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竜王の世紀  作者: 南木
序章:ようこそ竜王様
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チュートリアル:雷竜族長との『竜の戦い』

今期の一言:力といえども知性なくしては無に等しい――ナポレオン・ボナパルト


(よーしよーし、やっぱこういうのがいないとつまらないよね)


 竜王に対して敬意を全く示さず、反抗心をむき出しにしてくる雷竜族長レーダーに対しカズミは怒るどころかむしろ愉快そうだった。

 この世界に来てからというもの、無条件で一番偉い立場になってしまったせいで周りは殆どイエスマンばかり。別に心証を害するわけでもないし、歓迎されないよりかは大分ましだが、かといって無暗(むやみ)に持ち上げられたりするのも落ち着かなかった。それだけならまだいいが、中には自分のことを心の底から慕っていない者だっているかもしれないし、そういった者から陰でいろいろ言われるのはもっと嫌だ。

 なので、レーダーの様にわかりやすく反抗してくれるのは、カズミにとって逆にやりやすい。それに、せっかくだから自分の力を試してみたい。


 憑依したこの体、身長は前世よりわずかに大きい170センチ前後、対する相手は2メートル近い巨体を誇る大男。士官学校にいた時は自分より体格が圧倒的に大きい相手と格闘戦をすることは日常茶飯事だった。大丈夫、何も問題はない。



「はんっ、全然強そうにはみえねぇじゃねぇかこいつ、マジで竜王なのかよ?」

「レーダーさん! それ以上竜王様への侮辱は許せませんわ! 竜王様、お下がりください! ここは私が竜王様に代わって鉄槌という名の踵落しをくらわせますわ!」

「まあまあサーヤ、ここは僕に相手をさせてほしい。竜王たる者、これくらい笑って許せる度量くらいないとね」

「そーだそーだ、サーヤてめーなんて弱すぎて話にならねーからな! ザマぁwww」

「キーーッ! 表に出やがれですわーーっ!!」

「いやいや、もう表に出てると思うんだ。とにかくサーヤ、竜王命令だ、下がりなさい」

「むう、竜王様。遠慮はいりません、コテンパンにやっつけちゃってくださいませ」


 これ以上レーダーとサーヤを争わせても不毛なだけなので、さっさとサーヤをさがらせる。




 周囲の者たちが固唾をのんで見守る中、早速レーダーが攻撃を仕掛けてきた。



「くたばれええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 とても竜王に向かって吐くべきではない掛け声とともに繰り出されるストレートを、カズミは悠々と回避。ミス! カズミにはダメージを与えられなかった!


 回避されても気にすることもなく、レーダーはダンッと地面を蹴って高く跳躍すると拳をぐるっと振りかぶり、落下とともに振り下ろした。

 だがカズミは後ろに飛び難なく回避。拳は地面に当たると物凄い轟音を立てて、命中地点に小さなクレーターを生じさせた。



「これはまたとんでもない攻撃力だ。さすがは竜と言ったところか。だが当たらなければどうってことはないね」

「へん! 強がり言いやがって! すぐに当ててやるぜ!!」


(確かに無茶苦茶な威力だけど、動作は完全に人間のもの……。これなら何とか戦える)


 相手は人間ではなくあくまで竜族なので、竜族なりの戦闘方法があるのかどうかを見極めていたカズミ。しかし、レーダーの攻撃は威力こそ化物じみているが、技自体は稚拙。どんな強力な力も、操る技量がなければ意味がないのだ!


「レーダーキーーーーック!!」


 巨体を生かしたリーチの長いハイキックを繰り出すレーダー。だがこれはむしろ決定的な隙を生んだ。


「―――はっ!」


 ドスン!


「のわっ!?」


 素早い動きでレーダーの至近距離にもぐり、軸足を打つ! 一瞬大きくバランスを崩した隙に追撃! 止めに顔を薙ぎ払い地面に打ち付けようとする……が!

