チュートリアル:長老とのお話『基礎知識その2』
今期の一言:朕は国家なり 『太陽王』ルイ14世
着席した族長たちを見渡すと、和壬は笑顔で彼らに語りかける。
「みんなよく集まってくれたね、封印を解いてくれたこと感謝する。今日までいろいろ苦労したかもしれないけど、おかげで僕はこうしてここに立っていられるんだ。あらためて、お礼を言うよ、ありがとう」
「勿体ないお言葉ですわ竜王様! 長老からすでに話は聞いております、竜王様の精神は異世界から来られたのだとか。ですが、私たちはそのことを承知で全員一丸となって竜王様についていく所存ですわ!」
まず、全身真っ赤っかの女性の竜が元気よく挨拶をする。
「サーヤ、まずは自己紹介をしなさい」
「まぁ、これは失礼しました! 火竜族長のサーヤですわ! ご覧のとおり炎と熱の力を司りますの! 私に触れると火傷しますわよ♪」
「火竜族長のサーヤさんか。元気がいいね」
まず名乗りを上げたのは 火竜族 族長のサーヤ。かなり若く見えるがすでに200年以上生きているらしい。恐らく火竜は最もポピュラーな種族であり、個体数も全体で二番目に多い。炎そのものを操る他、一定空間の熱温を調節することもできる。火傷をしない体質だが、水と寒さが苦手と得意不得意が非常にわかりやすい。
火竜は基本的に陽気で常に元気いっぱいだが、短期で喧嘩っ早い。宵越しの銭は持たない江戸っ子気質。あと全般的に派手好きでもある。
「サーヤ君、そんなにまくしたてたら竜王様が驚いてしまわれるよ。お初にお目にかかります竜王様、私は氷竜族長ウルチ。水氷と冷気を司る、とてもクールな一族で御座います」
「氷竜族長のウルチさんね。確かにクールな感じだ」
続いて 氷竜族 族長ウルチ。気難しそうに見えるが意外とおちゃめな性格である。
氷竜は水や氷、雪を生み出し、火竜とは逆に冷気の方向で温度を操ることが出来る。雪と氷の世界で暮らす彼らは竜族の中では珍しく寒さに非常に強いが、逆に炎や暑い気候が苦手。火竜とはまさに正反対の性質である。常に冷静で落ち着いた佇まいから、振る舞いが非常に優雅に見える種族で反面ややドライなところがあり、感情の起伏が少ない。彼らのジョークは非常につまらないともっぱの噂である。
「僕は風竜族長リヴァル。僕たち風竜は風と音を司っています。空を飛ぶスピードならだれにも負けない自信があります。きっと竜王様のお役にたてると思いますよ」
「風竜族のリヴァルさんか。期待してるね」
三番手は 風竜族 族長リヴァル。穏やかでマイペースな優男風。滅多なことでは怒らない優しさと、即断即決の器量を兼ねた優等生である。
他の竜と違い、元竜の姿は前足に翼膜が付く。彼らは空気を操り、風や音を自在に生み出し、飛翔を得意としている。風竜族は主に険しい地形や標高の高い場所を住処とし、広い場所が好きだが狭い場所が大の苦手で、自由を好み束縛を嫌うなどスタンドプレーでは頼りになる反面組織的な行動は期待できなそうだ。
「ごきげんよう竜王様、海竜族長のシューリエと申します、以後お見知りおきを。私たち海竜族は普段はアルムテンより遠く離れた北方の海域で暮らしていますが、こうして陸に上がることもできますし、できることは何でも致します。」
「海竜族のシューリエさんね。竜は陸だけじゃなくて海にもいるんだね」
海竜族 族長シューリエ。上品な雰囲気のお姉さんで、その胸元は豊満であった。元竜の姿は東洋の竜の様に長大な体躯を持つ。波や潮の流れ、さらには海の天候をも支配する強い力を持つが、陸上ではやや非力。海竜族は竜族の中でもかなり特殊な一族で、大海原で定住場所を持たずに暮らしている。
明るく開放的で、異性に惚れっぽいという特徴がある。気温の変化に強い種族ではあるが、乾燥だけは無理。また、全竜族の中で最も直接攻撃力が低く喧嘩に弱い種族ではあるが、それでも竜族以外になら大抵殴り勝てるくらいの力はあったりする。
「やれやれ、若者どもはもう少しキチッとした挨拶が出来んのか。それがしは地竜族長のベッケンバウアーに御座います。竜王様におかれましては5000年という永い時を経てようやく復活なされたことをお喜び申し上げまする」
