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竜王の世紀  作者: 南木
第1章:グランフォード動乱
33/37

第22期:第二次竜王討伐

今期の一言:古の善き将は、人を養うこと己が子を養うが如し

     ――諸葛亮

第二次竜王討伐部隊出撃す!

その報を受けたカズミはただちに各部署へ臨戦態勢に移らせた。


「気負うことは………ない。みんなの力を合わせれば、苦ではないはずだ」


 珍しく自分以外誰もいない執務室。カズミは椅子からスクッっと立ち上がり、自分の顔を跡が残らない程度の強さで、両手でペシペシ(はた)いて自らを鼓舞した。まるで子供の様だなと自嘲しながらもその目はすでに不退転を示すように活き活きとしていた。


 今回の戦いは、今までとは違いカズミ自身の手ですべてを主導していくことになる。ゲームでいえばチュートリアルが終わり、これからいよいよ本編といったところか(最もこの小説のチュートリアルはとっくに終わっているが)。

 相手は教皇領の聖軍およそ2000人と後ろに続くカルディア聖王国軍約80000人………そのうち前者は1人で100人を相手できると評される文字通り一騎当千の勇者たちであり、後者に至っては文字通り桁違いの国力と技術を持つ超大国。

 これらの大攻勢をしのぎ切れる国はおそらく世界を見渡しても、まずありえないと断言できるほどである。いや、下手をすればグランフォード大陸にある国が総力を結集しても勝利はおぼつかないだろう。

 そんな強敵を、この世界に来て半年もたたないうちに相手しなければならないのだから、カズミとしてはさぞかしやりがい以上のものを感じることだろう。


 だが、勝ち目のない相手ではない。彼はそう確信している。


 ふと執務室の窓の外の景色を眺めてみる。

 はじめのうちは、趣があるとはいえゴチャゴチャしていて整然としない城下町が、ウルチをはじめとする内政官たちの粉骨砕身によって、主要幹線道路の建設が始まりそれに合わせて街並みもピシッと整うように並び始めていた。

 目には見えない変化として、上下水道の整備も並行して行われ始めていて、アルムテンの衛生状況は僅かの日数で劇的に改善している。ここからではよく見えないが、住民たちの誰もが笑顔で生活を送り、働き手たちは尊敬する竜王様のためにと、暑い中必死で汗を流している。




 コンコンッ


「竜王様、すべての準備が整いました」

「ん……」


 ノックの音と共に、リノアンが入室してきた。

 その手には、いつもより多くの書類を束ねた革製のバインダーを抱えている。


「シズナ様も、リヴァル様も、ベッケンバウアー様も、セルディア様も……大広間に向かっております」

「よし、行こうか。僕もルントウにすべて引き継ぎが終わったし…忘れ物はないよね」



 執務室を後にしたカズミは、リノアンに従って廊下を渡って三階中央の大広間――かつて竜王復活の儀式が行われた場所に足を運んだ。そこにはすでに、今や妃となったシズナや風竜族長リヴァルなど人竜あわせて約300人が待機していた。 だれもが多くの荷物を抱えており、手ぶらな者は誰一人としていない。


「お待ちしておりました」

「ああ、待たせたね。シズナさんも準備はいい?」

「はい! 私の一世一代の見せ所ですっ! やる気は十二分ですよ!」

「………この先何回もやってもらうかもしれないんだけどね。まあいいや、早速はじめようか」


 これほどまでに大勢の者が集まっているのはなぜか。それは…今から竜王の力を使って、この人数をいっぺんにワープさせようというのだ。

 シズナとカズミの懸命な術練習によって、ようやく完成した『空間跳躍術』は使用者の負担がほかの竜術とは比べ物にならないほど大きく、制御も難しかった。だがシズナとしてはせめてこれだけは何としても使えるようになりたいと、自身の体の負担を克服すべく訓練に訓練を重ねた。その結果のお披露目が今まさに行われるのである。


「カズミ様。力をお借りします」

「うん――」



 竜王の力の行使―――カズミの体の中にある力は、なぜかカズミが自分で操ることが出来ない。いや、力の行使自体は練習を重ねて若干できるようになったが、コントロールができず下手に使うと暴走してしまう危険があった。

 一度、空間跳躍術をカズミひとりでやろうとしたところ、空間がほかの場所につながるどころか、アルムテンのほぼ全域が一時的に闇に呑まれて下手をするとすべての生物が窒息死するところであったという。それからは、術を行使するときは必ずシズナと共にいることを心掛けている。