 右方向から何か質量のあるものが来ることを察知したカズミはとっさに身体を大きく反らす。レーダーの尻尾だ! 竜の尻尾は岩をも砕く危険な一撃……忘れていたわけではないが予想外だった。


「かなり、やる! だがこれならどうだああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 態勢を立て直したレーダーは、息を思い切り吸い込むと、口から高電圧の電撃をぶちまけてきた!


 バリバリピシャアアァァァン!


(ブレス!?)


 さすがにこの攻撃は予測してなかったカズミは、腕をクロスすることで若干防御の構えをとれたが避けることはできず、サンダーブレスの直撃を食らってしまう。

 レーダーの放つブレスの威力は絶大で、人間はおろか竜さえも直撃すればただでは済まない。実際この攻撃でカズミは体力の5分の1ほどを失う大ダメージを受け、防御姿勢のまま十メートルほど後方に押し戻されることになる。


 ブレスの直撃を見たサーヤは思わず顔面蒼白になった。


「竜王様!」

「……はふぅ、大丈夫だよサーヤ、ちょっと痺れただけだから。」

「はあーっはっはははは!! どおおおだあああ!! まいったかああああぁぁぁ!!」


 なんというか、強いには強いが……それ以上にどこかウザったい奴だ。カズミは心の中で、雷竜族族長の軽薄さに舌打ちした。


「……レーダー、君昨日何食べた?」

「は? 何食べたかって? 大蒜丸ごと100個くらいか?」

「そうか……どうりで……………ブレスがなんか臭いんだよ!!」

「うるせー! 何食おうが俺の勝手だろうが!」


 突然変なことでキレられて、その上で逆切れするレーダー。対するカズミは……


(レーダーにもできるくらいだから、僕だってたぶん……!)


 少し息を吸い込み、体の中に存在する『何か』を口から吐き出すような感じで…


「君には―――おしおきがひつようだ!!」



 シュバアアァァァァァァッ!!ズドォン!!


「ギャーーーーーーーー!!??」


 竜王カズミが口から放った漆黒色ブレス…。いや、ブレスというよりも光線あるいはビームといったほうが正しいかもしれない。

 広範囲に拡散したレーダーのブレスとは違い、標的に向かって一直線に放たれた収束ビームは寸分たがわずレーダーに直撃。それはそれはひどいダメージを与えた。



「まいった」


 ビーム攻撃で黒焦げになったレーダーは、降参の一言を言うとその場にもんどりを打って倒れた。


「流石は竜王様ですわ! あのレーダーさんすら一撃だなんて!」

「そうか、勝ったんだ。でも……ちょっとやりすぎたかな? 加減できなかったから、死んじゃったりしてないかな」

「大丈夫ですわ。殺しても死なないようなやつですもの。そのうちすぐにケロッと復活しますわ」

「そーゆーものなのかなぁ」


 誰も治療に行かないところを見ると、どうも本当に処置の必要はないらしいが、かといって族長相手にこの扱いはいかがなものか。それよりカズミは、今の戦闘で自分なりの問題点を考えてみる。


「はぁ、僕もまだまだ弱いな」

「へ? いえいえいえ! そのようなことはございませんわ! 竜族の中でも最強のレーダーさんを倒した竜王様こそ真の最強と呼べるのではないかと!」

「勝ち負けの問題じゃない。僕はまだ竜王の体の性能を生かし切れていないみたいだ。昔の竜王がどれくらい強かったかは分からないけど、今のままだとまだ弱いかなって」


 なんだかんだで、カズミは自分にとても厳しかった。竜の中でもここまで自分を律しようとするのは地竜くらいであり、火竜のサーヤにとって、強大な力を持ちながらもまだ足りないと納得のいかない様子を見せる竜王がとても不思議に思えた。