「地竜族長のベッケンバウアーさん……と。長老にも言ったけどそんなに畏まらなくてもいいんだよ……」
続いて 地竜族 族長ベッケンバウアー。まんま堅物で秩序を重んじる。ルントウが長老になったため、次点で年長の彼が新たな族長となった。大地の力を司る地竜族は地震を起こしたり重力を操ったりと大規模な術が使える。
元竜になった際も体長はほかの竜族に比べて大きく、寿命も1.5倍くらい長いとか。どこまでも真面目で強い意志を持つが、とても頑固。戦闘力が高く、陸上であればどんな環境にも対応できるが、高所を大の苦手とする。一応飛ぶこともできるのだが、めったにやらない。
「私からも改めてごあいさつさせていただきます。木竜族長のヘンリエッタです。病気やお怪我がございましたらいつでもどうぞ」
「木竜族長のヘンリエッタさんか。さっきはありがとう」
最後に 木竜族 族長ヘンリエッタ。族長メンバー最年長で、何でも知っている博識のおばあさんだ。
自然の力、特に草木に関する力を司る木竜族はアルムテンにおける縁の下の力持ち。食糧生産や医療はすべて木竜族が担っており、個体数も最も多い種族である。基本的に穏やかな一族だが、結構腹黒い一面も持っており侮れない。また、厳しい環境に弱く、暑すぎても寒すぎても空気が汚くても力が出ない。
「ルントウ、これで全員なのかい?」
「それが、雷竜族長がまだ来ておりませぬ」
「雷竜族?」
どうやら6人のほかにまだ来ていない族長がいるらしい。
「ああ、レーダーの奴は来なくていいよ」
「そうそう、あれいるとうるさいし」
「それには俺も同感だが、せめて挨拶位はなぁ……」
ところが、ほかの族長たちの反応は冷淡だった。
カズミは不思議に思い、なぜ雷竜族の族長だけこの場にいないのか、ルントウに尋ねてみた。
「実はですな、雷竜族長は数日前より竜王様の覚醒の儀式を妨げんとする人類の軍勢相手に手勢を引き連れて撃退に行っている最中で御座います……」
「いやちょっとまった、今まさに戦時中だなんて聞いてないんだけど!」
「心配いりませぬ。奴は戦闘力だけなら竜族随一ですからな。」
「そーゆー問題じゃないから! まだ会ったことはないとはいえ仲間が戦闘中にもかかわらずのんびりお披露目会をしている場合じゃないと思うんだ!」
「大丈夫ですよ。先ほど僕に連絡がありまして、もう戦いは終わったから夜までには帰ってくると言っていましたし」
「いいのかなぁ………」
今ここにはいない 雷竜族 族長はレーダーという名前らしい。強いとは言われているのだが、族長たちからはあまりいい顔をされてい無さそうだ。
雷竜族は主に雷と光を司る種族で、アルムテンで夜になると使用される『光源石』と呼ばれる周囲を明るく照らすアイテムは彼らの力が使われている。派手好きで好戦的なため、他の竜族と喧嘩することもしばしば。また、適応力が非常に高い種族であり、たとえ宇宙空間でも生存できるのだが、繁殖力が最も低く個体数が二番目に少ない種族でもある。
「それと、神竜族は現在我々アルムテンと協調する気がないようなので、この場にはおりませぬ」
「全部が全部の種族が集まっているというわけでもないのか」
数ある竜族の中でも 神竜族 は竜王の復活に反対していたらしく、この世界のどこかに引き籠ってしまったらしい。
神竜族は他の竜族が束になってもかなわないほど圧倒的な力を持ち、唯一竜王に対抗できる種族とされている。5000年前に竜王が封印されたのも神竜族が人類の側についたからだと言われている。
「一通り自己紹介が終わったみたいだね。さっそく本題に移ろう。まず君たち竜は僕に何を求めているんだい? まずはそれから聞こうじゃないか」
まず和壬は今後の方針について大雑把に定めておくつもりのようだ。しかし帰ってきた返事はとんでもないものだった。
「もちろん世界征服ですわ!」
「……………………」
カズミは、思わず目頭を押さえる。
「あれ、竜王様?」
目標:世界征服
いったい彼らはどこまで本気なのだろう?