 一方で、シズナの術行使の上達はとても素晴らしかった。

 彼女は他の竜の竜術は全く使えなかったが、竜王の力だけはまるで生まれた時から体が覚えているかのようにフィーリングだけで力を自由自在に操って見せた。

 そして……今回のお披露目でも、術を難なく成功させた。不可視の力で空間を歪ませ、数秒後には見事グレーシェン首都アールズの政府庁舎の玄関先に繋げてしまった。



「こ……これはすごい……戦争は変わるぞ……!」

「あはは……さすがは竜王様ですね。僕たち風竜はそろそろお役目御免……かな?」

「驚くのは分かるが、はよゆけ。後ろがつっかえておるのじゃ、竜王様に余計な負担をかけさせるでない」


 別の空間同士をつなげるという奇跡を目の当たりにし、驚くセルディアとリヴァル。驚きのあまり足が止まる二人を地竜族長ベッケンバウアーがせかすが、ベッケンバウアー自身も内心は竜王カズミの力に驚きを隠せなかった。


(わしら地竜は飛べぬゆえアルムテンから出ることはなかなかなかったが……この術があれば我らも外の世界で竜王様の御役に立てるかもしれぬ)



 驚いたのはアルムテンの者たちだけではない。出口にあたるグレーシェンでは、門を警備していた衛兵たちの目の前に、急に穴が開いたかと思ったらなんとその向こうから竜や人がぞろぞろと出てくるではないか。こんな光景を見せつけられて、驚かない方がおかしい。現に、その場にいた兵士たちは一様に腰を抜かしていた。



「じゃまするよ」

「く………クーゼさま!大変です!竜たちが突然何もないところから現われました!」


「な、なんだって!?」









「まったく竜王様も人が悪い…。いきなり人の家の庭に予告なしで乗り込んでくるとは……。」

「あっはははは、ごめんよ♪」


 てへっ、とわざとらしく舌を出し、おちゃめなふりをするカズミ。彼とクーゼとのやり取りで、初めから参加者たちは和やかな雰囲気に浸ることが出来た。


 ここは、グレーシェン首都アールズにある政府庁舎の大広間。その顔触れは先ほどカズミと一緒に来た竜たちに加えて、属国の領主たちも混ざっている。

 ただしエオメルだけは、領主クリンクが老齢のため代わりにスターラが代表として出席していた。彼女が持ってきた新種の茶葉から注がれた茶と、パーティーすら開けそうなくらい大量の茶菓子が用意される中、和やかな雰囲気につつまれて会議は始まった。



「さて、皆も知ってのとおり教皇庁が『僕』の討伐に向けて動き出したという報告が入った。名目上は竜族だけを討伐するつもりらしいけど、恐らく君たちの領土も無事では済まないはずだ」

「それで……? 竜王様は俺たちのことを守ってくれるおつもりですかい?」


 ブランドル領主ゼーレが茶々を入れるが、カズミは気にせず続ける。


「当然さ、竜族たるもの庇護下の人間は体を呈してでも守るんだ。君たちの領土には指一本も触れさせないと約束しよう」

「ええっと、前回の討伐戦の時には竜族さんたちは自分たちのテリトリーの山岳地で戦ったんですよね? 険しい地形で相手をほんろうできたからこそほぼ無傷で勝ったって聞いてますけど、相手を領土に入れないってことは……今回は平地で相手を迎え撃つってことなのでしょうか?」

「ああそうだ」

「しかしそうなると、いくら竜とはいえ厳しい戦いになるのではないですか? 以前……イスカ攻略の際に損害を出していましたし、さらに今回の相手はあの教皇庁……」


(………やっぱり、いくら取り繕っても不安でたまらないよねみんな…)


 不安を率直に口にするスターラだが、彼女だけではなく領主たち全員も少なからずそう思っているに違いない。いくら口で出来ると言い聞かせてもこれだけはどうしようもない。イスカでの失態もまだ彼らの記憶から抹消されてない以上、完全に安心させることはまず不可能だろう。



「なるほど君たちの不安はもっともだ。敵は確かに今までになく強大だし、その上神様の代行者たちでもあるわけだから、今でも神様たちへの感謝の気持ちを忘れない君たちにはとっても戦いにくい相手だと思う。だからこそ、僕が君たちの新たな守護者であるということを証明する必要がある。はっきり言おう!今回の戦いはアルムテンだけが矢面に立とう。一緒に戦いたいなら止めはしないけれど、君たちの参戦義務は一切ない。むしろ、後方で自分たちの守りを固めておいてくれると安心だ。それを踏まえて、今回の戦いにおける作戦の趣旨を説明したい」

