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竜王の世紀  作者: 南木
序章:ようこそ竜王様
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チュートリアル:神官長と『竜信仰』

今期の一言:「人間の救済のためには3つのことが必要である。何を信じるべきか、何を欲するべきか、そして何をすべきかを知ることだ」

 聖トマス・アクィナス

 竜族長たちとの顔合わせを終え、詳細な戦略会議は明日以降に行うことにしたカズミは水竜のリノアンと族長のルントウを伴って次の場所に移動した。


「ご要望通り、主だった役職の者たちを集めました」

「ありがとう」


 今までいた重厚な会議室から少し離れた大広間に足を踏み入れると、そこにはすでに十数名の『人間』が揃っていた。竜族の代表者だけではなく、共に暮らす人類たちの代表者とも話をしようとカズミがリノアンにあらかじめセッティングを命じていたのである。


 まだ出会って少ししか経っていないが、自然に秘書みたいなことをさせているリノアンはなかなか優秀な女性で、カズミから頼まれたことをそつなくこなしてくれている。

 もしかしたら、今後とも秘書官として取り立ててもいいかもしれない。



「竜王様! わざわざご足労いただきありがとうございます! 我々アルムテンに住む人類一同、竜王様を心から崇拝する所存であります!」

「ああ、うん。楽にしていいよ」


(あーあ……まだこういう頭下げられる状況慣れないなぁ…)


 まだ一般市民(というより軍隊の下っ端)感覚が慣れていないカズミだったが、弱気にならない様せいいっぱい竜王としての存在感を出すように努める。


「とりあえず君たちがどんな役職で、どんな仕事をしてるか聞かせてくれないかな」

「かしこまりました。不肖私、神官長のセムと申します」


 代表としてあいさつを述べる老齢男性の神官長セム。

 年齢は60後半だろうか。髪の毛は完全に白髪で、皺が多数刻まれている顔を見るとルントウよりも年上のように思われる。神官長という官職だけあって、着ている服も白を基調とした威厳のある恰好で、ルントウが持っていた物よりかは劣るものの、そこそこ立派な飾りのついた杖を持っている。


「以下に控えますのが、竜神神殿を代表する神官たちで御座います」

「ここにいるのはみんな神官系の人ばかりなのかい?」

「はっ。我ら竜神官らが、政や催事などを一手に担っております」

「将軍とか騎士貴族階級とかはないのかな?」

「軍事に関しましてはすべて竜様方が取り仕切っていますゆえ。我々人類は日々の暮らしの安定に専念しています」

「ふ~ん、なるほどねぇ…」


(さっそく厄介ごとが一つ増えたか。政治体制は早めに見直さなければ……)



 他国がどのような政治体制を敷いているのかは分からないが、少なくとも今この国の統治機構はかなり遅れていると考えられる。


 この国の厄介なところは、元いた世界の様に人間だけが国を構成しているのではなく『竜族』という圧倒的な力を持つ少数派が、力を持たない『人類』という多数派を支配していることだろう。

 幸いこの国に住む人間は皆竜崇拝を伝統としているため、今の統治システムに疑問を覚えることはないだろう。むしろ、この国を治めるだけで済むなら今の体制のままの方が一番簡単だし効率がいい。だがもし、竜族長たちの念願である

「世界征服」を目指すのであれば、今のままでは大問題だ。

 主義主張も、信仰するものも違う民を支配する労力は想像を絶するものがある。それは元の世界で今なお続く民族紛争という形で証明されているのだ。


「ところで神官の役職はどうやって決めてるの?」

「それについてはワシから説明いたしましょう」


 説明役を買って出たのはルントウだ。


「まず一口に神官と言えども、各竜族の代表たる神官がおります」

「となると7種族の神官がいるということでいいんだね」

「はい。その上で神官の選出基準は竜族ごとに決められています。例えばわが地竜族は最年長の神官が神官長となり、役職もまた年功序列で決められております。神官長のセムはもともと木竜神官の出でございます」


 他にも火竜族や雷竜族は術の最もうまい人、氷竜族だったら世襲制、風竜族は投票制など、選出基準はまちまち。そのため、神官という役職上やはりどうしても年功序列の地竜族がまとめ役に選ばれることが多いのだろう。


 そうして選ばれた各竜族の代表神官が2名ずつ選ばれ、まるで学校の生徒会のような要領で政治をしているのだという。


 まあ要は、古代ギリシャのような政治の仕方である。


 ところでそもそも、竜信仰という宗教についてだが、これはどちらかというと古代日本の神道に似ているところがある。

 昔から人間にとって、自分たちより強い力を持つものを崇拝し、奉ることでその恩恵を受けるという習慣は自然に身につくもので、この世の理を操る竜は人々にとって恐ろしいものながら崇拝の対象にもなる。一方の竜たちも、そこそこの強さとそこそこの知能、その上豊かな創造力をもつ人類はパートナーとして十分な存在だったと言える。

 こうして、重要なことはすべて竜族の意思決定のもとにおいて行われ、人類はもっぱら竜族のサポートに徹しているのである。


 最もこの関係は里単位で暮らしていたころからの延長である。国単位でこれをやるのは少々問題があるだろう。


「よくわかったよ、じゃあ本題に入ろう。さっき各竜族の族長と話してきたんだけど、竜たちはどうも世界征服を望んでるらしいんだよね」

「世界征服……ですか」


 神官長セムはやや難しい顔をする。


「何か不服?」

「い……いい、いえ……滅相もございません! ただ……それなりの準備期間は必要かと思うのですが………」

「それは僕も理解しているよ。それに、世界征服には君たち人類の協力が不可欠なんだ。だからこそ僕が責任をもって君たちを導いてみせるよ」

「ははーっ! 勿体なきお言葉!」

「うん。じゃあ、明日から君たちの仕事ぶりは見させてもらうからしっかり頑張ってね。ああそれと、なるべく若い人の意見も聞きたいから、将来有望そうな若手がいたらどんどん紹介してほしいんだ。よろしく」