「竜王様! ご無事でございましたかー!」

「私がついていながら……申し訳ございません!」

「ん、ルントウにリノアン」

「あらあら、もう伝わりましたの? 早いですわね」


 騒ぎを聞きつけたのか、別室で待機していたはずのリノアンと宴会の準備に行っていたルントウが大急ぎで駆けつけてきた。いや、そればかりではなく…


「おや、もう終わってしまったのですか。さすがは竜王様、見事な早業です。もっとも、その早業をこの目で見れなかったのは残念でなりませんが」

「リヴァル、あなたの方はずいぶん遅かったのですわね」


 風竜族長リヴァルまで文字通り『飛んで』きた。この様子だと他の族長たちまで駆けつけてくるかもしれない。


「それでは竜王様、この無礼者のレーダーさんをどうしましょうか」

「黒焦げにまでしたんだからもう十分だよ。攻撃してきたことは、彼なりの挨拶だったってことで今回は特に咎めはしないから」

「なるほど、寛大なのですね竜王様は。しかしながらほかの竜たちが納得するかどうか」


 そんなこと言っている間に、背後から声がした。


「あー、いててて…ヒデー目にあったぜコンチクショウ。まさか本当に俺よりツエぇとはおもわんかった」

「って、もう復活したの!? 早っ!」


 リヴァル達とやり取りしている間に、黒焦げになって倒れていたレーダーが見事に体力全開で復活していた。呆れるほど生命力の高い竜である。


「いいだろう! 今日から俺はお前を竜王として認めてやるぜ! 戦争になったら遠慮なく使ってくれ!」

「そう。ならこれからよろしく―――」


 相変わらずでかい態度のレーダーだが、素直に言うことを聞いてくれるならそれでいい。が……


「レーダー貴様という奴は竜王様に向かっての無礼の数々! 許せん!」

「さあ! そこに土下座して許しを請うのですわ! やらないというのなら私が手伝って差し上げますわ!」

「どうやら今日という今日こそはちょーっときついお灸をすえなければね♪」

「傲りが過ぎたな。覚悟はできているか?」

「ちょっ!? おまっ、いてっ!? いてぇいてぇ……は、話せばわかる!」

「問答無用!」

「一度死んでそのバカ治せっ!」


 ボコッボコッ!


 各族長や周囲にいた竜族、さらにはルントウまでがレーダーを集団で袋叩きにしましたとさ。


「はいはい、みんな。僕はちっとも怒っていないからそれくらいにしなよ。それにレーダーだって攻めてくる敵から僕たちを守ってたんでしょ、その功績と今回の喧嘩はトントンってことで。許してあげなよ、ね」

「みなさん、竜王様の前で見苦しいですよ」

「……竜王様がそう仰せられるのでしたら。」

「よかったねレーダー君、優しい竜王様で」

「ちくしょう、お前らいつか丸呑みにしてやるからな」


 とりあえず目の前で起こっている集団リンチが見るに堪えないので、手をポンポンと叩いて止めに入る。リノアンも一緒になって止めてくれた。

 竜たちはまだ納得がいかなそうな顔をしながらも渋々とレーダーを解放する。


「初日から内輪もめとか勘弁してよ。これから力を合わせていかなきゃならないのにねぇ」

「申し訳ございませぬ竜王様、ただ我々は竜王様のことを思って……」

「あのねルントウ、僕のことを思ってという理由で簡単に他人をぼこぼこにするのは感心できないな。そんなことしたら竜王の名のもとに平気で暴力をふるう者が出てくるからね。そんなの嫌でしょ?」

「確かに、それは危険で御座いますなぁ」

「それにこの後宴会があるみたいだし、嫌な雰囲気のまま飲み交わすなんてことになりたくないから」

「何!? 宴会!? よっしゃー! 飲みまくるぜーーーーー!!」

「レーダー、ああは言ったけど君も少しは自重しようか」

「うっす……」


(こんなことで本当に大丈夫かな。まあ、結束はおいおい固めていけばいいさ。

レーダーだって非常識なところはあるけど、根は悪くなさそうだし)


 騒ぎが収まったところで、再び部屋に戻ろうとするカズミ。だが、直後まだ厄介なことが起きることになる。



「……………これは何の騒ぎじゃ、ルントシュテット」

「おお……これはこれは、大長老様ではありませぬか」

「大長老?」


 集まっていた群衆の中からひょっこりと顔を出したのは、ルントウよりもさらに高齢の老人だ。マッシュルームカットの独特な髪形に、積年の風格を漂わせる大きな角。色黒の肌から覗かせる赤色の鱗からみるに、どうやら火竜のようだ。