『……………』


 領主たちはまたしても顔を見合わせたが、今は黙ってカズミの話を聞くことにした。


「セルディア、頼んだ」

「かしこまりました。それでは皆様、こちらの図をご覧ください」


 カズミから作戦説明を任されたセルディアは、テーブルの上に周辺国家が記載された地図を広げる。


挿絵(By みてみん)


「ご覧のとおり、我らの同盟の中で敵性国家に隣接しているのはゼーレさんのブランドルのみ。ブランドルは天然の良港を要する地ゆえ、補給のための中継拠点を得るべく、相手もまずここを狙ってくる可能性が高いかと思われます」

「まあ覚悟はしていたが………俺の領土が前線になるとはな」

「と、思いがちですが、今回は敢えてそれを事前に阻止します」

「なんと」


 セルディアがブランドルとシエナの国境を指差す。


「シエナ王国テレスト伯領とブランドル領サンサーンス村地方の中間地域……つまり両国間の国境地域ですが、この地は湿地帯ゆえに大雨が降ると通行が困難になります。それを利用し――――この一帯を術で冠水させることにより相手の進路を妨害するのです。何しろ相手は大軍ですから、冠水した湿地帯を通過するリスクは並みならぬものとなるでしょう」

「なるほど………海竜術を使えばそんなことわけないし、敵さんへのけん制にもなるわけだな」

「仮に強引に突破しようものなら、それこそ我らのチャンスでもあるしのう。奴らは重装備ゆえ、泥水にはまって満足に動くこともできぬであろう」

「そうです。相手がよほど無謀な指揮官でなければ、このあたりで進路を変更し、シエナと紛争中のオーヴァン領を抜けてオデッソスかグレーシェンへ抜けるでしょう。最短距離を目指すのであればグレーシェン、安全性を重視するのであればオデッソスといったところでしょうか。」


 地図に、赤いインクで矢印が書き加えられていく。


「本来であれば、聖軍はオーヴァンへの通行許可は取っていないはずです。まあ……とってあったとしてもどのみち同じことですが、それでも彼らは最終的にこのルートかこのルートを選ぶこととなります。よって、我らアルムテンは中立であるオーヴァン領で敵を迎え撃ち、こちらへの被害を人的資源のみにとどめる形を取りたいと考えております」


 更に赤インクで二か所、丸印を書き足す。

 本来であれば関係ない国の領土で戦闘を行うのはご法度であるが、敵対者に道を貸したとなれば、敵対の意思があるとみなすのには十分である。それに現在オーヴァンは他国と戦争中であり、こちらにかまっている余裕は殆どないだろう。


「こうして敵の動きを制限し、主導権を握った状態でこちらから戦いを挑むのです。この作戦のために、竜王様はアルムテンが繰り出せる戦力のすべてを投入する予定です。本来であれば前回と同じようにアルムテンの山岳地帯を主戦場にすれば、勝利はより確実ですが……竜王様はわが同盟国はすべて自分の身体と同等であり、傷つけられるのは許せないとのこと。領主の方々には、どうぞご安心願いたい」

「………信用していないわけじゃない。だけどね、僕たちは君たちのことをかなり強引に仲間にしたことは承知している。だからこそ、僕は皆のことをきちんと守れることを証明しなくちゃならない。この戦いに無理に参加してほしいとは言わないし、戦争税を徴収するなんてこともしようとは思わない。けれども、もし………僕に力を貸してくれるのなら、それ相応の見返りを与えると約束する。ぜひ君たちに、自分は何が出来るのかを言ってみてほしい」


「何言ってるんですかぃ竜王様、俺たちグレーシェンはいつでも竜王様の味方ですって! カルディアのウスノロ軍隊は俺の騎乗術士部隊(エスメラルダ)におまかせ、忘れないでくださいよっ!」


「陣地構築用の資材でしたらわがオデッソスがいくらでも用意できますゆえ、ぜひお使い願いたい」


「ブランドルが前線じゃなくなった?冗談じゃねぇ、奴らの船は皆俺たちが沈めてやる。そのかわり……奪った積荷は全部貰ってもいいよな。それくらいは正当な報酬だとおもいますがね?」


