考えなのでしょう……?)


 なぜ病に侵されながらも未だに次王を宣言しないのか。モトイは王の意図を計り知ることが出来なかった。


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