三
「あはは。そんなに大事でもないでしょう? 今この国には王の子供なんて沢山いるんだから」
「確かに御子様は多くお生まれですが、それでも大事な御身には変わりありませんよ、シンリ殿下」
安穏としたシンリの物言いに、モトイはたまらずため息を吐いた。
彼が毎日の廟儀を休むのはいつもの事であるし、その立場を理解していないのも変わらない事。気が付くとどこかに消えているこの皇子にモトイは手を焼いていたが、それでも強く言えないのは、なんやかんやで彼を甘やかしている節があるのだろう。モトイはいつもきつく説教をと考えては、長らく実行できずにいた。
大きな大陸の東、海に面し緑に覆われたこの国の名を、龍王國と言う。文字通り龍の王とその血族が統べる国である。龍の王と言っても彼は人間、現在の龍王は多情であり、妻を沢山娶った。そのため子も多く生まれ、総勢十三名。シンリはその末、十三番目の御子であった。
「……父上も、早く次王を明かせばいいのに」
シンリが口を窄めぽつりと呟く。微かな音であったが、すぐ目の前に立っているモトイにはしっかりと聞こえていた。
この国の王は確かに王族から選ばれる世襲であるが、それを決めるのは王でもなければ官吏たちでもなかった。龍王國の王は、この国の守護神である龍――青龍が選定するのだ。龍はお伽噺の中だけの存在だと言う者も居るが、そうではない。実際にこの国を青龍が守護しているからこそ、龍王國は水の都と呼ばれる程水に恵まれた緑豊かな国でいるのだ。龍の選びし王が統治するからこそ、龍はこの国を見守り豊かにしてくれている。龍王はこの国の平和の要、神との契約の証であった。
しかし、皇子皇女が多くいるにもかかわらず、王は未だに次王を明かしてはいなかった。もう【巫女】が見定め、龍に選ばれし者が誰か判明しているであろうに。そのため、今この王宮は揺れに揺れていた。誰が次期王か、誰に付くのか、その予想で持ちきりである。