「あ……あのっ! 食べ物とお茶ならたくさん用意できますから、どうか仲間外れにしないでくださいっ!」



「…………ありがとう。みんなのことは絶対に守って見せるから」


 アルムテンとその属国たちはこの場で改めて団結を誓った。心の中ではどう思っているのかは定かではないが、少なくとも表面上はしたがってくれている。あとは、この状態が常に続くように。そしてゆくゆくは…………



「よーし、そのためにはまずこの星マークを付けた場所に、拠点となる砦を――――」













 同じころ―――

 カルディア聖王国、交易センター都市ファルサポリスにて。




「ほれ、一杯やれよ。故郷の味だ」

「ありがとう、やっぱ俺にはこれくらいの安酒の方が性に合ってるな」



 空に浮かぶ三日月の光だけが照らす暗い部屋の中で、二人の男が酒を飲み交わしていた。一方は長い金髪に陶器のような白い肌の男性、もう一方は彫が深い顔が特徴のやや肌が浅黒い男性。お互い、やや疲れたような表情をしながら、山と盛られたチーズを肴にしんみりと話を続ける。



「引き継ぎは終わったのか」

「あらかたはな。元々俺が率いるつもりだった編成だ、万が一にも抜かりはないだろうし、余裕もたっぷりともたせてある」

「よくやるぜ……上の連中は分かっちゃいないが、お前はこうなることを見越してあらかじめ各地から余剰分を動かして、あっという間に準備を整えちまうんだから恐ろしいもんだ。昔からおまえは剣一辺倒だと思っていたが、そっちの才能まであるなんて、全く神サマは依怙贔屓(えこひーき)しすぎだぜ。少し俺にも分けろよ」

「分けてもお前に受け取れるとは到底思えん」

「なにょう」

「はっはっは…まあなんだ、買いかぶり過ぎだ。俺だって必死なんだからな……剣一辺倒で生きていけたらどんなに楽なことか」

「アルレイン……」


 金髪の男―アルレインは、いつまでも続くかと思われた多忙な日々から今日ようやく解放されたところだった。

 第一次竜王討伐体が敗北したとの報を受けて、元老宰相からすぐに第二次討伐体を編成せよとの命令が下ると、ただでさえ業務が山積みしているのに三か月以内という無茶なスケジュールで大規模な軍事を余儀なくされた。睡眠は三日に一度、それもたったの四時間。

 当然家に帰ることが出来ないため、執務室が実質彼の生活の場となった。それでもなお彼が倒れずに仕事を続けられたのは、優秀な聖術士(ヒーラー)を複数雇って無理やり回復魔法をかけまくるという、なんともすさまじい方法が可能であったからこそだ。そしてつい先日ようやく用意が整い、あとは出陣の号令を待ちながら酒でも飲んでゆっくり寝て過ごそうとした矢先………彼の努力をほぼすべて水の泡にしかねない命令が国王から下されたのだった。



「その点流石は国王陛下だ。俺が疲れてるってことを理解していただけたのか、バカンスを用意してくださると来た。有難いねぇ……ありがたくて俺は目から鼻水が出てきそうだ」

「わかったわかった、疲れてるんだから無理スンナって。皮肉の一つや二つ言いたいのは分かるが、妙なこと言わないでくれよ」



『南方属州の反乱軍討伐に向かえ』


 直前になってまさかの配置変更…しかも、討伐軍は組まれていないため1から編成し直しである。この指令を受け取ったアルレインはあまりの仕打ちに、どうリアクションしていいかわからなかったという。

 反乱軍の討伐など彼にとってはまさに慰安旅行(バカンス)ていどの難易度でしかない。妹の初陣に付き添い、あわよくば竜王をこの手で討てるかもしれないという希望こそが、彼を激務に駆り立てた原動力であったのだ。なのに結果的に自分は、体よく上層部の代わりに面倒な仕事を引き受けただけに過ぎない。

 これがもし遠足ならば、遠足自体よりも遠足の準備の方が楽しいとのたまう者もいるだろうが、軍隊の編成だけしてれば満足という奇特な者は果たしているかどうか。

 当然、勝ったからと言って給料が増えるわけでもなし、なのに負ければ場合によっては軍を編成したアルレインに責任の一端という名のとばっちりが飛んでくる可能性がある。日ごろの激務で政治的な根回しを全くしていなかった自分が悪いと言えばそれまでだが………



「ふん、まあいいさ。俺はまだ若いし、今後いくらでもチャンスはあると割り切っておくとしよう。そのかわり………貴様が俺に代わって勲功を立ててくればいい。それぐらいわけないだろう」