(大長老ってまさか、ルントウより偉い方がいたのか……)


 カズミは確認するようにちらっとリノアンの方を向いたが、リノアンは冷や汗を流して俯いている。老人なのにこの威圧感、この風格……只者ではないとカズミは直感的に感じる。

 一体何者なのだろう…そう思っていると、老竜は重い口を開けて衝撃の一言を放った。



「ときにルントシュテットよ……。飯はまだか?」


「ずこーっ」

『竜王様!?』


 脱力のあまり古いノリでずっこける竜王様。なんてことはない、この大長老はボケていたのだった。


「大長老様、恐れながら先刻昼食を召し上がったばかりでは」

「うむ、そうじゃったな。で、飯はまだかのう」

「ちょっと! あれほど大長老様(おじいさま)から目を離さないようにと言っておきましたのに!」


 そしてこの扱い、権力者というよりは要介護者のようだった。


「む! 誰じゃお前は!」

「え、僕?」

「さてはおぬし、悪の魔王の手先であるな! サーヤ、こやつを成敗いたせ!」

「大長老様! このお方は我々の頂点に立つ竜王様ですわよ! 悪の魔王の手先などではありません!」

「黙れ! 臆したか! こうなればワシ直々に倒すまで!」

「あーもー、分かりましたわ! やればいいのでしょう、やれば!そ、その…竜王様…………(チラッチラッ)」

「……か、かかってこい、ガオー」


 サーヤからの目配らせで事情を悟ったカズミは、棒読み台詞で襲い掛かるようなモーションを取る。

 サーヤは申し訳なさそうにしながらも「あちょー」とつぶやきつつ、ペチッと音がする程度の申し訳なさそうな威力の空手チョップをカズミに喰らわせた。


「ぐわっ。やーらーれーたー。ぱたんきゅー」


 そして死んだふり。ここまですべて演技とすらいえない完全な茶番だったが、大長老はこれで満足したようだ。


「カッカッカッ! 悪魔の手先よ、竜族の力を思い知ったか!」

「やりましたわー。てきをやっつけましたわー。」

『………………』

「だりぃ」


 死んだような目で勝利宣言をするサーヤに、レーダー以外の者たちは同情を禁じ得なかったという。


「悪は滅びた! これで今日はゆっくり寝れるというものじゃ!」

「そ、そうですね~。今日は激しい戦いでお疲れでしょう、お部屋でゆっくり休みましょうね」

「うむ! 次なる戦いに向けて、しばし英気を養うとしよう!」


「そのまま永眠すればいいのに(ボソッ)」

「はて? 何か言ったかのう?」

「レーダーさん、余計なこと言わないように。あ、いえいえ別に何でもありませんからゆっくりと休んでいてください」


 こうして大長老は氷竜と風竜に連れられて建物の中に戻っていった。一体何がしたかったのか……


「まったく、大長老様も困ったものですわ。……竜王様もう起きていただいてよろしいですわ」

「……いったいなんなのアレ」

「あのお方は大長老ブラグニヒト、正真正銘アルムテンで最高齢の竜族にございます」

「もう少し言わせていただきますと、あの方はわたくしの高祖父にあたりますわ。なんでも初代火竜族長だったとか……」

「高祖父……ひいひいおじいさんか。存在自体が化石みたいな竜だね……。あーやれやれ、こんなんで本当に世界征服なんてできるのかなぁ」

「なーに、竜王様! 俺がいれば世界征服なんてヨユーですよ! ヨユー! とりあえず手始めに北西の獣人族どもをぶっとばしにいきませんか!」

「バカなこと言ってるとまたビーム撃つよ」

「すんません」


(これ、もしかして味方が一番の敵だったりしないかな)


 強大な力を持つ竜族たちの使い方を一歩でも誤れば大惨事になりかねない。



 宴会が始まる夕方まで、カズミはしばらく部屋で頭を抱えた。


ブラグニヒト「ところでリヴァル、飯はまだかのう」

リヴァル「いやだなぁ大長老さん。昨日食べたばかりじゃありませんか」

ウルチ「毎日食わせてやんなさい…………」

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