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 それは、雲に遮られる事無く、空が朧気に何色にも色付く、柔らかな陽光に包まれた冬の日。新たな年を迎え数日が経ち、尚も国全体が浮付いていたこの日、歓喜の声とは打って変わって何やら張り詰めた空気が漂うこの室内では、三人の人物が顔を揃えていた。沈みゆく太陽の淡い光でさえ戸を閉め切ることで遮り、わずかな蝋燭ろうそくの明かりだけが辺りを照らす室内は薄暗く、それぞれの表情ははっきりとは窺えない。調度品が整えられた室は風流で美しいが、どこか質素に見えた。


「……まことなのですか?」


 静寂を破ったのは、若いながらも貫録を持った男の声。その問いは、しとねに横たわる壮年の男に向けられていた。


「違えることなどない。彼女がそう断じている」


 寝ながらも威厳を醸し出す男の声が響く。まだ寝込むには若すぎるであろう、その旋律。彼が見やった先には、ひとりの少女が佇んでいた。暗闇でもぼんやりと映し出される銀の髪が目を引く、小柄な少女だ。彼女が頷く。それは、どこか誇らしげであった。


「命名の儀と共に戴冠を執り行う。本年の内に儀式の一切を終えるのだ」


 壮年の男は続ける。年若い男は以降俯き黙した。


「龍神が判じ、巫女が見定め、王は決定された。新たな王の元、宜しく頼むぞ」


「「はっ」」


 若い男と少女は声を揃え、そして頭を下げた。一人は、これからの出来事に胸を躍らせつつ大役に緊張感を持った顔で。もう一人は……全ての感情を喉の奥に呑み込みながらも滲み出る忌々しさに顔を歪めて。

 若い男は、話を終え閉じた戸の陰で歯を食いしばる。ギリッと、鈍い音がした。


 ――今思えば、これが全ての始まりだったのか。物語は、誰にも告げることなく、静かに、しかし確かに、廻りだした。



 さあ、龍が護りし国の歴史を始めようか。


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