「言ってくれるぜ。まぁ、今回は総司令があの嘘つきシシュポスと臆病者アスパシアのコンビほど無能じゃねぇのがまだマシか。これでレヴァン先輩もいてくれりゃ文句なかったのによ!」

「その分活躍の場が増えて目立つと思えばいい」

「おっと、言われてみれば確かにそうだ」

「俺の分まで暴れてきてくれよ、戦友」

「おうとも」


 二人はコツンと、ささやかに盃を交わす。

 アルレインの親友である彼――メネラオスは、今回の竜王討伐には乗り気ではなかった。むしろ、恐怖さえ抱いているといってもよい。前回の討伐の結果は彼の耳にも入っている………満を持して投入した聖軍や勇者パーティーは文字通り全滅し、誰一人として生きて帰ってこなかった。

 彼の武術の師である勇者レヴァンも、あの日送り出したのを最後に戻ってこない。それどころか派遣したホプリタイ軍団も、最後に残ったのは戦場に投入されることなく護衛任務だけを任された新米兵士ばかりで、あとは百人隊長トライアノスなど奇跡的に助かった熟練兵が片手で数えられるほど………軍を率いていた責任者のうち、総司令官のシシュポスは敗戦の責任を追及され、先月に本国へ帰ることなく現地で処刑された。


 史上まれにみる大惨敗の直後、準備期間が十分に取れないまま行われることとなった今回の討伐戦は、親友であり、かつ彼が知る中で最も強力な人間であるアルレインが指揮を執るというので、ならば自分もと参戦を決意したのだ。

 ところがそのアルレインが急に異動となってしまった。自分は一体何を頼ればいいのか……?


 だからこうして、恐怖を和らげてもらうためにわざわざ彼を酒の席に誘った。いつも強気で、武骨なメネラオスだったが、今回ばかりは彼に勇気づけてほしかったのだ。アルレインもその心を汲んでくれたのか、冗談混じりながらもきちんと励ましてくれてている。



「ふふ、いい顔になってきたな」

「?」

「貴様…自分でわかってなかったかもしれんが、さっきまで泣きそうな顔してたぞ。それほど俺と別れるのが嫌か? なんてな、あっはっはっはっは!」

「あー、いや……そんなもんかな?」

「貴様は笑顔が一番似合う男だ、辛いときは命一杯笑えよ!」


 情けない顔をしていたことを指摘されたからなのか、彼は素面から急に赤面してしまった。


「それと、俺の妹……テミスのことも頼んだ」

「任せとけって」


 男二人だけの酒宴は、日付が変わるまで心置きなく行われた。


登場人物評


スターラ  防衛術士見習い5Lv

14歳 女性 人間(エオメル人)

【地位】領主代行

【武器】樫の杖

【好き】お茶会

【嫌い】宴会

【ステータス】力:1 魔力:9技:7 敏捷:3 防御:0

退魔力:11 幸運:4

【適正】統率:D 武勇:F 政治:B 知識:E 魅力:C

【資質】火 氷 風 土 木 海 雷 神 暗

    ○ ― ― ○ ◎ ― ○ ― ―

【特殊能力】なし


 エオメル領主クリンクの補佐を務める防衛術士。

生まれも育ちもエオメルの森の中という自然に恵まれた環境で育ち、幼いころから森の精霊と言葉を交わしていたという。彼女の家は先祖代々精霊術使いの家系であり、とくに花木の精霊の行使に長けていた。しかし精霊術士の需要がほかの国々で高まるにつれて、次第に一族は富と栄誉を得るため田舎であるエオメルに見切りをつけて離れて行ってしまう。その中でスターラは、最後までエオメルの自然を愛し、一生を防衛術士として生きていくことを決意したのだった。


いろいろ未熟だった彼女だが、木竜たちと出会って交流していくうちに何か影響を受けたらしく、年相応にお洒落や趣味を覚えるようになってきている。他人と楽しみを共有するのが好きらしく、お茶もお菓子もみんなで分け合うことを好む。ただし、お酒は大の苦手なようで、特に酔っぱらいの相手は絶対にしたくないらしい。


資質:木の術資質が強いのは当然だが、意外とほかにもまんべんなく素質を持っている。実は精霊術使いの資質と竜術の資質は似ているため、優秀な精霊術士は同時に優秀な竜術士になれる可能性を秘めている。


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