「承知いたしました!」


 その後もいくつか神官たちと意見を交わし合うと、こちらも詳しい詰めの協議は後日正式に行うこととした。今日は単なる代表者とのあいさつ程度だ。



「さて……いったん部屋に戻ろう。あの子の様子も気になるし」






「では竜王様、ただいま宴のご用意をしておりますので今しばらくお待ちくださいませ」

「わかった」


 宴会の準備に向かうルントウと別れ、自分の部屋に戻ってきたカズミ。いろいろと考えるところはあるが、かといって今すぐに行動に移すことはできない現状、少し休んで頭をリフレッシュし、万全の状態で明日からの仕事に臨みたい。


 ふと、ベットで穏やかな顔で寝ている紫髪の少女に目をやる。


「竜王様、そろそろこの人間を別の場所に移しましょうか?」

「いや……生贄にしかけた相手だから、ちょっと気になっちゃうんだよね」

「…………左様でございますか。ですが今のままですと竜王様の寝る場所がありません」

「いいよ、僕は椅子で寝られるから」

「あのですね竜王様、そのようなことを私たちが心配しないとでも……」

「ごめんごめん。前々からそういう環境で生活してきたからついうっかり」


 この歳にしてすでにレンジャー過程(精鋭部隊認定の試験みたいなもの)すらクリアした経験があるカズミにとって椅子どころか床で寝ることすら訳ないのくらい図太い精神をしているが、まかりなりにも竜王がそれでは格好がつかない。


 とりあえず、もう一個ベッドをこの部屋に持ち込んでそちらに移すことにした。カズミは何がどうあっても女の子をこの部屋においておきたいようだ。



「リノアン、君も少し休んでいなよ。ずっとつきっきりじゃ疲れるからね」

「かしこまりました。隣室で待機しておりますので、何かあればすぐにお呼び下さい」


 リノアンを部屋の外に出すと、カズミは椅子に腰かけて思索にふけり始めた。この世界に来て一日も経っていないというのに随分と長く感じられる。

 まだわからないことも多く、夢か現実かの区別も確実とは言い切れない。

 それどころかまだ自分の強さもさっぱり把握できていない。


「どうかな……」


 その場に立ちあがって、士官学校時代に習得した武術の型を軽くやってみる。どうやら身のこなしは人間だった時と遜色なく動かせるようだ。しかも、激しい動きをしても息切れ一つしない。

 あとは自分の身体がどれほどのダメージまで耐えられるかも知りたいが、自傷行為をするわけにもいかないのでこればかりは当分不明のままだろう。


「体術を駆使して戦えば、銃とかを持っている相手じゃない限り大丈夫だろう。ただこの世界は術とかあるし、勇者みたいな突然変異種もいたりするから油断はできない。ん~……この世界の戦い方についても学んでおく必要があるかな。剣とか槍とか使えれば、素で戦うよりかは幾分か楽だし」


 ただ問題は、竜たちの中に自分を指導できるくらいの戦闘のプロがいるかどうかだ。竜王は圧倒的な力を持っているらしいが、いくら最初から強くてもずっとそのままの強さでいるわけにはいかない。

 せめて勘違いで殴り込みをかけてきた勇者を返り討ちにできるくらいの強さは欲しい。



「ん?」


 と、ここで窓の外から騒がしい声が聞こえてくる。一体何事だろうと窓辺に駆け寄り外を見たところ……


「おお…………」


 今初めて窓の外を見たカズミだったが、目の前に広がる景色はなかなか絶景だった。高台に建てられたこの建物の周囲には広大な街があり、遠く稜線を形成する山々の頂は万年雪で白く化粧されている。初めて見るのにどこか懐かしい気もする風景だ。


 で、先ほどの騒がしい声は正門から伸びる道を歩く人物を中心に発せられているようだ。まるでどこぞの戦闘民族の如く逆立つ金髪に、イケメンではあるがどこか生意気そうな顔、更には二メートル近い身長など、明らかに普通ではない。逆立つ髪の毛から伸びる黒く鋭い二本の角が、彼もまた竜であることを示している。



「あらレーダーさん。もう帰ってきましたの、お早いですわね。」

「へっ、あんな奴ら俺にかかれば瞬く間に全滅だ! いやー俺TUEeeeeeee!! それよりサーヤ! 竜王が復活したんだって! どんなかんじだ、強そうか!?」

「『様』をつけなさいな! 早く挨拶をしていらっしゃい、無礼のないように」

「へん、言っておくが例え竜王だろうがなんだろうが、俺より弱い奴に頭を下げるのは御免だ。んで、その竜王はどこにいるんだ?」

「竜王様なら……」



「ここにいる!」


 いつの間にか部屋の窓から地上におりてきていたカズミ。

 三階ほどの高さから飛び降りたのだが、五点着地するまでもなく普通に無傷で着地できたようだ。



「なにぃ! こいつが竜王だとぉ!」

「ああその通り。文句あるかい。」


 自分よりもでかいレーダーに対して、カズミは不敵な笑顔で対面した。


雷竜族長レーダー「俺よりも小さいから弱い、そう思っていた時期が俺にもありました…」

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