「異世界に来てからすぐに世界征服ね……とんでもない事言うなぁ」
「竜王様のお力に、私の力が加われば世界征服なんて容易いことですわ!」
とてもじゃないが無謀な目標だが、サーヤはなぜか自信満々に胸を張る。よほど考えがあるのか、それとも単純にバカなだけなのか。
「サーヤ、そのような単純な考えでは困る」
「おおベッケンバウアーさん! そうだよね、世界征服だなんて――――」
「ワシが100年かけて詳細に纏め上げたこのスケジュールに沿って、無駄なく効率的に竜王様のご威光をこの世界に広めていくのだ!」
「ちょっとまて! ベッケンバウアーまで世界征服推進派!? 地竜の貴方ならどれだけ無謀だってこと分かっていると思ったのに! っていうか、何その今どこからか取り出した分厚い辞書のような本の山は!?」
止めるかと思われた堅物のベッケンバウアーすら、大真面目に大量の資料を用意して計画を後押ししている始末。
「やだなーベッケンさん、占い師じゃあるまいしそんな計画書作ったところで計画通りに進むわけないじゃないですか~。現に竜王様の復活の儀式だってその予定表より半年も早く成功しちゃったんだし、意味ないと思うんだ」
「リヴァル! おぬしこそ少しは計画性をだな……!」
「君たち。竜王様の御前である。控えよ」
「ぬぅ……」
「あっはは。ほら、言わんこっちゃない」
ここでベッケンバウアーとリヴァルが口げんかをしそうになるも、ウルチが間に止めに入って事なきを得た。
「ですが竜王様には現にそれだけの力がおありなのは確かで御座います。圧倒的な破壊の力と竜人問わず惹きつけるカリスマ、神族にすら匹敵するその器に異世界の知識まで加わりますれば、人類や魔族など赤子の手をひねるようなものかと思われます」
「その力まだ使いこなせてないんだけど…。やっぱ難しいと思うよ。もう少し現実味のある目標立てたほうが」
「何を言ってるんですか。海は私たち海竜族が支配していますから実質世界の6割くらいはすでに征服しているのです。残りが4割ですから意外とあっという間ですよ♪」
「その理屈はおかしい……。そもそも文明の大半は陸にあるんだけど。」
「竜王様! 我々は竜王様のお力を信じておりますぞ!」
「ルントウよ、お前もか……」
正直和壬にとって世界征服なぞ御免こうむりたいところだ。
いくら竜王の力が強大とは言えども、世界を敵に回せば個体数の少ない竜族はあっという間に他種族に潰されてしまうだろう。せめて可能性があるとすれば………各種族との協調平和によって戦いの起らない世界を実現させることくらいか。しかしそれすらもおそらく非常に困難な道だ。
だが和壬は先刻、長老と約束してしまった。竜族たちが一丸となって力を貸すのであれば自分はその思いに応えると。考え方は異なれど目指す先は一緒。ならば自分は竜王として、彼らを導く責務がある。
「ルントウ……。さっきの話では、他種族に平和を脅かされている竜族たちが悠々と暮らせるような国づくりをしてほしい……そういう意味に聞こえたんだけど」
「ええっと……いえ、そのですな…………」
自分を持ち上げておいて、はしごを外すような真似をしたルントウに、和壬は非難がましい視線を向ける。それに対しルントウは、気まずくなったのか、目を合わせようとしない。
「まさか世界征服なんて言う大それたことをする羽目になるとは思わなかったな。族長たちは簡単に言うけど、これは相当無理しないとつらい道のりなんだ。それを覚悟の上で言ってくれてると思っていいんだよね」
「当然ですわ竜王様! 我々火竜族は竜王様に絶対の忠誠を誓いますわ!」
「私たち木竜族はあんまり荒事は好みませんがせんが、この世界をよりよくしていくには竜王様のお力になります」
「………なるほど、君たちの覚悟はよくわかった。」
ここで、今まで戸惑いの表情だった竜王が急にキッとした顔になる。その場で立ち上がった彼は、先ほどまでと比べて数倍の威圧感を伴っており、竜族長たちはその圧倒的なオーラを前に思わず姿勢を正した。
「今から僕は竜王として、絶対的な権力を振るうことになる。当然、政治体制から法律に軍隊まですべて僕が決める。それどころか君たちを無能だと判断すれば
族長を解任するかもしれない。文句があればいつでも聞くけど、いちいち要求を聴くかどうかは僕の判断次第だ。これだけ必死に祭り上げられたんだ、嫌とは言わせないからね!」
『はい!』
族長たちの返事を聞くと、竜王カズミは満足そうにうなずいた。